レベルカンストしてるのにスライムが倒せません!~天ぷらのせい~

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プロローグ

0.レベル999勇者、スライムを狩る。

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0.



「――やっと追い詰めたぞ、下郎め」



 ……其処は、とある森の最深部。
 背の高い木々に囲われ、覆い茂る謎の植物の臭いが鼻を突くその森は、魔物にとって絶好の住処である死の森であった。
 


「この腐敗した悪の臭い……ふん、お前には相応しい墓場だろうな」



 魔術による攻撃力・破壊力の強化が施された鞘から、わざとらしく音を立てて剣を手に取る。
 もちろん、剣そのものにも術式が施されており、鞘と同様に各種能力の強化が行われていた。

 勇者の剣。

 超格好良い。
 俺は、これにルビを振って勇者の剣ブレイブ・オレノ・ソードと読んでいる。



「お終いだ」



 勇者の剣を斜めに構え、呪文を詠唱する。

 禁術・亜空切断――

 空間ごと対象を切り裂き、その魂を亜空間へ送ることで蘇生呪文すら無効にする、禁断の剣術。
 本来なら、魔王を相手に使用を考えていたほどに、高威力の斬撃を放つ勇者のスキル。



「最後に覚えておけ。俺は勇者佳苗かなえ、お前を倒す男の名を――」



 地面を蹴る。
 軽く、片方の足で。
 
 ただそれだけで地面は抉れ、俺は音速のシューマッハのごとく敵に肉薄する。
 反応は出来まい。
 
 力が溢れる。魔術の詠唱が、身体全体、そして剣全体へと行き渡る。
 
 ――今だ。



「亜空切断ッッ!」



 轟ッッ!! 、と辺りに轟く轟音。
 魔力を纏い、空間を切り裂きこじ開けながら振り落とされる剣。
 あまりの衝撃に次々と凪ぎ倒れてゆく、辺りの木々や植物。

 剣は、確実に対象を捉えていた。
 一寸の剣先も違わず、確実に。

 その、青くぷるぷるとした、丸っこいボディのモンスター、スライム。

 凶悪な、そのモンスターへと。
 今、極限の一撃が振り落とされる――





 すかり。





「……」

 

 今、極限の――



 すかり。



 今、



 すかり。



 すかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすかすか……

 り。



「……」



 ぴょいん、ぴょいん。

 かわいらしい動きを見せて、スライムは飛んでゆく。
 俺の脇をすり抜け、元いた森の浅い部分へと帰ってゆく。
 


「……」



 後に残されたのは、めちゃくちゃに森林破壊の施された俺の周りと、抉れた地面の欠片と、今だかつてない魔力を解き放ち、崩壊寸前の勇者の剣。
 
 これで通算、1000回目。
 ……モンスターに避けられた攻撃の回数が、遂に4桁台に突入していた。











 そもそも、俺は弱い人間だった。

 幼い頃から馬鹿にされ、小学校では一人で本読んでたし、中学にはよくカツアゲ受けてたし、高校では根性焼きとパシリと便所飯の人生だった。
 
 ある日、運良く突っ込んできてくれたトラックに轢き殺される事でクソみたいな人生に幕を下ろし、女神に勇者認定され転生し、たくさんの仲間達と出会う事ができた。
 

 ドジっ娘魔法使いのウィズ。
 ツンデレ姫剣士のアリエル。
 元気っ娘盗賊のマッシュルーム。
 ヤンキー系娘ガンナーのアネゴ。
 元奴隷従順娘のレッサーマミー。
 トム。


 皆良いヤツだった。
 魔王討伐に向けて共に笑い、泣き、時には仲違いを起して、仲直りして絆を深め、一緒に冒険を冒険をしてきた仲間だ。
 

 えっちなハプニングだってあった。
 3日に1度くらいの頻度であった。


 俺はこの仲間達とこれからもずっと一緒だと思ってたし、ずっと助け合って生きていく――

 ……そう思っていたのに。



『勇者様、私初めて料理を作ったんです。勇者様に食べてもらいたくて』



 忘れもしない、魔王との最終決戦前夜。
 女神から貰った成長チートによりレベルをカンストさせた俺に、祝いで従順奴隷娘のレッサーマミーが手料理を作ってくれた日の事だ。



『どうぞ』



 銀のプレートに乗せられてきたのは、大量の天ぷら。
 黄金色の衣に包まれ、外はぐにゅっ! 中はザクッ! とした、最強の天ぷら。

 レッサーマミーとは一番長い付き合いで、仲間の中でも特に信頼を寄せ、将来は結婚してやっても良いかなと一方的に誓った仲だ。
 
 何も疑う事なんてしなかった。
 どんなに不味くても、おいしいって言ってやろうくらいの気概を持って食事に臨んだ。



『いっただっきまーす』



 ……気が付いたら、俺は魔王に捕獲されていた。
 そんでもって、魔王のディナーにされる寸前だった。

 その時知ったのだが、俺の仲間は全員グルだったそうな。
 魔王と。



『俺に何をした』



 と、問えば。



『呪われた装備を使った料理を食べさせ、力を無効化した』



 と返ってくる。

 美食家らしい魔王は、最上級の力を持った獲物を好むので、魔王様に献上するために俺に付き合っていたのだと皆は言った。
 操られているのかと思って解析魔法使ったけど、そんな事は無かった。

 こいつら黒い。そんな感想が、まず最初に出て来る。

 ……次に、まだ死にたくないと思い脱出を図り、これが見事に成功する。

 ただ、それなりに追い詰められていたので無理矢理身体を転移させた。
 MPを半分くらい使って。

 鬼の形相で、しかも全力で俺を殺しに来る、かつての美少女仲間達を背に、俺は泣く泣く別の世界へと飛び込んだ――
 


 が、問題はここからだった。
 
 攻撃が当たらない。
 というか、攻撃が全て"避けられてしまう"。

 スライムにすら当たらない。
 魔法はあらぬところに飛んでいく。
 
 


『呪われた装備を使った料理を――』



「あっ」

 ……この時、俺は理解した。
 自分が食べさせられた装備が、何であったのかを。
 そして、その装備の呪われた能力を吸収してしまった事を。





 みかわしの衣。





 
 食材を包んだ衣の、ぐにゅっとした感触への違和感が解決した瞬間だった――

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