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第三話
逢いたい時に猫はいない②
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ガガガガガ
手を伸ばした俺の気をそらすように、何かが振動する鈍い音がどこからか聞こえた。
それはどこか遠くのようで、力強さはなかった。
ガガガガガ
ぼんやりしていた俺は、それがマナーモードにしていたスマホの音だと気づくのに、2度ほど瞬きをした。
「やべっ!」
我にかえって、スマホを探す。
確かスーツのポケットに入れたはずだ。
ベッドの上、無意識に脱ぎ捨てた上着をひっつかみ、取り出す。
画面の表示を見て、血の気が引いた。
「も、もしもし!」
「…寝てたのか?」
「いえ!大丈夫です!寝ていません!」
「…そうか。終業後に悪いな。」
冷や水を頭から被った俺は、ベッドの上で正座した。
鈍った脳に血液を送ろうと、心臓がフル稼働していた。
電話の相手は、職場の先輩だ。
俺の教育担当を任されたその人は、同期の担当の先輩達から気の毒がられる猛者だった。
散々、怖い話を聞かされた上、実際、その片鱗を生身で感じた俺は、ビビっていた。
何かへまをしたのだろうかと思ったが、明日のオンライン研修にグループ研修があったので、その接続確認だった。
カメラのない新入社員には貸し出しがあり、俺も借りた一人だった。
明日、研修前につければいいとほっぽっていたが、明日の研修担当らしい先輩の確認作業に付き合うために、渋々、パソコンを動かした。
これって、時間外労働だろ~等と頭の中で軽く愚痴りながら作業をする。
若干、手間取ったりもしたが、先輩の電話の指示もあり、無事、作業が終わった。
画面に先輩の姿が映される。
無表情に近い先輩の顔は、悪の秘密結社の司令官みたいに見えた。
音声やら明るさ、資料の見せ方や見え方を確認して、作業は終わった。
「ありがとう。終業後にすまなかったな。」
「いえいえ、私も感覚が掴めて良かったです。」
「そうか。」
「接続も、今日やって良かったです。明日、慌てるところでした。」
「…そうか、良かったな。」
「ありがとうございました!」
「いや、こっちこそ助かったよ。」
「それでは明日の研修、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。」
先輩は相変わらず、何を考えてるのかわからない安定の低空飛行でそう言った。
だが、一瞬、迷ったように視線を斜め上に向けて、画面越しに俺を見据えた。
「ちゃんと食ったか?」
「はい?」
「飯だよ。」
「き、今日はまだです。」
「ちゃんと食えよ。今時、ネットで出前だってとれるんだからな。」
「…ありがとう、ございます…?」
「…それから、明日の研修の時は、背後に気を付けろよ。」
「背後?」
「遅くに悪かったな。今度、メシ代出すわ。ゆっくり休めよ。」
「はい。お疲れ様でした??」
「お疲れ様でした。」
先輩は淡々とそう言うと、ブチりと接続を切った。
背後に気を付けろ??
独り暮らしのアパートに、その言葉はないだろう。
じわじわと恐怖心が背中にまとわり着いてくる。
何?!
何があるの?!
何かいるのかよ~!!
意を決して振り向いた俺は、数回の瞬きの後、それが何を意味していたのか理解し、声にならない悲鳴を上げることになった。
手を伸ばした俺の気をそらすように、何かが振動する鈍い音がどこからか聞こえた。
それはどこか遠くのようで、力強さはなかった。
ガガガガガ
ぼんやりしていた俺は、それがマナーモードにしていたスマホの音だと気づくのに、2度ほど瞬きをした。
「やべっ!」
我にかえって、スマホを探す。
確かスーツのポケットに入れたはずだ。
ベッドの上、無意識に脱ぎ捨てた上着をひっつかみ、取り出す。
画面の表示を見て、血の気が引いた。
「も、もしもし!」
「…寝てたのか?」
「いえ!大丈夫です!寝ていません!」
「…そうか。終業後に悪いな。」
冷や水を頭から被った俺は、ベッドの上で正座した。
鈍った脳に血液を送ろうと、心臓がフル稼働していた。
電話の相手は、職場の先輩だ。
俺の教育担当を任されたその人は、同期の担当の先輩達から気の毒がられる猛者だった。
散々、怖い話を聞かされた上、実際、その片鱗を生身で感じた俺は、ビビっていた。
何かへまをしたのだろうかと思ったが、明日のオンライン研修にグループ研修があったので、その接続確認だった。
カメラのない新入社員には貸し出しがあり、俺も借りた一人だった。
明日、研修前につければいいとほっぽっていたが、明日の研修担当らしい先輩の確認作業に付き合うために、渋々、パソコンを動かした。
これって、時間外労働だろ~等と頭の中で軽く愚痴りながら作業をする。
若干、手間取ったりもしたが、先輩の電話の指示もあり、無事、作業が終わった。
画面に先輩の姿が映される。
無表情に近い先輩の顔は、悪の秘密結社の司令官みたいに見えた。
音声やら明るさ、資料の見せ方や見え方を確認して、作業は終わった。
「ありがとう。終業後にすまなかったな。」
「いえいえ、私も感覚が掴めて良かったです。」
「そうか。」
「接続も、今日やって良かったです。明日、慌てるところでした。」
「…そうか、良かったな。」
「ありがとうございました!」
「いや、こっちこそ助かったよ。」
「それでは明日の研修、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。」
先輩は相変わらず、何を考えてるのかわからない安定の低空飛行でそう言った。
だが、一瞬、迷ったように視線を斜め上に向けて、画面越しに俺を見据えた。
「ちゃんと食ったか?」
「はい?」
「飯だよ。」
「き、今日はまだです。」
「ちゃんと食えよ。今時、ネットで出前だってとれるんだからな。」
「…ありがとう、ございます…?」
「…それから、明日の研修の時は、背後に気を付けろよ。」
「背後?」
「遅くに悪かったな。今度、メシ代出すわ。ゆっくり休めよ。」
「はい。お疲れ様でした??」
「お疲れ様でした。」
先輩は淡々とそう言うと、ブチりと接続を切った。
背後に気を付けろ??
独り暮らしのアパートに、その言葉はないだろう。
じわじわと恐怖心が背中にまとわり着いてくる。
何?!
何があるの?!
何かいるのかよ~!!
意を決して振り向いた俺は、数回の瞬きの後、それが何を意味していたのか理解し、声にならない悲鳴を上げることになった。
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