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煩悩

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……怖かった。
神様の世界なんだから当たり前なのかもしれないけど……。

「おい??大丈夫か??」

「……わかんない……。」

「んな、驚く事ねぇだろうが~。」

驚いてるんじゃないよ……。
恐怖や吐気やなんか色々に堪えてるだけで……。

文字が消えたので僕らは早々に雪の原を後にする事になり、うさぎは「眷属」を呼んだ。
何って「うさぎ」だ。
僕はうさぎに言われるまま雪で「雪うさぎ」を作った。
一つ作って雪の上に置くと、それが分裂するみたいにボンボン増え始める。
それはそれは可愛い光景で、辰巳さんが見たら喜ぶだろうななんて思った。
それが周囲を囲むほどになると、今度は1か所に集まりだす。
ゲームのスライムが合体して大きなスライムになるみたいな感じ。
目の前にドドンと大きな「雪うさぎ」ができた。
そしてそれが割れて、中から本当に大きな白いウサギが出てきたんだ。
被ってる雪をふるふるして落し、鼻をひくひくさせながら僕とうさぎを見つめる。
うさぎはその大きなウサギに乗れと言った。
僕はドキドキしながら大きなウサギに触れ、乗せてもらった。
映画やマンガで大きい動物に乗るシーンがあるけど、あれを実体験する事になるなんて思わなかった。
それまで寒くて堪らなかったが、ウサギの背はもふもふで暖かい。
僕は嬉しさとドキドキで胸がいっぱいだった。

しかし、楽しかったのはそこまでだ。

うさぎの声掛けに、ウサギが立ち上がった。
そう、立ち上がったんだ。

急にずずーんと高くなる。
僕のイメージではウサギはいつも丸まってる。
なのに立ち上がったんだ。

「ヒッ?!何で?!」

「なんでって……エゾウサギだからな??」

エゾウサギ……。
僕の脳裏に「コレジャナイ感」のウサギの映像が流れる。
あれは確かホッキョクウサギだったが、考えてみれば生息地も似たようなものだ。

つまり僕は今……「コレジャナイ感」半端ない足の長さのウサギの背の上にいる訳で……。

……そこからはあまり思い出したくない。
そして人が乗る動物として、ウサギは向かないと言う事を思い知った……。

「……気持ち悪い……。」

「んだよ、だらしねぇなぁ~。」

シェイカーの様によく振られた僕。
中身が空で良かった……。
これが食事後だったらと考えると恐ろしい……。

僕が蹲っているうちに、うさぎは大きなウサギを分裂させ小さくした。
途端に辺り一面、ウサギだらけになる。
うさぎはそのわんさかいるウサギたちに「年の尾」を探すよう言いつけていた。

「さて。「年の尾」の方はひとまずこれでいい。」

ウサギたちが散っていくと、ぼくの頭に乗っていたうさぎは肩に降りてきて髪を引っ張る。

「おい?大丈夫か??」

「とりあえず何とか落ち着いてきた……。」

僕はリュックから水筒を出して麦茶を飲んだ。
それからスッとする飴を口に入れる。

「それで……今度はどこ?!」

「ああ。年越しの宮の近くだ。嬢ちゃんのいる、な。」

「!!」

僕はグッと手を握りしめた。
気持ち悪いなんて言ってる場合じゃない。

周りは沢になっていて、澄んだ綺麗な水が流れている。
うろ覚えだが、大きなウサギは雪野原から川に出て、沢を登っていた気がする。
沢を登っていたと言う事は、ここは山地だという事だ。

「それはどこ?!」

「落ち着け。今、俺が「今年」を治めていた山と年越しの宮のある麓の間ぐらいにいる。年を越すと「年神」は山に入ってその「年」を治める。終わろうとしている「年」と始まろうとしている「年」じゃパワーが違う。だからこのまま麓から年越しの宮に行ったんじゃ、さすがの俺でも太刀打ちできねぇ。だから一度山に戻って、年神としての力を強める必要があったんだよ。そして年の山側から年越しの宮に向かう。」

