猛毒の子守唄【改稿版】

了本 羊

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第9唄*

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ミスラは常に薔薇のように編んでいる髪を今は解き、その髪は本来の長さを取り戻し、寝台の上に緩やかに散らばる。切ってしまえば、複雑に編み込む手間も鬱陶しさも無くなるのに、とヒイシは現実逃避しながら思う。



何の予告もなく抱き込まれて、口付けられる。

ブランデーの強い匂いと味が口腔内に広がり、無意識に抵抗してしまうが、ヒイシのそんな抵抗は安々と抑え込まれてしまう。肉厚な舌が意思を持って動き回り、息がすぐに上がってしまう。唾液を嚥下させられそうになるのを拒もうとすればそれを許されずに舌で喉の奥先を刺激されて、飲み込んでゆく。

飲み込み切れなかった唾液が唇の端から伝い落ちるのをゆっくりとした動作で舐め取られる。





ゼエゼエと肩で息をしてしまうヒイシの背中をミスラの手が驚くほど優しく擦る。

そうして初めて、ヒイシは自分の身体が震えていることに気付く。やはり最初に暴力という形で刻まれた体験は忘れられるものではない。

ミスラは何も言わず、生理的に涙目になってしまっているヒイシの目元に唇を寄せて、その涙を吸い取る。それは、恋人同士であるとヒイシが錯覚させられてしまうほど優しい。

そうやって気が付けば、ヒイシは寝台に押し倒されてガウンも下着も脱がされてしまっていた。



首筋を舌で舐めあげられると、ヒイシの身体はビクビクと痙攣したように引き攣ってしまう。



「ひッ・・・!」



いきなり秘所に指が触れ、硬直したヒイシを宥めるようにミスラはヒイシの耳朶を口の中に収めると、ゆっくりと舌で撫で回す。

そうしているとヒイシの身体から徐々に力が抜け、ミスラの着ているガウンを握りしめるような形になる。

熱い、とヒイシは思う。

何が熱いのかはわからない。

ただ、熱くて逃げ場のないものが己を蝕んでいることだけはわかる。

ミスラの指がヒイシの身体を這い、触れられた場所が熱を持っていく。





ミスラは器用に指と舌を使い、ヒイシを翻弄する。



「あ・・・! やぁ!」



秘所を弄る指が秘芽を同時に嬲ると、今まで経験したことのない感覚がヒイシに襲い掛かってくる。

逃げたいのに、ミスラがただ抑え込んでいるだけの状態から逃げ出すことが出来ない。

片方の乳首を軽く噛まれ、秘所を弄られ、ヒイシは生まれて初めて達した。



「あ、あああああぁぁぁ!」



頭の中が真っ白になり、呼吸が荒い。

クチュクチュと水音が響き、その音が己自身から出ていることが信じられない。

達したばかりなのにミスラの指の動きは止まず、足が痙攣しそうになる。



「・・・もう少し解しておいたほうが良さそうですね」



そんなミスラの言葉を合図にしたかのように、ヒイシの地獄が始まった。













「はぁっ・・・! やあぁ・・・!」



どれぐらいの時間が経過したのか、ヒイシにはわからない。

あれから何度達してもミスラの手や舌が止むことはなく、際限のないイキ地獄に、ヒイシは涙腺が決壊していた。



「もっ・・・、いぃで・・・。 挿れ・・・・・・てく・・・、だ・・・さ・・・・・・ッ」



「ですが充分な準備をしていたほうが、ヒイシの負担も軽くて済みますし」



そう言って、達したばかりのヒイシの膣に指を滑り込ませ、ヒイシの膝裏を舐めあげる。



「ひぃッ・・・!」



ヒイシの身体は断続的に痙攣を繰り返し、既に自由に動かせなくなってしまっている。

ミスラは何時の間にかバスローブを脱ぎ、ヒイシを抑え込んで涼しい顔をしているというのに。

視界が常に霞み、頭が正常に機能しなくなっていく感覚がヒイシにはとてつもなく恐ろしい。

それ故に、ヒイシの秘所にミスラの陰茎があてがわれたことにも気付いていなかった。









「ぐうぅ・・・っ!!」



いきなり襲ってきたとてつもない衝撃に、ヒイシは咽を反らせる。

身体は経験しているからと云っても、ミスラのものは想定外の大きさと質量な為、受け入れる側の負担はどんなに解されたところで減りはしない。

伷挿が繰り返され、室内に淫蕩な音と息遣いしか聞こえなくなる。





伷挿が激し過ぎて、ヒイシは何とかミスラの背に手を回そうとするが、それが叶わない。

代わりに手に掴んだミスラの長い髪は、サラサラとして容易く手からすり抜けてしまう。

一方のミスラも余裕などなかった。

初めの時のような愚行を犯すことのないようにどんなにヒイシから啼きが入っても、解す手を緩めなかったが、ヒイシの快楽に溺れていくのを必死に止めようとする姿はあまりにも強烈な媚態で、ヒイシは気付いてはいなかったが、ミスラの欲望は暴発手前であり、額に汗をビッシリと浮かべていた。



「ふぅ・・・ッ! ま・・・、まっ・・・・・・! あんん・・・・・・!!!」



解されている間に見つけられた弱い箇所を責められ、激しさに付いていけず、達するのと同時にヒイシの中にひどく熱いミスラの精が放たれる。

その熱さに再度ヒイシは達してしまう。



他の人達のことはわからないが、男性の精液というのはこんなにも熱いものなのだろうか・・・?



