幼女錬成 ―金貨から生まれた魔物娘(もんむす)とスローライフを送りたい―

体育館シューズ

文字の大きさ
3 / 8

意思疎通を図ろう

しおりを挟む

 屋敷の裏にある、ほとんど使っていなかった倉庫。

 僕が昔使っていた本やら何やらの仕舞われている其処を漁る事一時間、
 やっと目的の物を見つける事が出来た。

 はじめての ことば。

 そう表紙に書かれただけのシンプルな本だ。

「これこれ……」

 中身もペラペラと捲って見る。
 書いてあるのは大体、基本的な言葉の羅列。
 あ。とか、い。とかね。
 まさに言葉を発するようになった幼児向けの物で、今の幼女にはピッタリだ。

 発音の仕方について分かりやすく載っているので、教える側にも優しい設計。
 言葉って、いざ一から教えるとなると結構大変だからね。

「……何だか、親になった気分かも」

 まだ意思疎通をして一日たりとも経っていないのに、既に情が移ってしまっているようだ。
 いやまあ、親なら多分、
 彼女のリンゴとか気にしないんだろうけど……。

 ……。

 だ、だめだ。
 これじゃ本当に変態だ。

 しっかりしろ、天下の合成魔術師。
 あんな子供に変な気を覚えるなんてあり得ないぞ。

 そうだ、別の事を考えよう。
 大きいと言えば、彼女の数値だ。

 DEF3000以上って、仮に本当だとするならどれだけなんだろう?
 確か、屈強なおっさんでも200くらい。

 そもそも、普通の人間は防具や魔法で自分の身を守るから素の数値は低い。
 確か、ユニコーンは相当高いって聞いたことあるけど……あれは、毛皮があるからだろうな。
 幼女は毛皮どころか、ぷにぷにって肌が柔らかいし。

 ……やっぱり、表記がおかしかったのかな?

 となると、INTの数値も正格かも怪しい。
 一抹の不安を覚えながら、僕は足早に屋敷へと戻った。


*****


「うぅ?」
「プレゼントだよ、君にあげるの」

 部屋に戻ってすぐ、幼女に本を広げて見せた。
 幼女は首を捻りながら僕と本を交互に見る。
 どうやら、これが彼女なりの意思の表し方らしい。
 これ、食べていいのとかそんな感じの。

 僕も同じようにジェスチャーとして、指を使いバツを作る。
 バツの意味が通じるのか、果たして不明だけれども。

「んぅ……」

 でも、幼女は意味を理解してくれたらしい。
 残念そうな表情を浮かべると、本をパシンと叩き落として僕の鳩尾目掛けて抱きついてきた。

「んーっ」
「ふんぐっ」

 嬉しそうな幼女とは対象に苦悶の表情を浮かべる僕。
 角、角が!

 うう……。

 苦しいけど、そう簡単に無下にも出来ない。
 折角警戒心を解いて、
 ……解き過ぎている気もするけど、ともかく懐いてくれたんだ。

 僕としてもあまり悪い気はしないし、こういうのは言葉を覚える事が出来た後でダメだって教えてあげていけばいい。

「ほ、ほら。とりあえず座ろう、ね?」

 無理に幼女を引き剥がそうとして、やっぱ無理で、無理やり座り込む。
 ATKの数値、あながち間違ってないかもな……。

 手を伸ばして本を回収しながら、そんな事を思った。

「ほら、これが "ことば" だよ」

 再び本を広げて、僕の腹部に顔をうずめている柔らかいリンゴが気持ち良い……違った。
 腹部に顔をうずめている幼女に声をかける。

「んー……」

 渋々といった形で幼女は本の方を向き、丁度僕が膝の上に載せるような形になる。
 あ、これいいね。
 何だか本当に、父親になった気分がする。

「これが分かるようになれば、もっと簡単に意思疎通が出来るんだよ」
「?」
「えっと……」

 困ったな。

 これがわかれば、もっとたのしい……みたいな。
 こういう時、どんなジェスチャーで伝えてあげたらいいのだろう?

 んー。
 少しだけ考えて、僕はとりあえず本に書いてある『あ』の文字を指す。

「『あ』」
「……んぅ?」
「『あ』」
「……『んぁ』?」
「お、惜しい惜しい」

 どうやらこの方法で通じるらしい。
 僕が物を指して発音して、それを真似する。
 言葉に出さずともそれを察した辺り、確かに頭が良いかもしれない。

 もしかしたら、本当にあの数値通りだったり。
 なんて、期待が高まってくる。

「『んぁ』」
「また惜しいね。えっと……」

 本に書いてある通り、舌をつけたまま遠くに発音してみるのだとジェスチャーで教える。

「『にゃ』」
「……か、可愛いんだけど、遠ざかったね」
「『んゃ』」
「うーん、と、もっとこう……」
「んゅ……」

 中々上手く出来ないからか、幼女の表情が次第に曇っていってしまう。

 ああ、まずい。
 こういった学びの場において、自分は出来ないという劣等感を覚えてしまったら致命的だ。

「大丈夫。最初は僕が教えてあげるから、
 これからゆっくりと覚えれば、ね。」

 こういう時に大切なのは優しい言葉。
 決して咎めたりしてはいけないのだ。

 こういった場合、本人は自分が間違っているときちんと分かっているのだから、
 そこを更に追求するのは野暮である。

「ん……」

 僕の表情をチラと伺う幼女。
 このタイミングを逃さずに、そっと頭を撫でてやる。

「ん!」

 幼女は再び笑顔に戻って、ぐいと本に顔を近づける。

 "もっかいやってほしい"

 そういう合図だろう。

「うん、その意気だよ」

 どうやら、僕の選択は間違っていなかったようだ。
 何だか僕まで嬉しくなりながら、再び言葉の勉強を再開する。

 僕らは、まだ出会って意思疎通を交わして一日も経っていない。
 けれど、彼女といると、僕の中に何だか、暖かい気持ちが芽生えてくるのが感じられるのだった。

「『んぁ』! 『ぁう』! 『あぅーっ』!」

 何となくだけど、
 彼女はきっと近いうちに、僕が思っているよりも早く言葉という物を理解するだろう。
 そしたら今度は、もっと色々な言葉とその意味を教えていこう。
 これで意思疎通がぐっと楽になっていくはずだ。

 そうだ、今度は……名前を付けてあげようかな。
 いつまでも幼女呼びのままじゃ、不便だし。

 ……幼女の為に文字を読み上げながら、そんな事を考えるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...