「……うん。」

「ちょっと歩くが、それはお前の為でもある。」

「僕の??」

「お前は年男だ。俺と同じで「今年」の力をもらえる。簡単にすぐそこに迫った「来年」に押し負かされたりしなくなる。」

「……わかった。それでどっちに向かえばいいの??」

「こっちだ。少し行けば竹林が出てきて道がある。そこを進むんだ。」

僕はうさぎの言う通りにした。
山の中を少し行くと、話の通り竹林に出る。
そしてそこを進んで行った。









「わぉ……。龍とか初めて見た……。」

私はぼんやりとそれを見上げた。
寝てるのをいい事に、無遠慮に触ってみたりする。
何というか、魚と蛇とかの間の子みたいな手触りだった。
それに思ったより暖かい。
こたつに入っているからなのか、龍そのものが暖かいのかはよくわからなかった。

「あ、でも触ったら駄目な所もあるんだよね??逆鱗だっけ??」

でもあれは顎の下にあるはずだ。
宇佐美くんがそんな事を言ってて、昔、皆で顎の下に軽くパンチして「逆鱗パンチ!」とか言って遊んだのだ。
大人に見つかって、危ないだろう!と物凄く怒られたから覚えている。
思えばよくわからない遊びだったよなぁと思う。
とはいえ龍は伏せて寝ているから顎の下は触れないから大丈夫。

「……まだ持っててくれるといいんだけど……。」

私はわさわさと大きなこたつの掛け布団を伝って、龍の体をアスレチックのように登っていく。
龍はどうでもいいのだ。
私は龍の上で寝ている猫ちゃんに用があるのだ。
うさぎのぬいぐるみを、宇佐美くんを返してもらわなければならない。
龍の頭の上に来た私は、そこに乗っかっている子猫を突く。

「猫ちゃん、起きて。宇佐美くん返してよ。」

しかし子猫はもぞっとしただけですぐに寝てしまう。
私は遠慮するのをやめて、モニモニと猫を撫でた。

「猫ちゃ~ん。起きてよ~。」

しかしさすがは猫。
寝る子でネコというだけあって、起きやしない。
仕方なく半分持ち上げたりしてみるが、だらーんと胴が長くなるだけで下ろすとすぐむにゃむにゃ寝てしまう。

「ちょっと~?!普通、ここまで弄くり回されたら起きない?!」

私は呆れ返った。
でも半分持ち上げてみてわかったが、子猫は宇佐美くんを持っていない。
だとしたらどこに隠してしまったのだろう??

「困ったな~?宇佐美く~ん!宇佐美く~ん!!どこ行ったの~!!」

そんな風に呼びかけたって、ぬいぐるみが答える訳がない。
自分で探すしかないかとため息をつき、龍の頭の上に立ち上がった時だった。


「辰巳さん?!辰巳さん!!そこにいるの?!」

「え?!」


当然声がした。
はっきりとはしない声。
でも間違えたりなんかしない。


「宇佐美くん!!」


その声を聞いた瞬間、ストンと腰が抜けた。
張っていた気がぷつんと切れて、私はぼろぼろと泣き出す。

「辰巳さん?!そこにいるの?!」

「いる!!いるよ!!……うわぁぁぁん!!」

ずっと堪えていたものが溢れ、私は声を上げて泣き出した。
本当は怖かった。
寂しかった。
不安だった。
そういうものが一気に溢れて止まらなかった。

「辰巳さん?!落ち着いて?!」

「落ち着けるか!馬鹿ぁ~っ!!」

私が泣いているのに気づいたのか、宇佐美くんが困惑したような声を出す。
きっといつもの困り顔をしていると思ったら、更に泣けてきた。




「辰巳さん!!辰巳さん!!」

やっと辰巳さんを見つけたのに、建物の壁に阻まれて会う事ができない。
僕は必死に壁を叩いた。
だって、辰巳さんが泣いている。

うさぎの指示を受け年越しの宮についた僕は、建物の周りを探っていた。
年越しの宮は新しい次の干支が入ったら、他のモノは入れない。
唯一それが可能なのは「年神使え」だけなのだ。
なのにうさぎがさっきからその「年神使え」さんを呼んでいるのだが、何故か反応がないらしい。

