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番外編
菜月と心結
しおりを挟む「ねえ、心結お姉ちゃん」
「なあに? 菜月ちゃん」
「心結お姉ちゃんはどうして実お兄さんを許したの?」
香恋の事件から一段落したその日、菜月専用のアトリエで、ソファに座りながらデッサンをしていた菜月は、心結に訊きたかったことを訊いてみることにした。
心結は菜月の問いに驚いたように目を瞠ったが、次いで、口元に何とも言えない笑みを浮かべた。
「う~ん・・・。どう言ったらいいのかなぁ・・・」
菜月に淹れた紅茶を差し出し、菜月の隣に腰を降ろした心結は、両手で紅茶の入ったカップを持って、悩ましげに天井を見上げる。
「・・・・・・菜月ちゃんは、千咲さんのことが好き?」
「? うん」
「だよね。でなかったら、菜月ちゃんは目に見える形の婚約をしてないもんね」
心結は紅茶を一口飲むと、カップをテーブルの上に置いた。
「・・・・・・正直、今でも許せない気持ちはあるよ。実際、実のせいでわたしの思春期はボロボロだったしね。なのに、どうしてかなぁ・・・」
心結はソファに身体中を凭せ掛けると、何もない天井を見つめて一人ごちる。
「・・・・・・こんな自分が情けない、馬鹿だ、どうしようもないって思って泣いてしまうのに、気持ちが消えてくれないんだよ」
実と再会し、実の思惑通りになって、心結は一人でたくさん泣いた。
それこそ涙が枯れ果てるほどに。
なのに、残った感情は、『好き』という散々に傷付けられたもの。
手放せたらどれほど楽なのだろう。
そう思うのに、望みが叶ってしまった一欠けらの感情は、消えるどころか、今までの出来事を塗り替えるほどに波打って、反乱を心に齎す。
「心結お姉ちゃん、誰かを『好き』になることやその気持ちを持ち続けることに、意味は必要ないんじゃないかな?」
「え?」
唐突な菜月の言葉に心結は面食らう。
「だって、「どうして好きになったか?」なんて、誰も明確な答えを持たないと思うよ」
「そう・・・、そうだね・・・」
「心結お姉ちゃんは恋愛脳な人よりはスゴクいいよ。そうやって、自分の悪いところをわかってるもん」
そう言って微笑む菜月に、心結はグッ、と何かを堪えるかのように抱き付いた。
「ごめんね・・・。ちょっと・・・」
「うん、大丈夫だよ。心結お姉ちゃんは間違ってないよ。凄いね」
菜月のただただ優しい声は、心結の涙腺を壊してしまう。静かに泣き続ける心結の背中を、菜月は優しく擦り続ける。
「(やっぱり、心結お姉ちゃんはお母さんとソックリだな。許すも許さないも、本当は個人の感情一つに左右されてしまうから、自分を苦しめなくてもいいのに)」
数日後、菜月に頼まれた千咲が実に数発お見舞いして菜月の許しを得、顔を腫れ上がらせ、青痣だらけになるのはまた別の話・・・。
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リクエストがありましたので、何故心結が実を許したのかの、実態です。
こういった気持ちの表現は、省いたほうが良いのかと思っていましたが、そうでもありませんね。
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