3 / 10
書き初め
しおりを挟む
猫を追いかけていくと、細い竹林の道の奥に立派な日本家屋があった。
やはり茅葺き屋根の家は農業用の小屋だったのだろう。
私は一安心してその家の前に立った。
呼び鈴を探したがどこにもない。
引き戸に手をかけると不用心にも鍵がかかっておらず、私は少し開けて中に声をかけた。
「すみませ~ん……。」
ガランとした室内。
中は旅館みたいに綺麗に整っている。
広いお屋敷のようだから、小さな声では聞こえないかもしれない。
「すみませ~ん!!どなたかいらっしゃいませんか~っ!!」
私は声を張り上げて中に向かって叫んだ。
でも、相変わらず中は物音一つしない。
鍵は掛かっていないが、留守のようだ。
「……どうしよう……困ったな……。」
これから他のお宅に向かうのも億劫だ。
でもだからといってじっとしている訳にも行かない。
冬の夕暮れは早い。
あっという間に真っ暗になる。
早く誰が見つけないと。
そう思っていた時だった。
チリン。
足元で音がした。
顔を向けると小さな子猫が足の間をすり抜けて、家の中に入って行く。
「あ!猫ちゃん!!」
見失ったと思っていた猫。
とてとてと勝手知ったる顔で中に入って行く。
「猫ちゃん!お願い!誰が呼んできて~っ!!」
藁にも縋る思いで私は猫に声をかける。
子猫はとて、と立ち止まり私を振り返った。
「!!」
ぎょっとした。
私は慌てて鞄を見る。
そしてすぐまた猫を見た。
チリン。
猫はまた鈴の音を響かせて奥に歩いていく。
私は慌てて玄関の引き戸を大きく開いた。
「待って!!それ!!持って行かないで!!」
思わず声を荒らげる。
そのせいでびっくりしたのか、子猫は足早に中に消えていく。
私は思わずそれを追いかけた。
「すみません!!お邪魔します!!猫ちゃんが!!猫ちゃんが大事なもの持ってっちゃったんです!!すみません!!お邪魔します!!」
私は靴を手に猫を追いかける。
あれは駄目だ。
あれだけは駄目なのだ。
私は必死になって猫を追いかける。
それは、小さなうさぎのぬいぐるみ。
鞄につけていたのに取れてしまったのか、猫が咥えて持っていってしまった。
「すみません!!誰か居ませんか?!猫ちゃん捕まえてください!!お願い!!猫ちゃん!!それは返して!!こっちのあげるから~!!お願い~!!宇佐美くん返して~!!」
子供の頃、干支のぬいぐるみを貰った。
宇佐美くんはうさぎ。
私は龍だった。
でも私はうさぎが欲しくて大泣きしたのだ。
龍なんか嫌だって、うさぎがいいって。
宇佐美くんは困った顔で笑って交換してくれた。
それからそのうさぎのことを「宇佐美くん」と呼んで大事にしてきたのだ。
「もう!!どこ行ったのよ?!」
なのにそれを咥えて持っていってしまった猫を見失った。
私は泣きそうになりながら、家の中を探す。
「すみません!お宅の猫ちゃんが私のうさぎを持ってっちゃったんです!!誰か居ませんか?!大事なものなんです!!」
しかし家の中は誰もいない。
人が住んでないという感じでもないのに。
ふと、ある部屋に目が行った。
どうしてかはわからない。
中にはいると習字道具が揃えてあった。
まるで今から使いますよという感じに準備万端。
「……何だろう?……『ワタシヲカキゾメテ』??」
そこに置いてあったメモ。
ワタシヲカキゾメテ……私を書き初めて??
どうやら書き初めをするものらしい。
まだ年を越してないのに気が早いな??
