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本編
第4話 誕生日
しおりを挟むそうこうしている内に月日は経過し、暁が珍しく帰ってきた日、食事を済ませ、居間で寛ぎながら日月は雑誌を読み、暁は新聞紙を読みながら食後の珈琲を飲んでいた。
今では暁に向ける笑顔が嘘か本当かも日月本人にはわからなくなっていた。
ただ、心が泣き叫んでいるのだけは常に感じている。
傍に居たいのだと。
仮初の、世間からしてみればお飾りの妻であろうとも。
そんなとき、不意に新聞紙から顔を上げた暁が、日月に
「欲しいものはないか?」
と尋ねてきた。
日月が首を傾げると暁はいつもの優しげな笑顔を浮かべ、
「家にほとんど帰ってこれないのに、日月は何も不満を口にしないでいてくれる。それはとても有難いことだから、何かお礼とご褒美を兼ねて」
そう言われて、グッ、と込み上げるものを呑み込み、自然と口から願いが零れていた。
「私の誕生日を一緒に祝ってほしいです」
暁は目を丸くして、
「そんなことでいいの?」
と訊いてきたが、日月にとってそれは大切な意味を宿している。
「わかった。プレゼントは何がいいかな?」
「いえ、一緒にお祝い出来るだけで嬉しいですから・・・」
「そういうわけにもいかないよ。う~ん・・・」
日月への誕生日プレゼントを何にするか考え込み始めた暁は、つい先程まで日月が読んでいた雑誌のとある一部分に目を留める。
「これなんかいいんじゃないかな?」
暁が指差したページには広告が掲載されており、ジュエリーの受注を限定数で行う、というものだった。
リング、ネックレス、バングル、バレッタ、アンクレットの五点を注文者の望んだデザインで製作するというもの。
「高いからいいですッ!」
「気にしなくていいから。どんなデザインがいい?」
そう言われてしまえば、固辞することは難しい。
随分頭を悩ませて、ふと、昔の出来事を思い出し、知らず知らずの内に口をついて出ていた。
「・・・・・・菜の花のデザインがいいです」
「菜の花? 珍しいデザインを希望するんだね?」
「あ・・・、はい。それと・・・・・・、もし石を付けるのであれば、ペリドット・・・、がいいです」
「日月の誕生石はガーネットじゃなかった?」
「そうなんですけれど・・・・・・、ペリドットが好きなので」
「わかった。ペリドットもガーネットも加えてもらえるようにしておく」
暁の言葉は、それまで周囲に心配をかけまいと無理にいつも通りに振る舞ってきた日月の心を急浮上させるのには充分であった。
その日から、日月は自分の誕生日が早くきてくれないかと毎日何度もカレンダーを見ては過ごしていた。
しかし日月の誕生日の数日前に、急遽大口のクライアントから拝み倒される勢いの要請で、二ヶ月近く海外に暁は行かねばならなくなった。
世界的にファンを持っている暁だからこそ仕方がない。
そう何とか気持ちを割り切り、暁が帰国してからの誕生日の仕切り直しに思いを馳せることにしたのだ。
だが、そんな日月を嘲笑い、後ろから大きく回し蹴りをくらうような出来事が起こったのだ。
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