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4.調子が悪い日続。※おむつ
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気を抜くとすぐに泣き出してしまいそうで、陽登は腕をつねって気をそらしながらトイレに向かった。
最悪なことばかりだ。
おむつで外へ出てくるのは嫌だった。だけど鷹橋には迷惑をかけっぱなしで自信も喪失してたし、漏らすよりはマシと何度も言い聞かせてひたすら悩んだ末に『念の為』と履いてくることに決めた。鷹橋の大丈夫、という言葉にすこしだけ勇気をもらえたし安心できたから。
外に出てすぐに落ち着かなくて緊張で吐きそうになって後悔した。
バレないためにも汚さないようにしないとと言う気持ちとは裏腹にオムツを履いていることで身体がしても大丈夫とでも思っているのか、パンツを履いているとき以上に我慢しようとしても上手くできずにすぐに濡らしてしまい、一度お漏らししてしまうともう全然我慢が利かず英語の時間どころか何度も少量ずつ漏らしてしまった。授業事にトイレにはちゃんと行ってるはずなのにトイレではうまく出ないまま、いよいよお尻まで濡れてパンパンになってしまって漏れないか臭い等でバレないかと不安になっていたところに鷹橋に声をかけられてバレたんだと思った。
その後昼休みになっても立ち上がる勇気がなくて、鷹橋が手を引いてくれなかったら今ごろ教室を抜け出すこともできないまま途方に暮れていたと思う。
もうおむつなんてとれていて当たり前の高校生なのに、おむつなんてまっぴらなのに、今はパンツに履き替えることのほうがこわいのが情けない。
なるべく人気の少ないトイレでなるべく静かにおむつを破って袋に入れ、誰かにバレやしないかと不安になりながら少し悩んだ末にゴミ箱に捨てる。
おむつを履いていたせいでパンツがやけに薄く感じて心もとなく、午後を過ごすことが不安で仕方なくて、不安だとおもうとまた余計にトイレに行きたくなる。
行きたいときにトイレに行けないことも、授業中は行けないとわかってるから尿意もないのに休み時間はトイレに行ってみるのもつらい。今日はトイレを不安に思いすぎて授業の内容もさっぱり入ってこなかった。
……早退したい。
陽登の頭の中はそれだけだった。
なんとなく気まずくて、着替えてトイレから出てすぐには鷹橋のもとへかえれず、人気のない階段の踊り場でなんとなく立っているのがしんどくてしゃがみ込んだ。
保健室にいって…早退できる流れを考えようとしたけれど、本当のことも言いたくないしうまく嘘をついて言い訳できる気もしない。
要領が悪く早退一つすら許可を得る勇気が出なくて途方に暮れた。誰もいないのをいいことに少しの間立ち上がらずに何とか泣かないように息を整えて太腿をつねる。痛みを感じると少しは気が紛れる。
貴重な休み時間の3分を使ってようやく一先ず待たせている鷹橋のもとへいかなきゃ、と立ち上がった。
鷹橋は陽登がいない間売店のパンを買っていたようで外で食べようと中庭に誘った。
最悪なことばかりだけど、鷹橋とご飯を食べられるのは嬉しくて少しだけ気分が和ぐ。少し秋には近づいてきたもののまだ外は暑いせいで人が少ない。それに陽登はすこしホッとした。
「弁当持ってきた?パンいる?」
鷹橋は買ってきたパンを並べてとっていいよ、といった。
陽登はおにぎりがあるから大丈夫。と家から持ってきた昆布のおにぎりを一つ見せると、鷹橋はメロンパンを一つ取って陽登の膝の上に乗せた。
「そんなちっちゃいおにぎり1個じゃ足りないだろ。くって」
「あ、ありがと…でも、たべきれないから」
そう返すとふたたび渡される。
「じゃあとでおやつにでも食えよ」
「で、でも、でもっ」
