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3章 夏の国
焦がれた熱にそよぐ涼風
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ツキナが次に訪れたのは、夏の国――ナツシグレ。
照りつける陽光がすべてを灼き尽くし、空はどこまでも青く、蝉の声が騒がしく響き渡る。
この国では、人々が太陽に祝福されたかのように踊り、祭り、笑い合っていた。
だが、その熱狂はあまりにも永く続いていた。
彼らは誰ひとりとして疲れを見せず、まるで「情熱を手放すこと」が許されないかのように、ただ、燃え続けていた。
ツキナが訪れた神殿では、燃えるような紅の衣をまとった巫女が、誰もいない祭壇の前でひとり、炎のように舞っていた。
「――ようこそ、巡らぬ季節の旅人さん」
巫女は微笑んだ。その瞳には、見つめる者を焼き尽くすような狂気と、かすかな切なさが揺れていた。
「夏ってね、“好き”が燃え上がる季節。
でも……燃え上がれば、燃え尽きるしかないでしょう?」
彼女が恋をしたのは、秋の国から来た吟遊詩人。
その人は、風のように静かで、音をまとうように話し、どんな熱にも呑まれない涼やかさを持っていた。
「最初はね、私の踊りにも情熱にも、全然興味を示してくれなかったの。
でも、ある夜のこと。星が降るような祭りの晩に、彼は私の前に立って言ったの――
“あなたの舞は、音のない詩のようだ”って」
――その瞬間、すべてが、焼きついた。
言葉では想いを伝えられなかった彼女は、踊ることでしか、心を表せなかった。
だから、何度も、何度も――彼の前で踊った。
「私が叫んでも、笑っても、泣いても、彼は最後まで見ていてくれたの。
“情熱的で綺麗だね”“僕は好きだな”って……
私が“夏”そのものであっても、怖がらなかった。
そんな人、はじめてだったのよ」
でも、秋の風は静かに、遠ざかっていった。
彼女の炎に包まれながらも燃え尽きることはなく、
ただ、季節に導かれて次の地へと旅立っていった。
「あの人の中に、私の“熱”が残ってるのかも分からない。
私だけが熱くなって、盛り上がって、
……ひとりで燃えてただけだったのかもしれないって思うと、
全部が、怖かったの」
だから――彼女は「夏を閉じた」。
「終わってしまったら、私、“愛されてなかった”ことになっちゃう気がして。
だから、私はあの時の熱を、そのまま封じたの。
永遠に、燃え上がったまま――私だけのものにしたかったの」
情熱は、燃え尽きることを許されなかった。
この国では、涼やかな風も、恋の終わりも、二度と訪れなくなっていた。
ツキナは、静かに言った。
「燃えるだけじゃ、何も残らない。
でも……燃え尽きたあとに残る“灰”も、きっと誰かの種を、あたたかく包んでくれるよ。
情熱のあとの風こそが、恋を“本物”に変えるんじゃないかな?」
その言葉に、巫女の舞が止まる。
炎のように揺れていた身体はふっと静まり、彼女は胸元に手を当てた。
「……ねえ、それでも、私、ちゃんと……愛されてたと思って、いいのかな?」
「うん。思っていいよ。
でも、それを証明したいなら、“次の季節”に、想いを手渡して」
その瞬間、蝉の声を裂くような雷鳴が響いた。
空がわずかに陰りを帯び、長く閉ざされていた国に――涼やかな風が、吹き始めた。
それは、情熱の果てにようやく訪れた
“夏の終わり”の、ささやかな兆しだった。
照りつける陽光がすべてを灼き尽くし、空はどこまでも青く、蝉の声が騒がしく響き渡る。
この国では、人々が太陽に祝福されたかのように踊り、祭り、笑い合っていた。
だが、その熱狂はあまりにも永く続いていた。
彼らは誰ひとりとして疲れを見せず、まるで「情熱を手放すこと」が許されないかのように、ただ、燃え続けていた。
ツキナが訪れた神殿では、燃えるような紅の衣をまとった巫女が、誰もいない祭壇の前でひとり、炎のように舞っていた。
「――ようこそ、巡らぬ季節の旅人さん」
巫女は微笑んだ。その瞳には、見つめる者を焼き尽くすような狂気と、かすかな切なさが揺れていた。
「夏ってね、“好き”が燃え上がる季節。
でも……燃え上がれば、燃え尽きるしかないでしょう?」
彼女が恋をしたのは、秋の国から来た吟遊詩人。
その人は、風のように静かで、音をまとうように話し、どんな熱にも呑まれない涼やかさを持っていた。
「最初はね、私の踊りにも情熱にも、全然興味を示してくれなかったの。
でも、ある夜のこと。星が降るような祭りの晩に、彼は私の前に立って言ったの――
“あなたの舞は、音のない詩のようだ”って」
――その瞬間、すべてが、焼きついた。
言葉では想いを伝えられなかった彼女は、踊ることでしか、心を表せなかった。
だから、何度も、何度も――彼の前で踊った。
「私が叫んでも、笑っても、泣いても、彼は最後まで見ていてくれたの。
“情熱的で綺麗だね”“僕は好きだな”って……
私が“夏”そのものであっても、怖がらなかった。
そんな人、はじめてだったのよ」
でも、秋の風は静かに、遠ざかっていった。
彼女の炎に包まれながらも燃え尽きることはなく、
ただ、季節に導かれて次の地へと旅立っていった。
「あの人の中に、私の“熱”が残ってるのかも分からない。
私だけが熱くなって、盛り上がって、
……ひとりで燃えてただけだったのかもしれないって思うと、
全部が、怖かったの」
だから――彼女は「夏を閉じた」。
「終わってしまったら、私、“愛されてなかった”ことになっちゃう気がして。
だから、私はあの時の熱を、そのまま封じたの。
永遠に、燃え上がったまま――私だけのものにしたかったの」
情熱は、燃え尽きることを許されなかった。
この国では、涼やかな風も、恋の終わりも、二度と訪れなくなっていた。
ツキナは、静かに言った。
「燃えるだけじゃ、何も残らない。
でも……燃え尽きたあとに残る“灰”も、きっと誰かの種を、あたたかく包んでくれるよ。
情熱のあとの風こそが、恋を“本物”に変えるんじゃないかな?」
その言葉に、巫女の舞が止まる。
炎のように揺れていた身体はふっと静まり、彼女は胸元に手を当てた。
「……ねえ、それでも、私、ちゃんと……愛されてたと思って、いいのかな?」
「うん。思っていいよ。
でも、それを証明したいなら、“次の季節”に、想いを手渡して」
その瞬間、蝉の声を裂くような雷鳴が響いた。
空がわずかに陰りを帯び、長く閉ざされていた国に――涼やかな風が、吹き始めた。
それは、情熱の果てにようやく訪れた
“夏の終わり”の、ささやかな兆しだった。
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