四季なし人の尽きない想い

逢真まみ

文字の大きさ
3 / 7
3章 夏の国

焦がれた熱にそよぐ涼風

しおりを挟む
ツキナが次に訪れたのは、夏の国――ナツシグレ。

照りつける陽光がすべてを灼き尽くし、空はどこまでも青く、蝉の声が騒がしく響き渡る。
この国では、人々が太陽に祝福されたかのように踊り、祭り、笑い合っていた。

だが、その熱狂はあまりにも永く続いていた。
彼らは誰ひとりとして疲れを見せず、まるで「情熱を手放すこと」が許されないかのように、ただ、燃え続けていた。

ツキナが訪れた神殿では、燃えるような紅の衣をまとった巫女が、誰もいない祭壇の前でひとり、炎のように舞っていた。

「――ようこそ、巡らぬ季節の旅人さん」

巫女は微笑んだ。その瞳には、見つめる者を焼き尽くすような狂気と、かすかな切なさが揺れていた。

「夏ってね、“好き”が燃え上がる季節。
でも……燃え上がれば、燃え尽きるしかないでしょう?」

彼女が恋をしたのは、秋の国から来た吟遊詩人。
その人は、風のように静かで、音をまとうように話し、どんな熱にも呑まれない涼やかさを持っていた。

「最初はね、私の踊りにも情熱にも、全然興味を示してくれなかったの。
でも、ある夜のこと。星が降るような祭りの晩に、彼は私の前に立って言ったの――
“あなたの舞は、音のない詩のようだ”って」

――その瞬間、すべてが、焼きついた。

言葉では想いを伝えられなかった彼女は、踊ることでしか、心を表せなかった。
だから、何度も、何度も――彼の前で踊った。

「私が叫んでも、笑っても、泣いても、彼は最後まで見ていてくれたの。
“情熱的で綺麗だね”“僕は好きだな”って……
私が“夏”そのものであっても、怖がらなかった。
そんな人、はじめてだったのよ」

でも、秋の風は静かに、遠ざかっていった。
彼女の炎に包まれながらも燃え尽きることはなく、
ただ、季節に導かれて次の地へと旅立っていった。

「あの人の中に、私の“熱”が残ってるのかも分からない。
私だけが熱くなって、盛り上がって、
……ひとりで燃えてただけだったのかもしれないって思うと、
全部が、怖かったの」

だから――彼女は「夏を閉じた」。

「終わってしまったら、私、“愛されてなかった”ことになっちゃう気がして。
だから、私はあの時の熱を、そのまま封じたの。
永遠に、燃え上がったまま――私だけのものにしたかったの」

情熱は、燃え尽きることを許されなかった。
この国では、涼やかな風も、恋の終わりも、二度と訪れなくなっていた。

ツキナは、静かに言った。

「燃えるだけじゃ、何も残らない。
でも……燃え尽きたあとに残る“灰”も、きっと誰かの種を、あたたかく包んでくれるよ。
情熱のあとの風こそが、恋を“本物”に変えるんじゃないかな?」

その言葉に、巫女の舞が止まる。
炎のように揺れていた身体はふっと静まり、彼女は胸元に手を当てた。

「……ねえ、それでも、私、ちゃんと……愛されてたと思って、いいのかな?」

「うん。思っていいよ。
でも、それを証明したいなら、“次の季節”に、想いを手渡して」

その瞬間、蝉の声を裂くような雷鳴が響いた。
空がわずかに陰りを帯び、長く閉ざされていた国に――涼やかな風が、吹き始めた。

それは、情熱の果てにようやく訪れた
“夏の終わり”の、ささやかな兆しだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

処理中です...