そんなことをボンヤリとヒイシは考えていたが、自身の中で再び質量を増したミスラのものに背筋が慄いてしまう。



「もっ・・・、もう・・・、む・・・!」



無理だと何とか言葉にしようとしたヒイシの唇は、ミスラの唇に飲み込まれて消えてしまった。















「1週間後に陛下と兄上達が帰国する予定なので、城内だけで簡単にでも軽食パーティーを行おうという案が出ておりますが、俺も賛成です。視察に参加した者達の労いの意味でも」



「そうですね。市の開催予定までは1ヶ月をきっていますが、問題はないでしょう」



ミスラとナイはこの日もいつも通り、執務室で今後のことや仕事のこと等を打ち合わせていた。



「それから・・・。陛下の伴侶様には、城に到着され次第、ヒイシ様と同じ離宮に移ってもらおうかと思います。陛下や閣下の手前、下手なことをする者達はいないでしょうが、妃や正妻の座を狙っていたご令嬢方は何をしでかすか予想出来ませんので」



ナイの説明に、ミスラはヒイシのことを思い浮かべる。









ミスラがヒイシと閨を共にした日から数日が経過していた。

ヒイシのアメジストの髪がシーツの上に散らばり、涙を反射してキラキラと輝く様はミスラの情欲を掻き立てた。普段は気怠げに此方を見てくるヒイシの快楽に抗う泣き顔も壮絶な色香をミスラに与えてしまう。

何度も達するヒイシはミスラの精液の熱さに都度逃げようとしては逃げられずに啼く。



『あァあぅぃっ、熱、あづいィい゛―――――っ!』



亀頭のエラで最奥を擦ると、口の端から唾液が零れること厭わずに達し、瞳が欲に濡れていく様はとてつもなく――――――――――。









バゴンッ!!

軽快とは言い難い打撃音が室内中に響いた。

ナイが傍に置いていた角材でミスラの頭を容赦なく殴ったからだ。



「・・・・・・痛いですよ、ナイ」



「貴方方兄弟のとてつもなく頑丈な身体と途方もない石頭では、こんなのは打撃の内にも入らないでしょう! もう散々口酸っぱく言っておりますが、執務の際・・・、いえ、平常時にヒイシ様のことを考えるのは止めて下さい!!」



「別に婚約者のことを思い出していることの、何が悪いのですか?」



全く痛みを感じてないような表情で、ナイに殴られた頭を片手で擦りながらミスラは疑問を口にする。髪が乱れるのもミスラはあまり好まないので、殴られる度に手櫛で直している。



「・・・・・・思い出しても考えても悪いことでは全くありませんよっ!! 閣下でなければね!!! 閣下がヒイシ様のことを考える度に無駄な色香を濃密に振り撒いて、周囲に影響を及ぼしてるんですよッ!!!! 今この執務室一帯付近には俺以外誰も近寄らせていませんッ! 閣下の空気に少しでも当てられたら、仕事にならないからですよッッッ!!!!!」



ナイの叫びは事実だった。

ヒイシと閨を共にした日から、ミスラが過度を超える色香とそれを纏うため息を吐きだす度、周囲にいる人間達はナイ以外が顔を真っ赤にし、身体に力が入らずに腰が砕けてしまう。

そんな状態では仕事に影響しか及ぼさないので、ナイ以外がミスラに近付くことを今現在、厳禁されているのだ。



「仕方がないではありませんか。次にヒイシと会う日程を勝手に宮廷医長から決められてしまったんですよ。私としては毎日顔を見に行きたいと言うのに」



再びため息を吐くミスラの襟元をナイが掴み上げる。



「どうしました、ナイ? 眉間に青筋が立っていますよ?」



「・・・・・・どうしたもこうしたもありませんよ? 医長から制限された原因は閣下でしょう? 『成婚前に花嫁様の身体に不調があってはなりません』、と言われた時の俺の気持ちを察して下さい、汲んで下さいっっ!」













ミスラとヒイシが閨を共にした日、一昼夜ミスラは寝室から出て来なかった。

侍女長や執事長達が本気で心配してしまうぐらいに。因みに、心配していたのはミスラではなくヒイシのことである。

そんな中で寝室から出て来たミスラは肌つやは格段に良くなり、気力に溢れて仕事に向かって行った。

片やヒイシはグッタリとしたまま目を覚まさず、慌てた侍女長達により宮廷医が呼ばれたのだ。

そして、ナイが申告された出来事へと発展する。





幾ら成婚が決まっている婚約者と云えど、毎回閨の度にこんなことを続けていたら身体を壊す。だからこそのヒイシに会う日程調整なるものが組まれたのだ。

今度ミスラがヒイシに会えるのは、兄である国王達が帰ってきた2日後である。



「・・・子どもをつくれと言う癖に、面倒なことこの上ありませんね」



「子どもを産むのは女性ですッ!! ヒイシ様に何かあってからでは遅いんですよ!!」



ナイに襟元を掴まれて身体を揺さぶられても、ミスラは平然と考え事をしている。



「陛下の花嫁にも会いたいですし、帰国が早まらないですかねぇ・・・」



「聞いてるんですか?! 俺だって妻と子どもに会いたいんですけどっ!!! 兄上――!! 早く帰国して下さ―――いッッ!!!!」



「・・・・・・・・・サイが帰ってきたら帰ってきたで、問題はあるとおもいますけれどねぇ」



「アンタら兄弟の遣らかしていることに比べたら些末です!!」



「ナイ、言葉遣いが乱れていますよ」



「誰のせいだと思っているんですかぁ―――――!!!!!!」







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