ぐしゃり

秋彩

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私には自分の死に様が見える

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 私には自分の死に様が見える。もちろん幻覚である。
 初めて見たのは幼稚園の頃だろうか。当時折り紙にハマっていた私は園庭に向かって大量の紙飛行機を飛ばした。それを担任の先生に見つかって酷く怒られ、下の階の先生に謝りにいくよと言われた。先生の後を追ってとぼとぼと階段をおりているとき、私が紙飛行機を飛ばしたベランダから私が飛び降りていた。紙飛行機のようにジャンプをして落ちていった。ぐしゃり、と音がした。落ちた場所は恐らくこれから行く教室の前。怖くなって座り込んでしまった。
「なにしてるの!」
先生の呼ぶ声にハッとして下を覗き込むと怒っている先生しかいなかった。私の死体はなかったのだ。慌てて階段を駆け下りて下の階の先生の元へ向かった。
「紙飛行機を飛ばしてたなんて!小さい子の目に刺さったらどうするの!もし石とかだったらどうするの!大怪我しちゃうでしょ!」
下の階の先生も担任の先生と一緒に私をガミガミと怒っていた。
「ごめんなさい」
そう言った瞬間にぐしゃり、と横からあの音がした。お辞儀をしたまま横目で見ると、私が血を流して死んでいた。
「きゃああああぁぁぁ!!!」
思わず泣き叫んで逃げだした。それを見た先生達は慌てて私を捕まえて「どうしたの!?」「そんなに謝るのが嫌だったの!?」と責め立てた。私が死んでいた場所には何も無かった。それを見てさらにパニックになってしまったので、その日は幼稚園を早退した。迎えに来た母は私を見て、
「ただでさえ修のことでいっぱいいっぱいなのに。手をかけさせないでちょうだい」
と言った。遠くでぐしゃりと音がした。怒る先生たちと呆れる母を見て疲れてしまって、もう音の方を振り向くことは無かった。気のせいだと思うことにした。これから先、死の幻覚に悩まされることになるとは思いもしなかった。
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