「辰巳さん!辰巳さん!!ねぇ!!この壁、壊せないの?!」

「無理だ!!これは建物に見えるが「時」だ!!「時」を壊す事は何人たりともできねぇんだよ!!たとえ神様だろうがな!!」

「そんな?!じゃあどうしたらいいの?!」

「ちょっと考えるから待て!!イレギュラーな事が多すぎんだよ!!俺だって訳がわかんねぇよ!!」

コートの胸ポケットに入っているうさぎが長い耳を押さえてウンウン唸る。
辰巳さんの声を聞いた僕は焦っていて、無駄だとわかってきても壁を叩き続けた。

「……宇佐美くん?!宇佐美くん、そっち側にいるの?!」

「辰巳さん!!」

壁を叩いていたからか、その向こうからさっきよりはっきりと辰巳さんの声が聞こえた。
辰巳さんも確かめるように壁を叩く。

「辰巳さん!!そう!!壁のこっち側にいるよ!!だから大丈夫だよ!!」

「大丈夫な訳あるか!!ボケェ~っ!!」

興奮している辰巳さんは口が悪い。
小さい時に戻ったみたいだ。

そうか、ぬいぐるみのうさぎの口が悪いのは、辰巳さんの影響だ。

そう思ったらちょっと笑えた。
笑えたし、少し泣けてきた。

「も~!!何なの?!こうなったら壊してやる!!」

「落ち着いて!辰巳さん!!この壁、壊せないんだって!!どうやっても壊れないんだって!!」

「じゃあどうすんのよ!!」

「とりあえず落ち着いてよ!今、中はどうなってるの?!」

「中はこたつで龍が寝てる~っ!!」

「……は??こたつで……何?!」

「だから!!こたつで龍が寝てるの!!何度も言わせんな!!」

「ご、ごめん!!」

バンバン壁を叩きながら辰巳さんはそう言った。
こ、怖い……。
癇癪を起こしている時の辰巳さんほど意味不明で怖いものはない。
僕はそれ以上、怒らせないようにおとなしくした。

「……何だって?!おい!お嬢!!そこに「辰」がいんのか?!」

そこにそれまで唸っていたうさぎが声を上げた。
突然知らない声がして、辰巳さんも驚いたのか壁を叩くのを止めた。

「……誰??何そのファンシーな声……。ヤバくない?!」

「別に好きでこんな声で話してんじゃねぇ!!」

いきなりのディスりにうさぎの顔が凶悪になった。
あ……察し。
確かにこれ、辰巳さんのうさぎだ……。
こうして見ると凄くよく似てる……。

「ヤバ~!声ヤバ~!!なのに口が悪くてキモ~!!」

「誰のせいだと思ってんだぁ~!!」

僕はちょっと吹き出した。
うさぎには悪いけど、確かにこのファンシーな声で悪態をついてるのはヤバい。
辰巳さんを助けなきゃと必死だったから今までスルーしてこれたけど、意識してしまうともう……。

「何笑ってんだ?!ボケェ~!!」

「あはは!!もう無理!!うさぎ、辰巳さんにそっくり!!」

「はぁ?!私をそんなキモいのと一緒にしないでよ!!」

「キモい言うなぁ!!」

「あははははは!!」

怒り狂ううさぎ、キレる辰巳さん、笑いが堪えられない僕。
何だか一段とカオスになってきた。

三人三様、怒ったりキレたり笑ったりする事に疲れて一息つくと、何だか色々どうでも良くなって落ち着いて話せるようになる。

「……え?!じゃあ、そのファンシーな声でキモいの、私の宇佐美くん?!」

「宇佐美くん?!」

「あ、いや、何でもない……。とにかく!その変なのが私が昔、宇佐美くんに変えてもらったうさぎのぬいぐるみな訳ね?!」

「うんそう。」

「ちなみに宇佐美くんの龍のぬいぐるみ、私が今持ってるよ!」

「あぁ、年神使えに頼んでお嬢に持たせたからな。」

「年神使えって、子猫ちゃん?!」

「え?!猫なの?!年神使えって?!」

「そうだぞ??だから干支にいないだろ?猫。」

「え?!それでいないの?!猫?!ねずみに騙されたんじゃないの?!」

「まぁ、きっかけはそうなんだけどさ。でもアイツら、なら年神使えをするって言い出してさ。俺らの下になるのに何でそんなこと言うのかと思ったらさ、年神は一年間だけで、しかも十二年に一度だけだけど、年神使えは立場は少し下がってもずっと「年越しの宮」なりなんなりのお屋敷に居られるんだよ。だからずっと苦労なく屋敷の中で自由に暮らせるってんで、そこに納まったんだよ。後から考えると年神使えが一番良かったのかもなぁ~。制約も責任もあんまりないし。」

「……へぇ……なんか……目から鱗が落ちた……。」

「知らなかったけど、なんかまさに猫っぽい……。」

うさぎの話に、僕と辰巳さんは呆けてしまった。
神様の世界って、僕らの知らない事が多いんだなぁ~。

「そんな話はいいんだよ。問題は今の状況だ。確認だが、嬢ちゃん。そこに「辰」がいるんだな?!」

「辰って龍?」

「そう。そこに龍がいるんだな?!」

「いるよ~。こたつに入って寝てる~。さっき触ったけど起きなかったよ~。」

「触ったの?!辰巳さん?!」

「だって龍なんて見た事なかったし。今後、触るチャンスなんてなさそうだし。」

僕は辰巳さんのアグレッシブさに少し引いた。
前向きなのは羨ましいけど、龍を見つけて今後触る機会もないしって触りに行けるのとか凄すぎる……。

「……起きねぇのか…………。」

しかしうさぎはそこは気にしないようで、またウンウンと考え込みはじめる。
でも年越しの宮に年神の「辰」がいるなら、もう辰巳さんは外に出ても大丈夫なんじゃないのかな??

「……起きないとまずいの?「辰」が年越しの宮にいるなら、もう大丈夫なんじゃないの??」

「う~ん……。年神が年越しの宮に入って寝てるって事はあり得ないんだよなぁ……。やらなきゃいけない事が多いから、そんな暇はねぇんだよ……。」

「じゃあなんで寝てんのよ?!この龍?!」

「……多分、煩悩のせいだ。」

「煩悩?!」

うさぎは難しい顔をしてそう言った。
僕はそう言われ一緒に考えてみる。

煩悩ってあれだ。
除夜の鐘で払うやつだ。
よくわからないけど、人の持っている良くない「欲」を新しい年に持ち越さない為に除夜の鐘で払うんだ。

「……もしかして、辰巳さんが一度、お正月を始めちゃったから??」

「あぁ……。本来なら除夜の鐘で煩悩が払われてから新年が始まる。でも払われる前に正月が始まっちまった。しかも穢れから守られる「新年の間」にいたのは嬢ちゃんだ。「辰」はその穢れを吸い込んじまったんじゃないかと思う。前にも言ったように、「辰」はそのモノを表す動物がいねぇ。だから空気みたいに自然の中に散らばってんだ。他のものよりハレやケに影響されやすいんだよ。」

「神様なのに?!」

「神様だからだよ、嬢ちゃん。」

うさぎは真剣な表情でそう言った。
僕には難しくてよくわからない。
でも、良くないものが払われる前に新年になってしまって、「辰」はそれを取り込んでしまって寝てるみたいだった。

「辰は嬢ちゃんが来ちまって慌ててここに来たんだと思う。本来なら「辰」がここに来たなら、嬢ちゃんを外に追い出せたはずなんだ。でも、お嬢は「新年の間」まで入り込んじまって、挙句、正月を始めちまった。」

「悪かったわね。知らなかったんだからしょうがないでしょ?!」

「それで嬢ちゃんが年神様って認識されて、辰は奥まで入れなくなった。本来の年神だから外に出される事はなかったみたいだが、やがて煩悩に落ちちまった。」

「それで……寝ちゃってるの?」

「多分寝ぼけてここに来たんだろうなぁ~。辰の事だから……。それで眠気に負けてんだよ。」

「起こさないとどうなるの?!」

「このまま嬢ちゃんが年神になる。」

「えええぇぇぇ?!」

「ちょっと!!やめてよ!!私、そんなものにならないから!!」

「どうしたらいいの?!」

「う~ん。手っ取り早いのは、除夜の鐘を鳴らす事だな。それで煩悩が払われれば多分、起きる。」

「なら早く鳴らしてよ!!」

「落ち着け、お嬢。確かにそれが一番簡単で手っ取り早い。だがな?!除夜の鐘がなり始めるって事は、年越しのタイムリミットがギリギリんとこに来た事になる。今年が終わったら、俺は力を失う。もう、お前たち二人を助けてやれる力はない。」

「えええぇぇぇ?!嘘でしょ?!」

「それが年神ってもんだ。」

「僕達、除夜の鐘が鳴り終わるまでに元の世界に戻らないとならないんだよね?!」

「ああ。だから除夜の鐘を鳴らすのは最終手段だ。」

「も~!!どうしたらいいのよ~!!」

僕らは途方に暮れた。
辰の穢れを祓って目覚めさせるには除夜の鐘を鳴らすのがいい。
でも除夜の鐘が鳴り終わるまでに僕と辰巳さんは元の世界に戻らないとならない。

「せめて辰が起きてくれれば……。」

「わかった!!私が起こす!!髭引っこ抜いてくれる!!」

「辰巳さん?!落ち着いて?!」

「ていうかさぁ!いざとなったら、逆鱗に触っちゃえば良くね?!飛び起きんでしょ?!」

「待て待て待て待て待て?!お嬢!!それだけはやるな!!」

「なんでよ?!背に腹は替えられないじゃん!!」

「だから!!何度も言ってっけど!!辰は干支の中で特殊なヤツなんだよ!!他の十二支は元々はその辺にいる動物だ。だが辰だけは違う。初めから神なんだよ!!神がその年の神になるんだよ!!」

「……だから?!」

「年神になる前から、神としての力を持ってる。しかも今、煩悩に沈んでんだぞ?!憤怒とか起こしたら!!下手したら大地震が来て年越しどころじゃなくなるぞ?!」

「え~?!それは困る~。お正月なかったらお年玉もらえないじゃん!!」

「……嬢ちゃん、アンタはもうちょっと煩悩を捨てろよ。そんなレベルの話ししてんじゃねぇよ……。」

「でも大事じゃん!!」

うさぎと辰巳さんが変な事で言い争っている。
僕はそれを半分聞きながら考えていた。

「だったらどうやって龍を起こすのよ~!!」

結局堂々巡りでそこに戻る。
少し落ち着いたところで、僕は気になっていた事を聞いてみた。

「ねぇ、辰巳さん。龍って「こたつ」で寝てるの?!」

「そうだよ~。こっちがこんなに大変なのに、ぬくぬく羨ましいよね~。猫みたいに丸くなっちゃってさぁ~。あ!そういや、年神使えの子猫ちゃんもいるよ~。龍の頭の上で寝てんの!!半分体起こしたりしたのに、こっちも全然起きないの!!」

「は?!それで全然連絡がつかないのか!!おそらく辰に引きずられて同調しちまってんだな……。そうか……年神使えの新人ちゃんも使えねぇのか……。これは困ったぞ……。どうすんだ……どうしたらいいんだ?!」

うさぎは頭を抱えている。
でも僕は何故か変な事ばかりが気になっていた。

「ねぇ、辰巳さん?「辰」は「こたつ」で寝てるんだよね??」

「そうだって。」

「「子猫」の年神使えさんを頭に乗せてるんだよね??」

「そうそう!!鏡餅みたいなの!!」

辰巳さんはケラケラと笑っていた。
胸ポケットのうさぎがハッとして僕を見上げる。

「……おい。」

「僕の読み、当たりそう??」

「……可能性はある。やってみる価値はあるぞ!!」

うさぎは興奮して僕を見上げた。
それに僕もにっこり笑う。

「ねぇ!!辰巳さん!!」

「何?!」

「その子猫の年神使えさんを!辰の頭から引き剥がせる?!」

「猫ちゃんを??うん、さっき軽く持ち上げられたし、多分できるんじゃね??」

「おっし!!ならやってみてくれ!!嬢ちゃん!!上手くしたら「辰」が起きるかもしれねぇ!!」

「マジ?!わかった!!やってみる!!」

壁の向こう、辰巳さんがタタタッと走っていく気配がした。
僕とうさぎは顔を見合わせる。

僕ははじめに、辰がこたつで寝てるって言われて変な気がしたんだ。
それがすごく引っかかったんだ。

ここは神様の国。
「年の尾」や「月の頭」がある世界。
言葉遊びがリアルに存在する場所なんだ。

だから「こたつ」で寝ている「辰」の頭から「子猫」を外せば……もしかしたら……。
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