音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ねぎ(ポン酢)

文字の大きさ
83 / 105
短編(1話完結)

ピーターパンには会わなかったけれど……。

しおりを挟む
幼い頃、ピーターパンには会わなかったけれど、変なものには会った事がある。

記憶に残っている一番初めの怪奇体験。
夢だったのかなぁとも思うけれど、当時の事で他に憶えている夢はない。
そしてリアルにそのモノの姿を憶えている。
その音を憶えている。





それは私が保育園などに入る年齢よりも前。
まだ祖父母宅の離れに住んでいた時の話。

離れと言っても別に祖父母宅はお屋敷じゃない。
普通の平屋のお家で、離れっていうのはプレハブ小屋をちょっと立派にしたみたいな建物で、多分、両親が家を立てる資金が貯まるまで臨時で住む為のものだったのだと思う。
トイレはあったけどお風呂はなくて、祖父母の家に入りに行って、流しやコンロも1つあったけど台所って程でもないから、ご飯は三食、祖父母宅で食べる。
つまり、ホント寝るだけのプレハブ小屋にみたいなやつだったのだ。



ある夏の日の夜、私は二段ベットの下、網戸になっている窓の横で寝ていた。

時間はさほど遅くはなかったと思う。
私と上の兄弟が寝かされて、離れに親の姿がなかった事を考えると、恐らく22時~23時ぐらいだったのではないかと推測される。

一眠りした私はふと目を覚ました。
なんでかはわからない。
風があまりなくて暑かったのかもしれない。
上半身を起こしてぼんやりと網戸を見ていた。
網戸のすぐ外は生け垣になっていて、その他は何も見えなかった。

急に生け垣の葉がさやさやと音を立て始め、風に揺れた。
それがだんだん強くなって突風が吹くみたいにガサガサ鳴った。
その時、頭上を赤い光が点滅しながら通った。
それと同時に風も弱まり、また風のないなんの音もしなくなった。

何だったんだろう?
飛行機かな??

そんな事をぼんやり考えていた。
でもそのうち飽きて、寝ようと思って横になろうとした時、また生け垣の葉がガサガサ鳴り始めた。

今度のは風じゃない。
何かがプレハブ小屋と生け垣の間を無理に通ってる音だった。

子供というのは不思議なもので、その状況を怖いと思わない。
どう考えたって、そんな夜中に家と生け垣の間を無理に通ってくるものがあったなら、ヤバイもののはずなのに。
その時の幼い私は、ただ不思議に思って、それが姿を表すのをじっと待っていた。

そしてそれは現れた。

窓の外。
網戸の向こう。
プレハブの家と生け垣の間に、それは現れた。

傘おばけだった。

しかもただの傘おばけじゃない。
ブリキ(?)でできた傘おばけだった。
トタンなのか何なのか、左側に継ぎ目があって、ボルトで固定されていたのをよく覚えている。

それは窓いっぱいに見えるくらい大きかった。
金属製の傘おばけは、目がペンキで描かれたみたいに見えて、私はそれを不思議に思いながら見上げていた。

全く怖くなかった。
変なものがいる、と思ったくらいで感覚的には着ぐるみの何かくらいの感覚だった。

ぼーっとそれを見上げていると、それは言った。




「ウルトラマンはどこに行った?!」



はっきりとそう言った。
男の人っぽい声だった。

私は考えた。

普通に考えればウルトラマンなんている訳がないし、そんなものがどこに行ったと聞かれたってわかる訳がない。
しかしその時の私は一生懸命考えた。
何とかこの傘おばけの質問に答えて助けてあげなければと思ったのだ。
子供って純粋だよな、と今は思う。

そしてふと気づいた。

先程の突風はウルトラマンではなかったのだろうか?!
あの赤い点滅はカラータイマーではなかったのか?!

急にピコンッと自分の中で閃いて、物凄くテンションが上がった。
だって、傘おばけの質問に答えてあげられるし、自分はさっき、ウルトラマンが通ったのを目撃したのだと思うと、物凄くはしゃいでしまった。



「あっち!!あっちに行った!!」



私は嬉しくて、大きな声で答えた。
そしてその方向を指差す。




「ありがとう。」




傘おばけが言った。
ウルトラマンを追っている割に、律儀なおばけだった。

そしてまたガサガサ言わせながら、家と生け垣の間を抜けて行った。
体が大きい分、その隙間を移動するのが大変そうで、子供心にもそれはちょっと間抜けだなぁと思って見ていた。

今思うと、ウルトラマンを追っているのだから悪役だったのかもしれないが、その時の私は傘おばけを応援していて頑張ってね~!と思いながらカサカサ音が止むままで起きていた。
音が消えると、今日はいい事したなぁと物凄く満足して眠りについた。

次の日目覚めて一番始めにした事は、プレハブの家と生け垣の間を見に行く事だった。
見に行くと、正直、子供の私でも通るのが厳しい隙間だった。
よくここを力士みたいに大きい(力士は見た事はないが)ブリキの傘おばけが通れたなぁなんて考えていた。
そしてそれから数日は、またあの傘おばけが来ないだろうかと待っていたが、やがて忘れてしまった。




大人になって、ふとその事を思い出す。

正直言おう。
あれは怖い体験ではなかった。

物凄い楽しい体験だった。

子供だし、夢だったのかもしれない。
でもはっきりと覚えている。
あのツギハギのある金属製の傘おばけを。
生け垣の音を。
頭上を通り過ぎた赤い光の点滅を。

今はもう、あのプレハブの家も、祖父母の家もない。

それでも私の記憶の中に、それは今でも息づいているのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...