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第一話
ロープと猫缶⑩
しおりを挟む空が白み始めた。
太陽が昇ったのだと、五感が察知した瞬間、俺は立ち上がった。
気づいた時には、無我夢中で走り出していた。
「ね、猫ー!」
息が切れて、大声が出したいのに出なかった。
かすれた精一杯の声で、つまりながら叫んだ。
目の前の草むらが、不自然に揺れた。
俺は大量に流れる汗と、その汗で顔にへばりつく髪の毛が気持ち悪いと思いながら、呼吸を整えた。
カサカサ。
さやさや。
草むらが揺れる。
俺はしましまのロープを跨ぎ、揺れる草を追いかけた。
街の谷間の草むらは、まだ薄暗かった。
膝ほどの草を掻き分けながら、俺は進んでいく。
ほんの小さなビルの立間のはずなのに、そこはどうしてだか、案内がなければ迷ってしまう、草の海のようだった。
ザワザワ、ザワザワ。
暗い海原は、昼間とは違って、何かを互いに囁いていた。
やがて、小島のような小さな空き地に出る。
がさり、と横の草むらが揺れ、猫が顔を出した。
ビルの影になって暗いここでは、猫の表情はわからなかった。
「猫、、、。猫、俺、、、。」
猫は俺の横を通りすぎ、空き地の中央に、しなやかに座り、俺を見た。
猫を見たら体の力が抜けて、俺はがっくりとしゃがみこんだ。
「猫、、、。俺、、俺、、、。」
何を考えていたのだろう?
俺は俯いたまま、地面の砂利を掴んだ。
猫がするりと動いた。
俺の方に歩いてくる。
俺は顔をあげた。
汗だけじゃなくて、涙が出ていた。
猫は俺の目の前に来ると、すっと前足をあげた。
「よく、頑張ったな。」
猫の肉球が、労るように俺の額を押した。
もう駄目だった。
俺はその場に突っ伏して泣いた。
大声を上げて、俺は泣いた。
何で泣いているのかなんて、わからなかった。
何だかもう、ありとあらゆる感情が具茶混ぜになって、とめどもなく溢れてきた。
涙で出すのなんかじゃ間に合わなくて、俺はそれらを、口から嗚咽として吐き出していた。
猫は黙って、ただそこに居てくれた。
建物の谷間の空き地にも、ゆっくりと朝日が届き始めていた。
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