1 / 2
プロローグ
0.レベル999勇者、スライムを狩る。
しおりを挟む
0.
「――やっと追い詰めたぞ、下郎め」
……其処は、とある森の最深部。
背の高い木々に囲われ、覆い茂る謎の植物の臭いが鼻を突くその森は、魔物にとって絶好の住処である死の森であった。
「この腐敗した悪の臭い……ふん、お前には相応しい墓場だろうな」
魔術による攻撃力・破壊力の強化が施された鞘から、わざとらしく音を立てて剣を手に取る。
もちろん、剣そのものにも術式が施されており、鞘と同様に各種能力の強化が行われていた。
勇者の剣。
超格好良い。
俺は、これにルビを振って勇者の剣と読んでいる。
「お終いだ」
勇者の剣を斜めに構え、呪文を詠唱する。
禁術・亜空切断――
空間ごと対象を切り裂き、その魂を亜空間へ送ることで蘇生呪文すら無効にする、禁断の剣術。
本来なら、魔王を相手に使用を考えていたほどに、高威力の斬撃を放つ勇者のスキル。
「最後に覚えておけ。俺は勇者佳苗、お前を倒す男の名を――」
地面を蹴る。
軽く、片方の足で。
ただそれだけで地面は抉れ、俺は音速のシューマッハのごとく敵に肉薄する。
反応は出来まい。
力が溢れる。魔術の詠唱が、身体全体、そして剣全体へと行き渡る。
――今だ。
「亜空切断ッッ!」
轟ッッ!! 、と辺りに轟く轟音。
魔力を纏い、空間を切り裂きこじ開けながら振り落とされる剣。
あまりの衝撃に次々と凪ぎ倒れてゆく、辺りの木々や植物。
剣は、確実に対象を捉えていた。
一寸の剣先も違わず、確実に。
その、青くぷるぷるとした、丸っこいボディのモンスター、スライム。
凶悪な、そのモンスターへと。
今、極限の一撃が振り落とされる――
すかり。
「……」
今、極限の――
すかり。
今、
すかり。
すかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすか……
り。
「……」
ぴょいん、ぴょいん。
かわいらしい動きを見せて、スライムは飛んでゆく。
俺の脇をすり抜け、元いた森の浅い部分へと帰ってゆく。
「……」
後に残されたのは、めちゃくちゃに森林破壊の施された俺の周りと、抉れた地面の欠片と、今だかつてない魔力を解き放ち、崩壊寸前の勇者の剣。
これで通算、1000回目。
……モンスターに避けられた攻撃の回数が、遂に4桁台に突入していた。
◇
そもそも、俺は弱い人間だった。
幼い頃から馬鹿にされ、小学校では一人で本読んでたし、中学にはよくカツアゲ受けてたし、高校では根性焼きとパシリと便所飯の人生だった。
ある日、運良く突っ込んできてくれたトラックに轢き殺される事でクソみたいな人生に幕を下ろし、女神に勇者認定され転生し、たくさんの仲間達と出会う事ができた。
ドジっ娘魔法使いのウィズ。
ツンデレ姫剣士のアリエル。
元気っ娘盗賊のマッシュルーム。
ヤンキー系娘ガンナーのアネゴ。
元奴隷従順娘のレッサーマミー。
トム。
皆良いヤツだった。
魔王討伐に向けて共に笑い、泣き、時には仲違いを起して、仲直りして絆を深め、一緒に冒険を冒険をしてきた仲間だ。
えっちなハプニングだってあった。
3日に1度くらいの頻度であった。
俺はこの仲間達とこれからもずっと一緒だと思ってたし、ずっと助け合って生きていく――
……そう思っていたのに。
『勇者様、私初めて料理を作ったんです。勇者様に食べてもらいたくて』
忘れもしない、魔王との最終決戦前夜。
女神から貰った成長チートによりレベルをカンストさせた俺に、祝いで従順奴隷娘のレッサーマミーが手料理を作ってくれた日の事だ。
『どうぞ』
銀のプレートに乗せられてきたのは、大量の天ぷら。