そう思ってみていたが、どうしてだかそれを書かなければならない気がしてきた。
私は導かれるように筆を取り、用意されていた和紙に文字を書く。
どうしてそんな事をしたのかわからない。
でも、やらなければならないと思ったのだ。
「……よし!!」
私は書き上げたものを見つめ、満足げに微笑んだ。
やはり茅葺き屋根の家は農業用の小屋だったのだろう。
私は一安心してその家の前に立った。
呼び鈴を探したがどこにもない。
引き戸に手をかけると不用心にも鍵がかかっておらず、私は少し開けて中に声をかけた。
「すみませ~ん……。」
ガランとした室内。
中は旅館みたいに綺麗に整っている。
広いお屋敷のようだから、小さな声では聞こえないかもしれない。
「すみませ~ん!!どなたかいらっしゃいませんか~っ!!」
私は声を張り上げて中に向かって叫んだ。
でも、相変わらず中は物音一つしない。
鍵は掛かっていないが、留守のようだ。
「……どうしよう……困ったな……。」
これから他のお宅に向かうのも億劫だ。
でもだからといってじっとしている訳にも行かない。
冬の夕暮れは早い。
あっという間に真っ暗になる。
早く誰が見つけないと。
そう思っていた時だった。
チリン。
足元で音がした。
顔を向けると小さな子猫が足の間をすり抜けて、家の中に入って行く。
「あ!猫ちゃん!!」
見失ったと思っていた猫。
とてとてと勝手知ったる顔で中に入って行く。
「猫ちゃん!お願い!誰が呼んできて~っ!!」
藁にも縋る思いで私は猫に声をかける。
子猫はとて、と立ち止まり私を振り返った。
「!!」
ぎょっとした。
私は慌てて鞄を見る。
そしてすぐまた猫を見た。
チリン。
猫はまた鈴の音を響かせて奥に歩いていく。
私は慌てて玄関の引き戸を大きく開いた。
「待って!!それ!!持って行かないで!!」
思わず声を荒らげる。
そのせいでびっくりしたのか、子猫は足早に中に消えていく。
私は思わずそれを追いかけた。
「すみません!!お邪魔します!!猫ちゃんが!!猫ちゃんが大事なもの持ってっちゃったんです!!すみません!!お邪魔します!!」
私は靴を手に猫を追いかける。
あれは駄目だ。
あれだけは駄目なのだ。
私は必死になって猫を追いかける。
それは、小さなうさぎのぬいぐるみ。
鞄につけていたのに取れてしまったのか、猫が咥えて持っていってしまった。
「すみません!!誰か居ませんか?!猫ちゃん捕まえてください!!お願い!!猫ちゃん!!それは返して!!こっちのあげるから~!!お願い~!!宇佐美くん返して~!!」
子供の頃、干支のぬいぐるみを貰った。
宇佐美くんはうさぎ。
私は龍だった。
でも私はうさぎが欲しくて大泣きしたのだ。
龍なんか嫌だって、うさぎがいいって。
宇佐美くんは困った顔で笑って交換してくれた。
それからそのうさぎのことを「宇佐美くん」と呼んで大事にしてきたのだ。
「もう!!どこ行ったのよ?!」
なのにそれを咥えて持っていってしまった猫を見失った。
私は泣きそうになりながら、家の中を探す。
「すみません!お宅の猫ちゃんが私のうさぎを持ってっちゃったんです!!誰か居ませんか?!大事なものなんです!!」
しかし家の中は誰もいない。
人が住んでないという感じでもないのに。
ふと、ある部屋に目が行った。
どうしてかはわからない。
中にはいると習字道具が揃えてあった。
まるで今から使いますよという感じに準備万端。
「……何だろう?……『ワタシヲカキゾメテ』??」
そこに置いてあったメモ。
ワタシヲカキゾメテ……私を書き初めて??
どうやら書き初めをするものらしい。
まだ年を越してないのに気が早いな??
そう思ってみていたが、どうしてだかそれを書かなければならない気がしてきた。
私は導かれるように筆を取り、用意されていた和紙に文字を書く。
どうしてそんな事をしたのかわからない。
でも、やらなければならないと思ったのだ。
「……よし!!」
私は書き上げたものを見つめ、満足げに微笑んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる