猫と話をさせてくれ

ねぎ(ポン酢)

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第一話

ロープと猫缶⑧

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 ぼんやりと、吊り下げられたロープを見る。

ネットで調べて、きちんと結んである。
輪を正しい位置にはめれば、そこまで苦しまないらしい。

後、確実性も高い。


わかっているが、俺はそれを眺めているだけだった。

手に、猫缶がある。


猫は何も言わなかった。

死ぬなとも言わなかったし、それはいけないことだと説教したりもしなかった。


猫は言った。


自分で決めた事なんだろ?と。


自分で決めたなら、それでいいと。


自分で決めたこと。
すなわち、誰かのせいには出来ない。

自分で、自分の意思で決断したことだ。

例えどんな要因があっても、最終的にどうするかは、自分で決めるんだ。

だから、回りのせいじゃない。
誰かのせいじゃない。


自分が意思を持って決めたこと。


それなら、それが何であれ、猫は尊重してくれると言った。

それがどんな馬鹿な考えでも、猫は真っ直ぐ受け止めてくれた。



猫は、今の俺を否定しなかった。



でも、俺は本当に自分の意思で決めたのだろうか?

俺は、ちゃんと自分の意志があるのだろうか?


俺は、本当には、何がしたいのだろう?



猫は多分、そんなところも気づいていたのだろう。

だから言ったんだ。


明日、また猫缶を持ってこい、と。




猫は死ぬなとは言わなかった。


ただ、今日、今すぐ死ななくてもいい理由を与えた。

明日、猫缶を持って行く。

でもそれもずっとじゃない。


明日と明後日。


2日だけ、今すぐ死ななくてもいい理由を与えた。

そして、それは絶対でもない。



今日、決めたならそれでいいと言った。



猫は勝手だ。

助けたりしない。



でも。



今の俺には、それがちょうど良かった。


とりあえず、ロープはこのままにしておこう。
今日は何ももう、考えたくない。
頭を空っぽにして、休みたい。


とりあえず明日は猫との約束があるから、それを言い訳にすればいい。


猫缶と引き換えに猫のくれたものは、そういうものだった。








「…で?何で秋鮭じゃあないんだ?!」

「はぁ?!指定してなかっただろうが!!」

「バカ野郎!!肉が2つ、魚が1つだったら、肉→魚→肉に決まってんだろうが!!」

「知らねぇよ!!そんなルール!!」

「やり直しだー!戻って取ってこいー!」

「ふざけんな!!バカ猫ー!」


一夜明けて、顔を合わせた猫は、相変わらずで、俺はこいつがそこまで色々考えていたと思った自分を疑うしかなかった。
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