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願いの行方〜タクミとヴァプラの場合

人と悪魔と混沌と

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 世の中が荒れると、悪魔がほくそ笑むと思われているがそれは大きな間違いだ。
私利私欲に取り憑かれ、他者を虐げ騙し、殺し合い奪い合う。
本能と欲望に何の理性も持たずに獣以下の凶悪な残忍性で醜態を晒す。
 確かに悪魔の好む人間の精神状態だ。
だがそれも行き過ぎれば衰退を生む。
 それがなぜかと言えば、鷹と鳩。
少ない鷹に大勢の鳩が蝕まれるからそこに巨大な恐怖と絶望が生まれ、悪魔たちは快楽を得るのだ。
 しかし全てが鷹になってしまったら?
それでも鷹同士で互いを引きちぎり合う。
混沌はなくなったりはしない。
 けれど、たくさんの無知で弱い大勢の鳩が混沌の中で悶苦しむエネルギーに比べれば、それは腹を満たすには少々物足りないものだと言えよう。
確かに鷹同士で殺し合うエネルギーは純度が高い。
しかし、質より量という場合もある。
たとえどんなに高級で繊細な料理であっても、腹ぺこで満腹になるまで貪り食いたい時には不満が漏れると言う事だ。

 はじめにその煽りを食らいだしたのは、予想に反して力強き悪魔達だった。
強い悪魔。
その分、必要とするエネルギーが大きかった。
 はじめのうちは良かった。
より強い力が欲しいと悪魔を崇拝する者が耐えなかった。
生贄が与えられ、その器として体を差し出す者もあり、操る手駒の数にも事欠かなかった。
 しかしだ。
人間というのは寿命がある。
たとえどんなに力を与えても、その器はやがて滅びる。
そして混沌の中、繰り返される理性も知性もない残忍な暴力。
 やがて悪魔がどうこう関係なく、それが本質であり当たり前になっていく。
人々の中から悪魔という思考が失われていく。
 そこに来てはじめて悪魔は気づいたのだ。
人の残忍性の中に悪魔がいるのではない。
残忍性を求める心の中に悪魔がいるのだと言う事に。
世が荒れ、衰退していく神たちをあざ笑っていたが、悪魔とてそう変わりない存在だった。

 神も悪魔も、人の心が求める事でその存在と強さを得ていたのだ。

神も悪魔も、人を侮りすぎていた。
彼らには何の力もない。
自分では何一つ決められず、誘惑に弱く、そして何かすれば後悔に打ちひしがれ助けを求める。
軟弱でひ弱な存在、それが人だと思っていた。

 だが、彼らにも力があった。
神や悪魔にはない力が。

想像力だ。

人の心は無尽蔵に想像を生み出す。
恐怖であれ希望であれ、無尽蔵に生み出す力があった。
無尽蔵に生み出す力がある故、人には寿命があった。
それを止める方法として、彼らは一定期間しか生きられないのだ。

 そして神も悪魔も、人が無尽蔵に生み出すその力をエネルギーに依存していたのだ。
だから希望を想像しなくなれば神は弱体化し成りを潜め、恐怖と残忍性を求めなくなった事で悪魔はエネルギーを得られなくなった。

 世の中は敗退し、知性も理性もない暴力が当たり前になった。
そこには神も悪魔もいなかった。

 だが、寿命のないそれらは消えた訳ではない。
存在を維持し、どうやって自分の存在と力を取り戻すか考えていた。
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