黄金色の衣に包まれ、外はぐにゅっ! 中はザクッ! とした、最強の天ぷら。
レッサーマミーとは一番長い付き合いで、仲間の中でも特に信頼を寄せ、将来は結婚してやっても良いかなと一方的に誓った仲だ。
何も疑う事なんてしなかった。
どんなに不味くても、おいしいって言ってやろうくらいの気概を持って食事に臨んだ。
『いっただっきまーす』
……気が付いたら、俺は魔王に捕獲されていた。
そんでもって、魔王のディナーにされる寸前だった。
その時知ったのだが、俺の仲間は全員グルだったそうな。
魔王と。
『俺に何をした』
と、問えば。
『呪われた装備を使った料理を食べさせ、力を無効化した』
と返ってくる。
美食家らしい魔王は、最上級の力を持った獲物を好むので、魔王様に献上するために俺に付き合っていたのだと皆は言った。
操られているのかと思って解析魔法使ったけど、そんな事は無かった。
こいつら黒い。そんな感想が、まず最初に出て来る。
……次に、まだ死にたくないと思い脱出を図り、これが見事に成功する。
ただ、それなりに追い詰められていたので無理矢理身体を転移させた。
MPを半分くらい使って。
鬼の形相で、しかも全力で俺を殺しに来る、かつての美少女仲間達を背に、俺は泣く泣く別の世界へと飛び込んだ――
が、問題はここからだった。
攻撃が当たらない。
というか、攻撃が全て"避けられてしまう"。
スライムにすら当たらない。
魔法はあらぬところに飛んでいく。
『呪われた装備を使った料理を――』
「あっ」
……この時、俺は理解した。
自分が食べさせられた装備が、何であったのかを。
そして、その装備の呪われた能力を吸収してしまった事を。
みかわしの衣。
呪われた装備の力は反転する
食材を包んだ衣の、ぐにゅっとした感触への違和感が解決した瞬間だった――
「――やっと追い詰めたぞ、下郎め」
……其処は、とある森の最深部。
背の高い木々に囲われ、覆い茂る謎の植物の臭いが鼻を突くその森は、魔物にとって絶好の住処である死の森であった。
「この腐敗した悪の臭い……ふん、お前には相応しい墓場だろうな」
魔術による攻撃力・破壊力の強化が施された鞘から、わざとらしく音を立てて剣を手に取る。
もちろん、剣そのものにも術式が施されており、鞘と同様に各種能力の強化が行われていた。
勇者の剣。
超格好良い。
俺は、これにルビを振って勇者の剣と読んでいる。
「お終いだ」
勇者の剣を斜めに構え、呪文を詠唱する。
禁術・亜空切断――
空間ごと対象を切り裂き、その魂を亜空間へ送ることで蘇生呪文すら無効にする、禁断の剣術。
本来なら、魔王を相手に使用を考えていたほどに、高威力の斬撃を放つ勇者のスキル。
「最後に覚えておけ。俺は勇者佳苗、お前を倒す男の名を――」
地面を蹴る。
軽く、片方の足で。
ただそれだけで地面は抉れ、俺は音速のシューマッハのごとく敵に肉薄する。
反応は出来まい。
力が溢れる。魔術の詠唱が、身体全体、そして剣全体へと行き渡る。
――今だ。
「亜空切断ッッ!」
轟ッッ!! 、と辺りに轟く轟音。
魔力を纏い、空間を切り裂きこじ開けながら振り落とされる剣。
あまりの衝撃に次々と凪ぎ倒れてゆく、辺りの木々や植物。
剣は、確実に対象を捉えていた。
一寸の剣先も違わず、確実に。
その、青くぷるぷるとした、丸っこいボディのモンスター、スライム。
凶悪な、そのモンスターへと。
今、極限の一撃が振り落とされる――
すかり。
「……」
今、極限の――
すかり。
今、
すかり。
すかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすか……
り。
「……」