あわてて返そうとする陽登を無視して鷹橋は雑談を始める。失敗の落ち込みからうまく笑顔を取り繕えなくて、言葉もいつも以上に詰まるし口数を無意識に減らした陽登を気遣ってなのか、話題はお笑いの話やゲームなどの明るい話題だった。
その明るい気分を切り替えられるような会話にも集中できず、午後の授業の不安さに時々意識がそれ、曖昧な返事をしてしまったことで鷹橋は心配そうに陽登を覗いた。
「大丈夫…?」
「う、うん、ごめん……」
しゃべらない分食が進んでもう食べ終わったおにぎりの殻を何となく片付けられず手に持ったまま、陽登は何か言わなきゃ、と思った。
一緒にご飯を食べても楽しくないと思われたくなかった。
でも考えても何も浮かばないし、午後の授業が不安で自分のことで精一杯で思考が停止した。
「授業……でたくないな」
ボソ、と陽登はつぶやく。
「でも帰りたくない……」
どうしようもないことをいって、それから少しだけ後悔する。
「あ、ごっご、ご、ごめん、へへへんなこといって」
慌ててごまかそうとすると、鷹橋は2つ目に食べていたコロッケパンの残りを一口で食べきったあと急いで飲み込み、ペットボトルのお茶をぐっと飲んだ後一つのびをした。
「サボるかぁ!」
爽やかにいう鷹橋に驚いて二度見をする。
「えっ?」
サボりという選択肢など考えたこともなく、先生に声をかけて早退するってことなのか、何も言わずでるのか、親に連絡は行かないのか、そもそも学校をサボるなんていけないことで……と色々なことが陽登の頭に浮かんで渋滞してパンクしそうになる。からかわれたのでは?と一つの答えのようなものが頭に浮かんできて、
「あっ!じょ、冗談、かぁ…」
と笑った。真に受けて恥ずかしいけど、冗談なら納得できると陽登は照れ隠しに鼻をかく。
すると鷹橋は立ち上がった。
「本気!ちょいまってて」
鷹橋は駆け上がってあっという間に教室から鞄を取って戻ってくると陽登の手を引いた。
それから裏門に向かおうとして足を止め保健室により、陽登が一言も喋ることない間に陽登の早退理由をいけしゃあしゃあとでっち上げ、先生に陽登も質問をされて首を少し縦に動かしただけで早退がきまって、流れのまま鷹橋は陽登の手を引いて人のいない裏門をこっそりでて、またはしって、電車に乗った。
あっという間だった。
気づけば海まで来ていた。
陽登が要領悪く駅の人混みの中でも海へと向かう道までも人にぶつかりそうになり迷子になりかけもたもたしているせいで、鷹橋はずっとここまで陽登の手を引いて連れてきてくれて、砂浜まできた今もまだ手を握ったままだ。
半歩後ろから陽登は海を見る鷹橋の横顔をそっと見る。彼は手を握っていることなどまるで意識していない様子でまぶしい太陽に目を細め遠くを見ていた。
男同士高校生がこんな時間にこんな場所で手を握って立っているというのは違和感のある風景だけど、人は遠くにチラホラとしかいない。気にし過ぎなのは分かっているけど、人に見えていないだろうことを確かめて陽登は安心した。
そして安心したことにすこしの罪悪感感じる。
それから陽登だけがこの手を意識しているのだと急に妙に恥ずかしくなって、意識している自分が一番下心があってやましい人間なのではないかと考えて爆発しそうだった。触れ合った手のひらが熱い。自分の手汗が鷹橋を汚してしまうような気がして早く手を離したい気持ちにかられたけれど、しっかりと握られた手を自分から振り払う勇気もない。
海を見る余裕など陽登にはなく、ただ波の音にも勝るほどの大きな自分の鼓動の音がどうか聞こえていませんようにとだけ願っていた。
「あ、ごめん」
ぱっと突然鷹橋が手を離す。
はっと陽登が顔を上げると、真っ赤になった鷹橋が口元を押さえて照れたように目を逸らしていた。
(鷹橋も、こんな顔するんだ)
