立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

文字の大きさ
39 / 43
香梨と沙恵子

香梨と沙恵子の場合 2-1

しおりを挟む
「香梨ちゃん、泊めてくんない?」

 私の大学時代の先輩で一番尊敬する女性ひと、南沙恵子は突然そう言い出した。



 ゴールデンウィークの前半の夕方、一件のメールが入った。

『時間ある?  極力早い方が有り難い』

 急いで打ったような文だと思い、こちらも一言で返した。

『電話しても良いですか?』

 着信音が電話のものに変わり、返事が来た。

「もしもし、香梨ちゃん。今どこ?」
「家です」
「行ってもいい?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう!  あと十分くらいで着くから」

 「近いですね」と言う前に電話が切れる。お菓子でも用意しようかと台所に向かったが何も無かった。近くのコンビニに買いに行こうかと準備しているうちにインターホンが鳴る。
 先輩は膨らんだレジ袋を持って、リュックを背負っていた。

「いらっしゃい」
「ごめんねー、急に押しかけて」

 家に入るなりレジ袋を置いた。中にはお菓子や食べ物が見えた。
 荒くなった息を整えて早速話を切り出す。冒頭で述べた通りだ。
 何事かと思った。立ち退きでもあったのだろうか? 隣人と揉めたのだろうか? 様々な考えが頭に浮かんだ。先輩は烏龍茶を一気に飲み干すとまた話始める。

「いやー、お母さんがこっちに旅行に来るから泊めてって行ったんだけど、お父さんも一緒らしくて、流石に三人は寝れないから私が外に泊まるって言って出てきたの」

 理由を聞いて安堵した。

「ご両親はいつまでこちらに?」
「今日から三泊四日。連休終わりにこっちを発つって」
「大丈夫ですよ」
「ほんとごめん」

 少し落ち着いたところで、一つ気になることがあった。

「寝袋とか持ってきてますか? 布団は無いですよ……」
「あー、大丈夫。雨風しのげる場所だけ貸してくれれば」
「まだ収めてないんで毛布使います?」
「ありがとう。お言葉に甘えるよ」

 汗ばんだ先輩にシャワーをすすめた。「一緒に入る?」などと冗談めかしてきたが「そんなスペースはないです」と一蹴してやった。膨らんだリュックの中からタオルと着替えを取り出してシャワールームへと入っていった。

「ふぅー、さっぱりした」

 先輩がシャワーを終えたようだ。ドライヤーはあるかと聞かれたので場所を教えた。その時に見えた髪を下ろした姿は別人のようだった。普段からお洒落というものをほとんどしない人だ。肩甲骨ほどの長さの髪は後ろで結ぶだけ、化粧も申し訳程度だ。サラッとした髪から漂うシャンプーの香りがほどよい色気を醸し出す。もっとも、本人はそんなこと思ってもいないだろう。
 ドライヤーの音が止まった。

「香梨ちゃん、ここの家賃いくら?」
「五万ちょっとです」

 東京まで一時間半くらいの距離で1DKならそこそこ安い。父の伝手で紹介してもらったのだ。

「安いねー。私のとこここより狭くて五万五千だよ」

 実は先輩の家には一度しかお邪魔したことがなく、その時は酔っていてほとんど覚えていない。

「もし良かったらさ、ルームシェアしない?」

 唐突だった。実を言うと、冒頭の言葉よりも驚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。 紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。 根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。 しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。 おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。 犯人候補は一人しかいない。 問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

処理中です...