ぴょいん、ぴょいん。
かわいらしい動きを見せて、スライムは飛んでゆく。
俺の脇をすり抜け、元いた森の浅い部分へと帰ってゆく。
「……」
後に残されたのは、めちゃくちゃに森林破壊の施された俺の周りと、抉れた地面の欠片と、今だかつてない魔力を解き放ち、崩壊寸前の勇者の剣。
これで通算、1000回目。
……モンスターに避けられた攻撃の回数が、遂に4桁台に突入していた。
◇
そもそも、俺は弱い人間だった。
幼い頃から馬鹿にされ、小学校では一人で本読んでたし、中学にはよくカツアゲ受けてたし、高校では根性焼きとパシリと便所飯の人生だった。
ある日、運良く突っ込んできてくれたトラックに轢き殺される事でクソみたいな人生に幕を下ろし、女神に勇者認定され転生し、たくさんの仲間達と出会う事ができた。
ドジっ娘魔法使いのウィズ。
ツンデレ姫剣士のアリエル。
元気っ娘盗賊のマッシュルーム。
ヤンキー系娘ガンナーのアネゴ。
元奴隷従順娘のレッサーマミー。
トム。
皆良いヤツだった。
魔王討伐に向けて共に笑い、泣き、時には仲違いを起して、仲直りして絆を深め、一緒に冒険を冒険をしてきた仲間だ。
えっちなハプニングだってあった。
3日に1度くらいの頻度であった。
俺はこの仲間達とこれからもずっと一緒だと思ってたし、ずっと助け合って生きていく――
……そう思っていたのに。
『勇者様、私初めて料理を作ったんです。勇者様に食べてもらいたくて』
忘れもしない、魔王との最終決戦前夜。
女神から貰った成長チートによりレベルをカンストさせた俺に、祝いで従順奴隷娘のレッサーマミーが手料理を作ってくれた日の事だ。
『どうぞ』
銀のプレートに乗せられてきたのは、大量の天ぷら。
黄金色の衣に包まれ、外はぐにゅっ! 中はザクッ! とした、最強の天ぷら。
レッサーマミーとは一番長い付き合いで、仲間の中でも特に信頼を寄せ、将来は結婚してやっても良いかなと一方的に誓った仲だ。
何も疑う事なんてしなかった。
どんなに不味くても、おいしいって言ってやろうくらいの気概を持って食事に臨んだ。
『いっただっきまーす』
……気が付いたら、俺は魔王に捕獲されていた。
そんでもって、魔王のディナーにされる寸前だった。
その時知ったのだが、俺の仲間は全員グルだったそうな。
魔王と。
『俺に何をした』
と、問えば。
『呪われた装備を使った料理を食べさせ、力を無効化した』
と返ってくる。
美食家らしい魔王は、最上級の力を持った獲物を好むので、魔王様に献上するために俺に付き合っていたのだと皆は言った。
操られているのかと思って解析魔法使ったけど、そんな事は無かった。
こいつら黒い。そんな感想が、まず最初に出て来る。
……次に、まだ死にたくないと思い脱出を図り、これが見事に成功する。
ただ、それなりに追い詰められていたので無理矢理身体を転移させた。
MPを半分くらい使って。
鬼の形相で、しかも全力で俺を殺しに来る、かつての美少女仲間達を背に、俺は泣く泣く別の世界へと飛び込んだ――
が、問題はここからだった。
攻撃が当たらない。
というか、攻撃が全て"避けられてしまう"。
スライムにすら当たらない。
魔法はあらぬところに飛んでいく。
『呪われた装備を使った料理を――』
「あっ」
……この時、俺は理解した。
自分が食べさせられた装備が、何であったのかを。
そして、その装備の呪われた能力を吸収してしまった事を。
みかわしの衣。
呪われた装備の力は反転する
食材を包んだ衣の、ぐにゅっとした感触への違和感が解決した瞬間だった――
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる