悪役令嬢こと私は、ヒロインの娘です。

了本 羊

文字の大きさ
31 / 31

chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ⑥

しおりを挟む


いきなりの出来事に目を丸くしていると、にっこりと青年に微笑まれた。
 笑顔なのに優雅という言葉が一番しっくりくるような気がする。
 「君が菫姉さんの娘になる子かな?」

 流暢な日本語で話されて、かなり嫌な汗が背中をつたう。
もしかして、この凛夜ぐらいの年齢の人が夏葵のお見合い相手だなんて言わないだろうな。

 「初めまして。藤ノ百合夏葵と言います。あの……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
 「可憐な挨拶をありがとう。僕はハイル・メルジーネと言います。初めまして、小さなプリンセス」
 「えっと……」

 奏多だったらドン引きするセリフを言われているのに、その気品な物言いで鳥肌もこないし、寒いとも思わない。多少、恥ずかしいが。

 「孝輔おじさんから、ここで君の相手をしていてほしいと頼まれたんだ」

 確定!?

さすがに夏葵と近しい年齢だと思っていただけに、驚きはそのまま顔に出てしまっていたのだろう。
ハイルに困ったように笑われた。
 「会うだけ会ってほしいと言われたんだ。君もそうなのかな?」
 強制的に決められていたものだが、そんなことは言えないので曖昧に頷けば、帽子の上から頭を撫でられる。
 凛夜とはまた違う優しい手に、人それぞれの撫で方があるんだなと当たり前のことを思ってしまう。
 「ここにずっといるよりも歩きながら話そうか? それともどこかに座りたい?」
 「そうですね……歩きながらで」
 「じゃあ、そうしよう」
 歩き出す際に自然と手を繋いだハイルに、恥ずかしさを覚える余裕もなくそのまま促される。
こういうのって、大人の女性は弱いんじゃないのかな?
 千早がよくやっているゲームにこんなシーンが美麗な絵つきであると、千早がうっとりとしていたことを思い出す。

 「あの、ハイルさんは洪流家の方々とどういったお知り合いなのでしょうか?」
 「父が学生の時、留学中に孝輔おじさんにお世話になったんだ。父はメルジーネ家の跡取りだったから、洪流家の次期当主でもある孝輔おじさんとは話が合ったというか。跡取りって色々と気苦労が多いいものだからね」

メルジーネ。

その名前を聞いたことがある。
そもそも父がなんの利益もない相手と夏葵を見合いさせるなどありえない。
メルジーネ、メルジーネ、メルジーネと延々と頭の中で繰り返していた夏葵は、ある企業の名前を思い出した。
さあっと体から血の気が引いていく感覚をおぼえる。
 「ハ、ハイルさん! メルジーネというのはドイツに本社がある、あの世界的な会社のお名前では?」
 「うん、そうだよ。僕の一族がやっている会社で父が社長なんだ」

メルジーネコーポレーション。

ドイツに本社をかまえているが、世界的に有名な大企業で色々な分野のビジネスを幅広く手掛けている。
はっきり言うと、日本の名家と謳われている藤ノ百合家なんて霞む存在だ。
 「兄が会社を継ぐのは決まっているんだけど、僕はまだどうしようか悩んでいるんだ。だから、大学は大好きな日本で勉強をしたいなって思って下見に来ていたんだ」
そして次男坊!
まさに父にしてみれば奏多よりも望む人間だ。
でも、奏多と婚約するぐらいなら、歳の離れたこのハイルと婚約したほうがマシ。
けれど今さっきから思っていることだが、ハイルはこれが見合いだとわかっているのかが怪しい。

 会話をしながら考え事をしていたせいだろう。
 「あっ!」
 注意力散漫になっていて、少し大きい石に足を取られて転んでしまった。
 「大丈夫かい!?」
すぐにハイルが助け起こしてくれるが、せっかくのドレスが土色に変わっている部分がある。
きっと父は気にせずに新しいのを買えばいいとか言ってくるだろうが、そんな勿体ないことはしたくなかった。けれど、これは有無を言わさずクリーニングではなくゴミ箱行きだ。
ちょっとだけ気落ちしてしまったのが、ハイルにもわかったらしい。
 「ナツキ、ちょっとごめんね」
 「へ?」
 言うなり抱き抱えられた。
こ、これは千早がよくゲームをしている時に見せてくれていたお姫様抱っこというものでは!?
 「あ、あの! 大丈夫です! 一人で歩けます!」
 「可愛いお姫様は、二度とドレスを汚さないようにこうされるのが一番いいんだよ。それとも嫌だったかな?」
 「嫌ではないですけど、ハイルさんにご迷惑はおかけできません!」
 「じゃあ僕は迷惑だと思っていないから問題ないね」
この人、絶対に女性が放っておかない!
お見合いなんてしなくても充分、素敵な女性がハイルには寄ってくるだろう。
このお見合いは、まあ当初からわかっていたことだが父の勇み足に終わる。
そう思っていた時、不意にハイルの足が止まり、夏葵を申し訳なさ気に見てくる。
 「ナツキ、これは見合いだって聞かされている?」
 「はい。やっぱりハイルさんも知っていたんですね」
 「うん。ごめんね」
なぜ謝罪? ああ、お断りのかな。
 「僕はナツキのことは可愛いお姫様だと思うけど、妹のようにしかまだ見れない。将来はどうなるかわからないけど、今はこの答えしか浮かばないんだ」
 「ハイルさんが謝ることではないです。私も正直、ハイルさんほど年齢が離れている方だと思っていませんでした。てっきり同じ年ぐらいの方かと」
だから断ってくださって平気ですと続けようとした。
 「そう。でも、今さっきも言ったように将来はどうなるかわからない。それに僕はナツキを可愛い妹だとは思えるから、気長にお互いを知っていこうか」
 「……は、い?」
 「そろそろ帰ろうか。遅くなると孝輔おじさん達を心配させるからね」
 間の抜けた返事を返してしまい、それが返答だと勘違いされてしまったまま、夏葵は混乱する情報を整理するので一杯一杯だった。





わかったことは、十も歳が離れている婚約者候補ができたことだけだった。





しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

処理中です...