鼓動は今もまだ弾んだまま、そのさくらんぼのような熱気を帯びた顔に、耳に、触れてみたくなって陽登はふと手を伸ばした。
顔の近くまで手を持っていったところで鷹橋が不思議そうに首を傾げ陽登の方を見たことで陽登は正気に戻って手を引っ込める。
「ん?なに?なんかついてた?」
「あ、えとっあっ、あの、その、かっか髪にゴミが……」
本当は何処にも何もついていないのに嘘をついて誤魔化すと鷹橋は髪を手ぐしでといた。
「えーっはず」
照れたように笑う鷹橋が、可愛いと思った。
「とれた?」
陽登がコクリと頷く。
「なぁ、海、はいろ」
鷹橋はそういうと返事をまたずにローファーと靴下を脱いで裸足になり、ズボンをまくりあげて砂浜を駆け出した。
「はやく!」
鷹橋が手招きをする。
言われるがまま、陽登も同じように裸足になって追いかける。砂は火傷しそうなほど熱かった。波打ち際まで来ると水に濡れた砂は少し冷えていて落ち着いて立てるようになり、鷹橋が波打ち際の水の中に入っていくのを見て陽登も少し怖気付きながら水に入るとひんやりと気持ちよかった。
海に入るのは何年ぶりだろう。
もう何年も、こんな砂浜まできたことがなかったから、不思議な感覚だった。足元をなでる砂が少しくすぐったい。
ふいに足元にパシャリと大きく水がかかり、驚いて水のきた方を見ると鷹橋がいたずらっぽく笑って、もう一度陽登のほうに水を蹴った。
「わっ」
せっかく裾をまくりあげたのに少し濡れた制服をみて、むっとするとまた鷹橋は水をかけてくる。
「やり返さないとずぶ濡れになるぞ」
そう言って容赦なくバシャバシャと両手で水をかけてきて、びしょぬれになったから陽登も少し怒ってムキになってやり返すと鷹橋は軽やかに笑って応戦した。お互い容赦なく水を掛け合って濡れながら遊んでるうち少し大きな波が来て、驚いて陽登は体勢を崩して尻もちをついた。
パンツの中までびしょ濡れの泥だらけになって呆然としてると鷹橋が大笑いをする。
「だっさ!転ぶか普通そこで。大丈夫?」
余裕を持って差し伸べてくる手がなんだか憎たらしくて引っ張ると、鷹橋は予想してなかったようで陽登に覆いかぶさるようにして倒れた。
「わっ危な……」
鷹橋が陽登の方を見る。
波打ち際に二人座り込んだまま、まだ高い太陽がジリジリと二人の肌を焼いていた。髪まで濡れてあらわになった陽登の瞳は太陽に照らされブルーグレーにビー玉みたいに光って、鷹橋が見惚れているとすぐに陽登は目を逸らした。
前髪を戻そうとして濡れてどうしようもないことに気づいて顔を隠しながら陽登は鷹橋を少し強引に押しのけて立ち上がって距離をとってしゃがみ込んだ。
広瀬の後ろ姿の呼吸が荒くて鷹橋は不安になって、近くに歩み寄る。目を合わせるのが苦手って言ってたっけ、と思い出して不可抗力とは言え申し訳なく思う。
「大丈夫……?ごめん……」
広瀬は片手をひらひらとさせた。多分、大丈夫か離れてくれの意味だと受け取って少しそっとしておくことにして、濡れた服を絞りながら乾いた砂浜の方へ歩き、大きな流木に腰かける。
しばらくして広瀬が顔を腕で隠しながら近づいてくる。
「……っ、……っご、っごめ、驚いて、僕が引っ張ったのにおっお、お、押しのけて、感じ、悪くてっごめん」
広瀬と仲良くなれたきっかけのあの日よりも、昨日よりもずっとひどくなっている話しにくそうな声が、顔を隠そうとする仕草が、心配だった。
安心させてあげたいと思った。座っている流木の空いている隣を示し、座るように鷹橋が促すと陽登は大人しく座る。
「…っご、ごめん、ね?」
「謝ることないだろ。遊んでただけだし」
そう言うと広瀬は沈黙した。
「ふたりともびしょびしょ」
笑うと間を少し開け広瀬もくす、と小さく笑う声がする。
「俺広瀬のこと名前で呼びたい」
海を見ながらボソッとつぶやいてみた。
横を見ると見ると広瀬はすこし逃げ腰になる。嫌だったかな、と思いつつ
「いい?」
ときくと、陽登は案外すぐに小さく頷いた。
「やった!よろしく陽登」
すこし強引に許可をもらった気がするものの、嬉しくてニコニコと呼ぶと陽登は頭を押さえながらリンゴのようになっている。
「な、なまえ……」
「ん?俺の名前?俺は千傘だよ」
「ぼ、ぼくの……知ってたんだって、おもって」
「好きな子の名前知らないわけがないでしょ」
「す、好きなこ…」
陽登は顔を赤らめる。
こういう初な反応が可愛い。
「俺も名前で呼んでよ」
欲張ってそう言うと、陽登は口をパクパクして喋ろうとして、力が入りすぎるのか顔を少ししかめて息を荒げた後発声もまともにできずに途中で諦めて蹲ってしまった。
「ごめん、焦らせるつもりなくて」
そっと背中に手を置く。陽登の膝の上の手がぎゅ、っと力が入ったのがわかった。
「あ、じゃぁさ、いつか俺のこと好きになったら千傘ってよんで」
陽登の小指に無理やり小指を絡めると、陽登は小さく頷いた。
「約束」
最悪なことばかりだ。
おむつで外へ出てくるのは嫌だった。だけど鷹橋には迷惑をかけっぱなしで自信も喪失してたし、漏らすよりはマシと何度も言い聞かせてひたすら悩んだ末に『念の為』と履いてくることに決めた。鷹橋の大丈夫、という言葉にすこしだけ勇気をもらえたし安心できたから。
外に出てすぐに落ち着かなくて緊張で吐きそうになって後悔した。
バレないためにも汚さないようにしないとと言う気持ちとは裏腹にオムツを履いていることで身体がしても大丈夫とでも思っているのか、パンツを履いているとき以上に我慢しようとしても上手くできずにすぐに濡らしてしまい、一度お漏らししてしまうともう全然我慢が利かず英語の時間どころか何度も少量ずつ漏らしてしまった。授業事にトイレにはちゃんと行ってるはずなのにトイレではうまく出ないまま、いよいよお尻まで濡れてパンパンになってしまって漏れないか臭い等でバレないかと不安になっていたところに鷹橋に声をかけられてバレたんだと思った。
その後昼休みになっても立ち上がる勇気がなくて、鷹橋が手を引いてくれなかったら今ごろ教室を抜け出すこともできないまま途方に暮れていたと思う。
もうおむつなんてとれていて当たり前の高校生なのに、おむつなんてまっぴらなのに、今はパンツに履き替えることのほうがこわいのが情けない。
なるべく人気の少ないトイレでなるべく静かにおむつを破って袋に入れ、誰かにバレやしないかと不安になりながら少し悩んだ末にゴミ箱に捨てる。
おむつを履いていたせいでパンツがやけに薄く感じて心もとなく、午後を過ごすことが不安で仕方なくて、不安だとおもうとまた余計にトイレに行きたくなる。
行きたいときにトイレに行けないことも、授業中は行けないとわかってるから尿意もないのに休み時間はトイレに行ってみるのもつらい。今日はトイレを不安に思いすぎて授業の内容もさっぱり入ってこなかった。
……早退したい。
陽登の頭の中はそれだけだった。
なんとなく気まずくて、着替えてトイレから出てすぐには鷹橋のもとへかえれず、人気のない階段の踊り場でなんとなく立っているのがしんどくてしゃがみ込んだ。
保健室にいって…早退できる流れを考えようとしたけれど、本当のことも言いたくないしうまく嘘をついて言い訳できる気もしない。
要領が悪く早退一つすら許可を得る勇気が出なくて途方に暮れた。誰もいないのをいいことに少しの間立ち上がらずに何とか泣かないように息を整えて太腿をつねる。痛みを感じると少しは気が紛れる。
貴重な休み時間の3分を使ってようやく一先ず待たせている鷹橋のもとへいかなきゃ、と立ち上がった。
鷹橋は陽登がいない間売店のパンを買っていたようで外で食べようと中庭に誘った。
