【改稿中】молитва~マリートヴァ~

了本 羊

文字の大きさ
35 / 35
第3章 悪魔の申し子が生まれた日

第35話

しおりを挟む




真夜中の王宮内の神殿内。

アエネアとタイムは神聖な場所であることは重々承知しつつも、誰の目にも見咎められないなら、と酒盛りをしていた。酒でも飲まなければやっていられなかった。

「キッツ~~!! 最近本当にキツイわ。休みがまったく取れない・・・・・・」

行儀が悪いとわかっていながらも、タイムは祭殿前の床に大の字に寝転がる。そのことに文句を言わない程度には、アエネアも連日の激務で疲れていた。







「何であんな小さい子どもに、寄って集って願いを叶えてもらうことに躍起になるんだか」

「叶うかどうかもわからないから、『願い』なのだろう? それが確実に叶うのならば、年齢など些末な問題なのだろう」

「は~~・・・、自分で叶えてこそ、喜びも一押しだと俺は思うけどねぇ・・・」

それは、願いを自力で叶える力をタイムが持っているから口に出来る言葉なのかもしれない。

だが、だからこそ、タイムの言葉は的を射ているようにアエネアは感じる。













「ああ、そういえば」

タイムが今、思い出したかのようにアエネアのほうに向き直り、酒の入ったグラスを一気に飲み干す。

「それにしてもいいのか? あんなお嬢様を娶ることに決めて」

「問題はない」

「確かに家柄も容姿も問題はないな。しかもベアートゥスだし。でもな、あのお嬢様は間違っても神様からの贈りものじゃねえよ」

タイムも今までも、多少はフィアナと言葉を交わすことがあったが、まるで異星人を相手にしているかのように話が噛み合わないところを幾度となく見ており、最終的には、自分の選択が通るようにゴリ押ししてしまう。

本人にゴリ押ししたつもりは一切ないだろう。口調はおっとりしているし、声を荒げることもない。だが、相手が何度断り、苦言を呈そうと、その意味を理解せず、目を潤ませる。

フィアナが意図してやっているのかどうかわからないが、ベアートゥスという存在は、いるだけで重宝されて然るべきもの。そんな存在に泣かれでもしたら、悪者の烙印を押され、どの国の社交界からも爪弾きにされてしまう。

結果、相手のほうがフィアナが悪くとも折れてしまうのだ。

「当たり前だ。あんな甘やかされた、頭が花畑のベアートゥスが早々いるものか」

アエネアの返答はにべもない。

「辛辣だねぇ・・・」

手の中にある空のグラスを弄びながら、タイムは天井を見つめ、再びアエネアを見る。










「アエネア、そういえば、スイちゃんにはお前がフィアナ嬢と婚約したこと、話したのか?」

今しがた思い出したかのような態度だが、タイムはフィアナのこと以上に、そのことが知りたかったに違いない。

「話していないし、誰も好んでしないだろう」

「まあなぁ」

空になったグラスに再び酒を注ぎながらも、タイムが懸念しているような口調で話すことを止めない。

「でもなぁ、スイちゃん、間違いなく、お前に恋してるんだぞ、アエネア」

そんなのは、誰の目にも明らかなことだ。

「・・・使い勝手があるのなら、あの娘と婚約しても良かったのだが」

アエネアも自身のグラスの中の酒を一気に飲み干す。

「いや、スイちゃんのほうがフィアナ嬢よりもベアートゥスとしての価値は高いだろう」

「そうだがな。恐らくあの娘は長くない」

「え? 医師から診断がおりたのか?!」

「違う。が、あの様子では、遅かれ早かれだろう」

アエネアの返答に、あ~・・・、といった風上でタイムは手と足をダラケさせる。

確かに、このままの状態が続くのならば、確実に翠は命を散らせてしまうことになるだろう。

そんな未来が易々と想像できてしまうことが、タイムを不快感にさせる。










「いや~、そんなことになったら、流石に陛下と王妃様が動かれるだろう?」

有り得る未来の、有り得る姿だ。

「今は兄上と義姉上は動けない。お前も知っているだろう?」

「確かに。どんだけ強欲達が集まってくるんだよって感じだからな」

あんな幼い少女に、崇めることをそっちのけで自分の欲望を叶えさせようとする様は、異様なほどだ。

「願いを叶えた者達には、それ相応のものを約束させた。ドルドーナ国の、兄上と義姉上の治世の繁栄に繋がることを」

アエネアも馬鹿ではない。

激務に費やされる時間の代償はキッチリと貰っている。そうでなければ割に合わないことこの上ない。

「お前は本ッ当に陛下と王妃様主上主義だねぇ~。まあ、気持ちはわかるけど」

「当たり前のことを訊くな。それに、あの娘がこの国にやって来たせいで、戦争が起こり、兄上は疲弊し、義姉上は死にかけた。それならば、代わりにその命を差し出してもお釣りがくるほどだ」

溜まっている鬱憤は何かの行動でしか発散出来はしない。

それはその時の、間違いようのないアエネアの本心からの言葉である。










タイムは呆れたような表情をしつつ、

「まめに贈り物を贈って、王宮の色々な場所を紳士的に案内して、お茶会に誘い出した人間の口にすることじゃないがなぁ」

とボヤく。

「所詮あの娘もそこいらにいる女共と大差がなかったということだろう。異界の知識は役にたったがな」

自分を見る、焦がれ憧れる異性の視線など、浴び過ぎて一々気になどしていられない。

アエネアにとって、翠もそんな1人だった。

「兄上と義姉上の治世のための贄となるために役立つことが出来るのならば、あの娘も本望だろう」

翠がこの世界で生きてこられたのは、間違いなく大国ドルドーナ国国王と王妃の後見があったからこそだ。

「俺の主君は怖い、怖い」

「減らず口を叩くな」

肩を竦ませておどけて見せるタイムに、アエネアは不機嫌な声で返答する。

「はいはい。我が主の仰せのままに」

タイムにとって、国王と王妃は尊敬に値する充分な者達だが、己の忠誠はアエネアに捧げることを幼少時に誓っている。それは今も変わらない。

そのことをアエネアも知っているからこそ、こういった気安い関係が築かれているのだ。













久しぶりの骨休めは、アエネアとタイムにとって大いに今後の激務にも耐えうる充実したものとなった。

しかし、それ故に2人は気付かない。

その会話を翠が隠し通路の扉から聞いてしまっていたこと。

聞かれてしまった事実が、後々の未来に、大きな障害と弊害となって立ち塞がってしまうことに。









しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...