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1章
夜明け前の招待状
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仕事帰りの冷たい夜風が、ひゅうと吹き抜け、顔を撫でていく。
駅前のコンビニで買った温かい缶コーヒーを片手に、私はひとり、自分の靴音を数えていた。
一歩、また一歩。
今日はいつもより歩幅が小さい。体が重いというより、心が沈んでいた。
今日もなんてことない、いつも通りの毎日が過ぎ去っていく。
なんてことない一日だけど、こういう何でもない日に限って、余計な思い出が蘇ってくる。
あのとき、こうしていれば、もっと人生良くなったかな。
どこかで間違えたかな――なんて考えても仕方のないことが、グルグルと頭の中で駆け回る。
あのとき、ああしていれば、私は……。
そう口に出した瞬間、夜の冷たい空気に溶けて消え入った言葉が、誰かに聞かれたような気がした。
足元に転がる郵便受けの影。その中で、淡く光る何かが目に留まった。
差出人のない封筒。
開けると、中には一枚のチケットが入っていた。
『アルファランド25周年記念特別招待券』
―あなたの“もう一度やり直したい時間”にご招待します。
……何これ。
まるで、子どもの頃に読んだ夢物語みたいだ。
冗談のつもりで手に取ったチケットは、まるで体温を持っているように温かかった。
その時、どこか遠くで、観覧車のギィ、と軋む音がした。
---
翌朝、スマートフォンの天気予報アプリは“晴れ”を告げていた。
それなのに、部屋の中は薄い霧のような白に包まれている。
カーテンを開けると、いつもの景色がなかった。
代わりに、淡いピンクと金のゲートがそびえ立っていた。
――ALPHA LAND。
思わず目を擦り、パチパチと瞬きをしてみる。夢だろうか。
いや、足元のアスファルトの感触は確かに、それが現実であることを物語っていた。
ふと服のポケットに違和感を感じ、中に手を入れてゴソゴソと探ってみると、昨夜のチケットがそこにあった。
「……何これ。行けってこと?」
誰にともなく呟くと、ゲートがゆっくりと音を立てて開いた。
穏やかな風が吹く。メリーゴーランドの楽しげな音。
どこからか漂う、甘いポップコーンの匂い。
懐かしいのに、思い出せない――そんな香り。
---
入園ゲートをくぐると、スタッフらしき人物が笑顔で立っていた。
だが、その顔には仮面がついている。
“笑顔”が描かれた仮面。
それが、妙に寒気を誘った。
「ご来園、誠にありがとうございます。本日のテーマは“恩赦”でございます」
鈴を鳴らすような声。
男か女かも分からない、透き通るような音色。
「恩赦……?」
「はい。あなたの後悔を赦すために、ここアルファランドは25年間、ゲストを迎え入れてきました」
「ゲスト……?」
「ええ。あなたもその一人です」
その瞬間、背筋に冷たい何かが走った。
スタッフの仮面の奥の瞳が、一瞬だけ金色に光ったように見えた。
---
観覧車がゆっくりと動き出す。
賑やかなカーニバルの音楽が流れ、園内に色とりどりの光が灯る。
私は、チケットを握りしめたまま、その光に吸い寄せられていった。
きっと、ここでなら――
もう一度、何かを取り戻せる気がした。
それが“後悔を赦すための遊園地”だなんて、
その時の私は、まだ知らなかった。
……そして、その観覧車が、私の人生をもう一度まわすことになるなんて――まだ知らなかった。
駅前のコンビニで買った温かい缶コーヒーを片手に、私はひとり、自分の靴音を数えていた。
一歩、また一歩。
今日はいつもより歩幅が小さい。体が重いというより、心が沈んでいた。
今日もなんてことない、いつも通りの毎日が過ぎ去っていく。
なんてことない一日だけど、こういう何でもない日に限って、余計な思い出が蘇ってくる。
あのとき、こうしていれば、もっと人生良くなったかな。
どこかで間違えたかな――なんて考えても仕方のないことが、グルグルと頭の中で駆け回る。
あのとき、ああしていれば、私は……。
そう口に出した瞬間、夜の冷たい空気に溶けて消え入った言葉が、誰かに聞かれたような気がした。
足元に転がる郵便受けの影。その中で、淡く光る何かが目に留まった。
差出人のない封筒。
開けると、中には一枚のチケットが入っていた。
『アルファランド25周年記念特別招待券』
―あなたの“もう一度やり直したい時間”にご招待します。
……何これ。
まるで、子どもの頃に読んだ夢物語みたいだ。
冗談のつもりで手に取ったチケットは、まるで体温を持っているように温かかった。
その時、どこか遠くで、観覧車のギィ、と軋む音がした。
---
翌朝、スマートフォンの天気予報アプリは“晴れ”を告げていた。
それなのに、部屋の中は薄い霧のような白に包まれている。
カーテンを開けると、いつもの景色がなかった。
代わりに、淡いピンクと金のゲートがそびえ立っていた。
――ALPHA LAND。
思わず目を擦り、パチパチと瞬きをしてみる。夢だろうか。
いや、足元のアスファルトの感触は確かに、それが現実であることを物語っていた。
ふと服のポケットに違和感を感じ、中に手を入れてゴソゴソと探ってみると、昨夜のチケットがそこにあった。
「……何これ。行けってこと?」
誰にともなく呟くと、ゲートがゆっくりと音を立てて開いた。
穏やかな風が吹く。メリーゴーランドの楽しげな音。
どこからか漂う、甘いポップコーンの匂い。
懐かしいのに、思い出せない――そんな香り。
---
入園ゲートをくぐると、スタッフらしき人物が笑顔で立っていた。
だが、その顔には仮面がついている。
“笑顔”が描かれた仮面。
それが、妙に寒気を誘った。
「ご来園、誠にありがとうございます。本日のテーマは“恩赦”でございます」
鈴を鳴らすような声。
男か女かも分からない、透き通るような音色。
「恩赦……?」
「はい。あなたの後悔を赦すために、ここアルファランドは25年間、ゲストを迎え入れてきました」
「ゲスト……?」
「ええ。あなたもその一人です」
その瞬間、背筋に冷たい何かが走った。
スタッフの仮面の奥の瞳が、一瞬だけ金色に光ったように見えた。
---
観覧車がゆっくりと動き出す。
賑やかなカーニバルの音楽が流れ、園内に色とりどりの光が灯る。
私は、チケットを握りしめたまま、その光に吸い寄せられていった。
きっと、ここでなら――
もう一度、何かを取り戻せる気がした。
それが“後悔を赦すための遊園地”だなんて、
その時の私は、まだ知らなかった。
……そして、その観覧車が、私の人生をもう一度まわすことになるなんて――まだ知らなかった。
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