菜の花散華

了本 羊

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本編

第11話 暁の吐露②

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日月との生活は、穏やかで、とても居心地の良い空間だった。


 何時の頃からだったか、絵を描いている俺の部屋に、食事がソッ、と置かれるようになっていた。
 人が出入りすると気が散るので、食事は何時も部屋の扉の外に置かれていたのだが、集中を乱されること嫌う自分が食事が置かれたことに気付かないとは珍しい、と心の隅に引っ掛かり、それが幾度も続くようになった。
そんなある日、スケッチブックにデッサンを描き散らしていて、一段落ついて顔をスケッチブックから上げると、何時、部屋に入ってきていたのか、日月がソファでうたた寝をしていた。
テーブルには食事のトレイが置かれており、今まで自室に静かに食事を置いていたのは日月であったことを物語っている。
 俺は内心の動揺を見せないように、日月を起こした。
 目覚めた日月は顔を真っ青やら真っ赤にして忙しなく、悪いと思いつつも、我慢出来ずに笑ってしまった。





その日から、度々日月は俺の部屋に来て、俺が絵やデッサンを描いている姿を何も言わず、邪魔をせずに眺めていることが多くなった。
アトリエとして用意された別宅に籠る時は一人なので、家で描く絵は試しやデッサンが圧倒的だったが、不思議と日月が側に居ることは煩わしく感じることはなく、日々は流れた。
 女性達は俺が絵を描いていると、いつもギラギラしたようなしつこい視線を送ってきて、とても集中出来るものではない。
けれど、日月だけはそういった視線とは無縁の、澄んだ空気のように穏やかな瞳で俺を見ていた。
 結婚してからも、それは変わらないと思っていた。






だが、終わりは唐突にやってきた。


クライアントからの要請で、海外に長期で行かなければならなくなり、日本を発った。
 一ヶ月後、両親を通じているマネージャー兼秘書から、今の仕事を何とか早目に終えて帰国してくれ、と焦った声で催促されたのだ。
 俺は訝りながらも仕事を早々に終えて、日本に帰国した。


 長年勤めてくれている執事に急いだように案内された一室に、青褪めた顔の両親と憤りを隠そうともしていない表情の悠生と友香、そして見知らぬ父親と同年代の男と、何故か頬を腫らして泣いている妃奈が居た。口を開きかけた俺を父は有無を言わさず殴り、母は平手で叩いた。
 何が何やらわからない俺に、悠生が温度を感じさせない冷たい表情で俺に話した内容に、愕然とした。
 悠生から突き付けられた



「暁さんへ」



と日月の字で書かれた手紙を、俺は知らず知らずの内に震えている手で開封した。






 『暁さん、何も言わずに家を出てしまうこと、申し訳ありません。けれど、これが今の私と暁さんにとって最善の選択であると思い、行動に移しました。
 私が養父さんや養母さん、悠生兄さん、友香姉さんに守られて、愛されてしまっているせいで、ずっと暁さんの気持ちに気付けずにいたこと、謝罪しても謝罪しきれません。
 暁さんは、ずっと妃奈さんと一緒になりたかったのですよね。幼い頃に決められた私との婚約のせいで、雁字搦めにしてしまっていたこと、悔やんでも時間は戻りはしないでしょう。
 改めて、離婚をし、妃奈さんと再出発して下さい。必要な書類はすべて用意してあります。
 最後に、私は暁さんの描く絵、本当に大好きです。これからもファンです。暁さんが、命になりつつある絵をこの先も描き続けていけますよう、願っております。 


 日月』





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