悪役令嬢こと私は、ヒロインの娘です。

了本 羊

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chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ④

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玄関で待たせていた凛夜は急いで駆けてきたガーネットを見るなり、問答無用で抱きしめた。
 「兄様、痛い」
そんなガーネットの声も一切無視して強い力で。
 「兄様、痛い」
ちょっとだけ強めにガーネットが言った二回目の声に我に返って、すぐに「ごめん」と身体を離した。
 「今朝早くざくろのことを聞いて飛び出してきたんだ。さすがにざくろのことが心配だから、もう母さんには付き合えないって言ってね」
 最後通告をつきつけてきたらしい。
なんてできるお兄さんなんだ!
 「お母様、うるさくなかった?」
 「私を捨てるの! って言われたけど、僕達のことを考えてないのに捨てるも捨てないもないでしょって言っておいたよ」
 特大級の槍が心臓に突き刺さりそうだな、それ。
 凛夜が穏やかで、今まで母親のことを優しくなだめていたぶん余計に。
 「夏葵ちゃん、ごめんね。ざくろが迷惑をかけてしまって」
 夏葵に目を向けて深々と頭をさげる凛夜に夏葵は首を横に振る。
 「いいえ。ざくろさんのことが心配でしたし、迷惑とは一つも思っていません。私にできる最低限のことはこのぐらいです。なのでお気になさらないでください」
 「夏葵ちゃんはいい子だね」
ガーネットの頭に手を置いていた凛夜はあいている、もう片方の手で夏葵の頭を撫でた。
 千早とは違う大きな手。
 男性なのに優しさに満ちた触れ方に驚いて目を瞬かせる。
それを拒絶と捉えたのか、凛夜は慌てて手を引っ込めた。
 「あ、ごめんね。ついざくろにやる癖で」
 「いえ! ちょっと驚いてしまっただけですので! 異性の方にこうされるのは、あまり慣れていないので……」
 言いながら頬に熱が集まるのを感じる。
なんで恥ずかしくなっているのかわからない。
 「夏葵ちゃんのお父様、頭撫でてくれることない?」
 素朴なガーネットの疑問に夏葵は思い出そうとするが、そんな記憶は物心ついてからない。一度も。
 物心つく前は、どうかわからないが。
 「父の秘書の方にならあるんですが、父にはないと思います」
 「どうして?」
 「関心がないからでしょうか?」
ガーネットの質問に疑問形で返すと、ガーネットも疑問符だらけの顔をした。
でも、そう返しただけで関心がないのだとわかっている。けれど、それを今ガーネットに言うのはためらわれた。凛夜がはっきりと悲しげに夏葵を見つめているのが要因かもしれない。
 関心がないのは夏葵だって一緒なのだ。
 夏葵が歩み寄れば、もしかしたらこの親子の関係は変わるのかもしれない。
それをしないのは結局、父にどう思われようとどうでもいいと思っているからに他ならない。
まあ、まだ離婚していなかった時、あれだけ夏李が気をひこうとしていたのに全く無視していたのだから、夏葵がどう動こうが変わらない気がする。成功して十割中一割の確率かも。
 「ざくろ、そろそろ帰ろう。父さん達も心配してるし、夏葵ちゃんにも申し訳ないからね」
 「待って、兄様! ざくろ、まだ夏葵ちゃんのお父様にありがとうを言ってない。だから、それを言ってから帰りたい」
 「ざくろさんのお気持ちはありがたいのですが、先ほどもお話しましたが、お父様のお帰りが早いかどうかはわかりません。いつもの時間帯なら、きっと遅いと思います。ですから気にしないでください」
 「だったら待ってる。だから、挨拶したい」
 頑固なところがあるのは知っているが、いつもだったら夏葵を思って引いてくれるところを引いてくれない。
どうしたのだろうか? と思っていると、すぐにガーネットから答えが返ってきた。
 「ざくろは夏葵ちゃんとこれからも友達でいたい。だから、夏葵ちゃんのお父様にお礼をきちんと言っておきたい。悪い印象を与えたくない。だから……だめ?」
 上目使いの可愛らしい仕草に胸に矢を射られたような錯覚を覚えてしまう。
こんなお願いのしかたをされて断れる人はいるのだろうか?
 「……わかりました。では、ざくろさん、今日も一日泊まっていってください。深夜にざくろさんを帰すわけにはいきませんから。明日の学校は私の家から一緒に行きましょう。制服はご自宅の方に頼んで持ってきていただいてください。数日泊めたいとお願いしていましたから、二日泊めることを父はとがめることはないでしょう。千早さん、仕度をお願いできますか?」
 「かしこまりました」
 「はあ、しょうがないね。父さんには僕から言っておくよ。制服も僕が持ってくる。ざくろ、きちんとお礼を言っておくんだよ。夏葵ちゃん、ありがとう。ごめんね」
 凛夜はガーネットの意志の固さに折れて、夏葵に謝りながらガーネットの頭を撫でる。
その目が優しさに満ち溢れているのを見て、心のどこかが軋む音をたてる。
 「大丈夫です。ざくろさんが泊まっていってくださるのは、私自身も嬉しいですから」
それに蓋をするように夏葵は凛夜に笑顔を心がけた。





やはりというか行哉が帰ってきたのは深夜と呼んでもおかしくはない時間帯だった。
それでも必死に眠気と戦い、礼を言ったガーネットに父は「夏葵がお世話になっていて申し訳ない」と心にもないことを口にしていた。
やり遂げたガーネットを早く寝かせようとすると「一緒に寝たいな」という驚きの発言に夏葵が途惑っているうちに、千早がさっさと用意をすませていた。
ガーネットとお揃いのパジャマまで用意して。
 千早の目がぎらついていたので、絶対に写真に撮られるのだろうと予想できた。
 公私混同だと言いたいが、父にまで許可を得ている千早に敵う訳もなく。
というかどうやって許可を出させたのか聞きたい! ものすごく!

 一緒にベッドに入る頃には、すでにガーネットはうとうとと、しはじめていた。
 千早と一緒に寝たことはあるが、同年代の女の子となんて初めてで、少しだけワクワクしていた。
と、同時に朝の凛夜とのやり取りを思い出して、夏葵は苦い気持ちを押し殺す。

 心が軋む音がした。
それは昔を思い出してから、度々あったことで。

 「夏葵ちゃん……寝てる?」
 隣で寝ているガーネットに呼びかかられて、思考を無理矢理振り払った。
 「いいえ。まだです。ざくろさん、眠れそうですか?」
 「うん……。夏葵ちゃんはいい匂いがする」
 「そうですか? 自分ではわかりません」
 「いい匂いがするし……不思議な音だし……でも、夏葵ちゃんのお父様……嫌な音じゃなかったけど……好きな音でもなかった……。夏葵ちゃんのお母様……も……同じ…………かな……?」
 「違うと思います。きっとざくろさんには不快な音だと確信しています」
 返事が返ってこないのでガーネットの方を見ると、すやすやを寝息をたてていた。
 苦笑して、夏葵もそっと目を閉じた。



 今日のあの気持ちは明日には忘れていよう。
また思い出す。
それでも思い出すまでは忘れていたい。



 凛夜がガーネットに向ける優しい瞳。
 妹に、家族に向ける愛情。

 私も欲しかったんだと叫んでいる。
 昔の私が。
 今の私の気持ちなど無視して叫ぶのだ。


 私も母にあんな風に愛されたかったのだと。




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