菜の花散華

了本 羊

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本編

第5話 不条理

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日月の誕生日が過ぎてから十日ほど経った日、家事を終えた日月は趣味の裁縫をしながらテレビを付けていた。


 本を読んだり、裁縫や編み物をしたり、集中して家事をする時間が日月にとって唯一無二の安息だった。
テレビは使用人が居なくなったときに、広い邸宅で寂しくないようにと付ける癖が出来ただけで、興味がなければ内容は耳にも入ってこない。
 裁縫をしていた手を休め、何気なくリモコンでチャンネルを変えると、世界的な企業が連携したファッションショーが中継されていた。
 華やかで賑やかだなぁ、とチャンネルをそのままにし、再び裁縫を再開しようとした矢先、ファッションショーの進行役であろう男性の感嘆の声が耳にとどいた。



 「いや~、やはり妃奈嬢のポージングは世界でもトップクラスに入るでしょうね」



その名前に、目が行かないというほうが無理だったのだろう。
 吸い寄せられるように見た大型のテレビ画面には、ファッションショーが終了し、ショーを彩ったモデル達がインタビューされている。その中で一際輝いている女性。



 「妃奈嬢の今日のファッションはジュエリーアクセサリーを基準に選んだとか?」
 「はい」
 「珍しいデザインのアクセサリーですね」
 「ええ、菜の花なんだそうです。親しい方からの誕生日プレゼントで」



 一瞬、世界の音がすべて遠ざかったように感じた。



 「絶妙なデザインでジュエリーが嵌め込まれていますね」
 「ええ。わたしの誕生石のガーネットとペリドットです」
 「菜の花というと華やかとは無縁のイメージがありますが、妃奈嬢が今回身に付けられたことによって、女性の間で人気になりそうです」



そこから先のことはあまりよくは覚えていない。気が付くと、洗面所で只管吐き気と闘っていた。
 指から血が流れているのは恐らく裁縫針で傷付けてしまったのだろう。





 体調不良で倒れた日月は数日間、ベッドの上から起き上がれなかった。
 使用人達には明るく笑っていたが、一人になると常に考え込んでいた。


 昔から暁は家族のことでも己に必要のないことは忘れ去り、思い出すことさえ出来ないほど人間としては欠落した部分があった。養父母はそれにため息を吐きつつ、



 「欠落した部分は全部才能に持っていかれてしまったんだ」



と諦めている。
 思い返せば、暁から誕生日の贈り物など貰ったことは日月は一度としてない。
 家族一緒か、結婚してからは養父母と悠生夫婦から届くが、そこに暁の意見は何一つとしてなかったのだ。



 日月が誕生日を祝ってもらうことを選んだのは、妃奈という存在がいたからだ。
 資料の写メを見ていたとき、妃奈と日月自身の誕生日が同じであることがわかった。
そういったことは記憶に残りやすい。


 恐らく、いや絶対に、暁は日月の誕生日を覚えてはいなかったのだ。
 祝う約束をし、プレゼントを用意したことさえ。
プレゼントは受注生産だったために必ず暁の元に届く。暁はそれを妃奈に用意したプレゼントだと勘違いをした。
 妻である日月との約束と会話を思い出すことなどなく。




ベッドの中で一人笑いが込み上げる。
 許嫁であったとしても、暁と日月は家族として過ごしてきた時間がある。
けれど、家族であった日月よりも遅れて出会い、今は愛人という立ち位置にいる妃奈の誕生日は覚えていた。
 同時にそれは、暁が忙しい合間をぬって、海外から日本へと妃奈の誕生日を祝うためだけに一時帰国していたことを指す。
 日月のことを露ほども思いやる気持ちなど微塵も感じられない。
 暁という人間にとって、日月はその程度の存在だったのだということ。『家族』としてあった昔も、『夫婦』としてある今現在も。




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