猫と話をさせてくれ

ねぎ(ポン酢)

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第二話

猫と呪いとハンバーグ②

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 猫から借りた金で、近くの自販機でスポーツドリンクを買った。

猫に言われた通り、近くの段差に腰掛けてふたを開けた。
はじめに一気に半分飲んだ。
体に水分が染み渡っていくのを感じた。

後はゆっくり、一口ずつ飲んだ。

昼に近くなった太陽は思いの外暑くて、春が来たんだなと思った。
つい数日前まで、寒い日が普通だったのに、不思議なものだ。


どこかの家で、布団を叩いている音がする。
ああ、布団干したら、気持ちいいだろうなと思った。


俺はこの数日の事を考えていた。

考えると言うか、何となく思い出していた。

俺は部屋で、何でもないと思ってた。
別に平気だと。
自分がおかしくなっていることに、気づかなかったんだ。

自分が不安に押し潰されていること。

本当は辛いんだということ。

気づかない振りをしていたのか、本当に気づかなかったのか、今になっては解らない。


引っ越したばかりで、知り合いなんて誰もいない。
すぐ仕事が始まって、知り合いなんてすぐできると思ってた。

でも、とりあえず待機と言われ、連絡が来ても、もう少し待て。
何度もそれが繰り返されているうちに、俺はその、いつ終わるか解らないものに蝕まれていったんだと思う。

本当、些細なことで、人間、壊れちゃったりするんだな、と思った。

今なら、誰かに連絡するとか思い付くのに、あの時は何も考えられなかった。


最後の一口を、飲み込んだ。

すぐ動くなと言われたけど、充分休んだし、またどこかで休んでもいい。

俺はゆっくり立ち上がって、歩き出した。


帰ったら、布団を干して、洗濯機を回して、俺も風呂に入ろう。

で、何か温かくて美味しいものをたくさん食べよう。

家に何があったかを考えながら、俺は帰った。





 家に帰ると、がくっと来てしまい、俺はとりあえずカップ焼きそばを食って寝てしまった。

目が覚めたのは夜中の1時で、冷凍ご飯を温めてお茶漬けを食って、また寝た。

泣くのって体力使うんだな、と思った。


 次の日は、健康的に6時頃目覚めた。

流石にこれ以上は眠れなくて、今日は何のごみの日だろうと考えた。

ゴミ出しをして、洗濯しようと散らばった衣類を集める。

ついでに着ていたものを全部脱いで、突っ込んだ。

真っ裸の俺は、そのまま風呂場に行って、シャワーを浴びる。
思ったより体が冷えていてびっくりした。

湯船にお湯を汲んで、浸かってみた。

身体中の毛穴から、老廃物が出ていくような気がした。
何でこんな簡単な事なのに、しばらく風呂に入らなかったんだろうと思った。


「猫、、どうしてるかな、、、、。」


ぼんやりとそんな事を思う。

迷惑かけたから、また猫缶でも買って持っていこう。
鮭のやつはまだ売ってるかな?なんて思った。


風呂から出た俺は、冷凍しておいたご飯と納豆を出して食べた。

電子ケトルをセットしながら、終わっている洗濯物を干し始める。

今日も天気も良かったので、布団を干した。


 布団を干して、コーヒーを入れていると、玄関のチャイムがなった。

出てみると宅配便で、何か頼んだ覚えのない俺は、少し戸惑った。


「あ、、、。」


受け取って、差出人を見ると、母親だった。

中を開けると、米やレトルトや日持ちのする食材等が入っていた。
言葉が出なくて、鼻の奥がつんと痛んだ。

本当、俺は何をしていたのだろう?

何で1人で何も見えなくなっていたんだろう?


少しだけ時間を置いてから、俺は電話をかけた。

荷物のお礼を言うと、ずっと連絡してこないで!と半泣きで怒られた。

元気そうで良かったと言われた。

少し話をしていると、まだ友達もいないだろうから、何もなくてもまめに電話しなさいと言われた。


「うん、わかった。電話はするようにする。うん、わかった。うん。でもね、母さん、友達は1人いるんだ。」


それに対しては母は、どんな人かと聞いてきた。
だから言った。


「すっげー口の悪いやつ。(笑)
 でも、馬鹿みたいにいいヤツなんだ。」
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