幼女錬成 ―金貨から生まれた魔物娘(もんむす)とスローライフを送りたい―

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意思疎通を図ろう

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 屋敷の裏にある、ほとんど使っていなかった倉庫。

 僕が昔使っていた本やら何やらの仕舞われている其処を漁る事一時間、
 やっと目的の物を見つける事が出来た。

 はじめての ことば。

 そう表紙に書かれただけのシンプルな本だ。

「これこれ……」

 中身もペラペラと捲って見る。
 書いてあるのは大体、基本的な言葉の羅列。
 あ。とか、い。とかね。
 まさに言葉を発するようになった幼児向けの物で、今の幼女にはピッタリだ。

 発音の仕方について分かりやすく載っているので、教える側にも優しい設計。
 言葉って、いざ一から教えるとなると結構大変だからね。

「……何だか、親になった気分かも」

 まだ意思疎通をして一日たりとも経っていないのに、既に情が移ってしまっているようだ。
 いやまあ、親なら多分、
 彼女のリンゴとか気にしないんだろうけど……。

 ……。

 だ、だめだ。
 これじゃ本当に変態だ。

 しっかりしろ、天下の合成魔術師。
 あんな子供に変な気を覚えるなんてあり得ないぞ。

 そうだ、別の事を考えよう。
 大きいと言えば、彼女の数値だ。

 DEF3000以上って、仮に本当だとするならどれだけなんだろう?
 確か、屈強なおっさんでも200くらい。

 そもそも、普通の人間は防具や魔法で自分の身を守るから素の数値は低い。
 確か、ユニコーンは相当高いって聞いたことあるけど……あれは、毛皮があるからだろうな。
 幼女は毛皮どころか、ぷにぷにって肌が柔らかいし。

 ……やっぱり、表記がおかしかったのかな?

 となると、INTの数値も正格かも怪しい。
 一抹の不安を覚えながら、僕は足早に屋敷へと戻った。


*****


「うぅ?」
「プレゼントだよ、君にあげるの」

 部屋に戻ってすぐ、幼女に本を広げて見せた。
 幼女は首を捻りながら僕と本を交互に見る。
 どうやら、これが彼女なりの意思の表し方らしい。
 これ、食べていいのとかそんな感じの。

 僕も同じようにジェスチャーとして、指を使いバツを作る。
 バツの意味が通じるのか、果たして不明だけれども。

「んぅ……」

 でも、幼女は意味を理解してくれたらしい。
 残念そうな表情を浮かべると、本をパシンと叩き落として僕の鳩尾目掛けて抱きついてきた。

「んーっ」
「ふんぐっ」

 嬉しそうな幼女とは対象に苦悶の表情を浮かべる僕。
 角、角が!

 うう……。

 苦しいけど、そう簡単に無下にも出来ない。
 折角警戒心を解いて、
 ……解き過ぎている気もするけど、ともかく懐いてくれたんだ。

 僕としてもあまり悪い気はしないし、こういうのは言葉を覚える事が出来た後でダメだって教えてあげていけばいい。

「ほ、ほら。とりあえず座ろう、ね?」

 無理に幼女を引き剥がそうとして、やっぱ無理で、無理やり座り込む。
 ATKの数値、あながち間違ってないかもな……。

 手を伸ばして本を回収しながら、そんな事を思った。

「ほら、これが "ことば" だよ」

 再び本を広げて、僕の腹部に顔をうずめている柔らかいリンゴが気持ち良い……違った。
 腹部に顔をうずめている幼女に声をかける。

「んー……」

 渋々といった形で幼女は本の方を向き、丁度僕が膝の上に載せるような形になる。
 あ、これいいね。
 何だか本当に、父親になった気分がする。

「これが分かるようになれば、もっと簡単に意思疎通が出来るんだよ」
「?」
「えっと……」

 困ったな。

 これがわかれば、もっとたのしい……みたいな。
 こういう時、どんなジェスチャーで伝えてあげたらいいのだろう?

 んー。
 少しだけ考えて、僕はとりあえず本に書いてある『あ』の文字を指す。

「『あ』」
「……んぅ?」
「『あ』」
「……『んぁ』?」
「お、惜しい惜しい」

 どうやらこの方法で通じるらしい。
 僕が物を指して発音して、それを真似する。
 言葉に出さずともそれを察した辺り、確かに頭が良いかもしれない。

 もしかしたら、本当にあの数値通りだったり。
 なんて、期待が高まってくる。

「『んぁ』」
「また惜しいね。えっと……」

 本に書いてある通り、舌をつけたまま遠くに発音してみるのだとジェスチャーで教える。

「『にゃ』」
「……か、可愛いんだけど、遠ざかったね」
「『んゃ』」
「うーん、と、もっとこう……」
「んゅ……」

 中々上手く出来ないからか、幼女の表情が次第に曇っていってしまう。

 ああ、まずい。
 こういった学びの場において、自分は出来ないという劣等感を覚えてしまったら致命的だ。

「大丈夫。最初は僕が教えてあげるから、
 これからゆっくりと覚えれば、ね。」

 こういう時に大切なのは優しい言葉。
 決して咎めたりしてはいけないのだ。

 こういった場合、本人は自分が間違っているときちんと分かっているのだから、
 そこを更に追求するのは野暮である。

「ん……」

 僕の表情をチラと伺う幼女。
 このタイミングを逃さずに、そっと頭を撫でてやる。

「ん!」

 幼女は再び笑顔に戻って、ぐいと本に顔を近づける。

 "もっかいやってほしい"

 そういう合図だろう。

「うん、その意気だよ」

 どうやら、僕の選択は間違っていなかったようだ。
 何だか僕まで嬉しくなりながら、再び言葉の勉強を再開する。

 僕らは、まだ出会って意思疎通を交わして一日も経っていない。
 けれど、彼女といると、僕の中に何だか、暖かい気持ちが芽生えてくるのが感じられるのだった。

「『んぁ』! 『ぁう』! 『あぅーっ』!」

 何となくだけど、
 彼女はきっと近いうちに、僕が思っているよりも早く言葉という物を理解するだろう。
 そしたら今度は、もっと色々な言葉とその意味を教えていこう。
 これで意思疎通がぐっと楽になっていくはずだ。

 そうだ、今度は……名前を付けてあげようかな。
 いつまでも幼女呼びのままじゃ、不便だし。

 ……幼女の為に文字を読み上げながら、そんな事を考えるのだった。
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