四季なし人の尽きない想い

逢真まみ

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6章 ツキナの章

巡る想いはつきない

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季節を巡る旅の終わり。
ツキナはひとり、白く明ける空の下に立っていた。

春の国で触れた、やさしい風。
夏の国で燃え上がった、まっすぐな情熱。
秋の国で綴られた、愛おしい記憶。
冬の国で溶けた、沈黙とぬくもり。

あの頃のわたしは、「役目」だと思っていた。
季節の国を巡り、巫女たちの想いを受け取ることが、
季節を持たない自分に与えられた使命なのだと。

けれど今、胸の奥で灯っているこの温もりが
それがただの「役目」ではなかったと教えてくれる。

春の巫女が、もう一度誰かを信じられるようになったように。
夏の巫女が、自分の気持ちをまっすぐ伝えられるようになったように。
秋の巫女が、大切な記憶を手放す決意をしたように。
冬の巫女が、閉ざしていた心をそっと開いたように。

彼女たちの想いを、わたしは静かに受け取っていた。
ほんの少しずつ、ぬくもりに触れながら。

それは、わたしのなかの「何か」を目覚めさせていたのだ。

――これは、季節を持たない“わたし”自身の物語でもあった。

「季節は巡る。何度でも、また繰り返していく。
 だけど、わたしが巡った季節は、もう二度と同じには戻らない。
 それはきっと……わたしが、変わったから」

ツキナは空に手を伸ばす。
夜明けの空が、優しく朱に染まり始めていた。

出発したあの日のわたしは、きっと空っぽだった。
だから、誰かの想いを集めて、自分を満たそうとしたのかもしれない。

けれど今、胸の中にあるこの温かさは、
誰かの言葉から生まれたものでありながら、
確かに「わたし自身の感情」になっていた。

それぞれの季節が、わたしに「愛し方」を教えてくれた。
そして今度は、わたしがそれを“誰か”へと手渡していく番。

「想いは尽きない。巡って、形を変えて、また誰かを動かしていくんだ」

ツキナはゆっくりと歩き出す。
もう、あの日のように足取りは重くない。
新しい旅が、確かに始まっている。

その背に寄り添うのは、
春風のやさしさ、夏の熱、秋の余韻、冬の静けさ。
すべての季節の光が、そっと彼女を包み込んでいた。

やっと分かった気がする。
わたしは、季節の狭間を繋ぐ“余白の季節”――ツキナ。

どこにも属さなかったわたしの中で、
すべての季節が、ひとつの形になろうとしていた。

「わたしは、どこから来たのだろう。なぜ、この旅に選ばれたのだろう」

思い返せば、旅のはじまりに明確な答えはなかった。
ただ「行きなさい」とだけ、誰かに告げられた記憶がある。
けれどきっと、それは他でもない“わたし自身”だったのだ。
想いに触れたかった。ぬくもりを知りたかった。人の心を、愛を知りたかった――

「わたしは、誰かの“願い”だったのかもしれない。
 この世界に欠けた、最後のひとつ。
 まだ名づけられていない季節――
 その余白を満たすために、生まれた存在」

朝焼けが空を染める。
その光のなかで、ツキナの輪郭がゆっくりと“名づけられて”いく。

「季節を持たなかったわたしは、旅をして、想いを繋いで……
 そして今、自分だけの“季節”を手に入れた」

それは、誰でもない。けれど、確かに存在する季節。
名づけるなら、それは――

「想いが芽吹く、余白の季節」

ここからまた、新しい物語が始まる。
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