最悪なことばかりだけど、鷹橋とご飯を食べられるのは嬉しくて少しだけ気分が和ぐ。少し秋には近づいてきたもののまだ外は暑いせいで人が少ない。それに陽登はすこしホッとした。
「弁当持ってきた?パンいる?」
鷹橋は買ってきたパンを並べてとっていいよ、といった。
陽登はおにぎりがあるから大丈夫。と家から持ってきた昆布のおにぎりを一つ見せると、鷹橋はメロンパンを一つ取って陽登の膝の上に乗せた。
「そんなちっちゃいおにぎり1個じゃ足りないだろ。くって」
「あ、ありがと…でも、たべきれないから」
そう返すとふたたび渡される。
「じゃあとでおやつにでも食えよ」
「で、でも、でもっ」
あわてて返そうとする陽登を無視して鷹橋は雑談を始める。失敗の落ち込みからうまく笑顔を取り繕えなくて、言葉もいつも以上に詰まるし口数を無意識に減らした陽登を気遣ってなのか、話題はお笑いの話やゲームなどの明るい話題だった。
その明るい気分を切り替えられるような会話にも集中できず、午後の授業の不安さに時々意識がそれ、曖昧な返事をしてしまったことで鷹橋は心配そうに陽登を覗いた。
「大丈夫…?」
「う、うん、ごめん……」
しゃべらない分食が進んでもう食べ終わったおにぎりの殻を何となく片付けられず手に持ったまま、陽登は何か言わなきゃ、と思った。
一緒にご飯を食べても楽しくないと思われたくなかった。
でも考えても何も浮かばないし、午後の授業が不安で自分のことで精一杯で思考が停止した。
「授業……でたくないな」
ボソ、と陽登はつぶやく。
「でも帰りたくない……」
どうしようもないことをいって、それから少しだけ後悔する。
「あ、ごっご、ご、ごめん、へへへんなこといって」
慌ててごまかそうとすると、鷹橋は2つ目に食べていたコロッケパンの残りを一口で食べきったあと急いで飲み込み、ペットボトルのお茶をぐっと飲んだ後一つのびをした。
「サボるかぁ!」
爽やかにいう鷹橋に驚いて二度見をする。
「えっ?」
サボりという選択肢など考えたこともなく、先生に声をかけて早退するってことなのか、何も言わずでるのか、親に連絡は行かないのか、そもそも学校をサボるなんていけないことで……と色々なことが陽登の頭に浮かんで渋滞してパンクしそうになる。からかわれたのでは?と一つの答えのようなものが頭に浮かんできて、
「あっ!じょ、冗談、かぁ…」
と笑った。真に受けて恥ずかしいけど、冗談なら納得できると陽登は照れ隠しに鼻をかく。
すると鷹橋は立ち上がった。
「本気!ちょいまってて」
鷹橋は駆け上がってあっという間に教室から鞄を取って戻ってくると陽登の手を引いた。
それから裏門に向かおうとして足を止め保健室により、陽登が一言も喋ることない間に陽登の早退理由をいけしゃあしゃあとでっち上げ、先生に陽登も質問をされて首を少し縦に動かしただけで早退がきまって、流れのまま鷹橋は陽登の手を引いて人のいない裏門をこっそりでて、またはしって、電車に乗った。
あっという間だった。
気づけば海まで来ていた。
陽登が要領悪く駅の人混みの中でも海へと向かう道までも人にぶつかりそうになり迷子になりかけもたもたしているせいで、鷹橋はずっとここまで陽登の手を引いて連れてきてくれて、砂浜まできた今もまだ手を握ったままだ。
半歩後ろから陽登は海を見る鷹橋の横顔をそっと見る。彼は手を握っていることなどまるで意識していない様子でまぶしい太陽に目を細め遠くを見ていた。
男同士高校生がこんな時間にこんな場所で手を握って立っているというのは違和感のある風景だけど、人は遠くにチラホラとしかいない。気にし過ぎなのは分かっているけど、人に見えていないだろうことを確かめて陽登は安心した。
そして安心したことにすこしの罪悪感感じる。
それから陽登だけがこの手を意識しているのだと急に妙に恥ずかしくなって、意識している自分が一番下心があってやましい人間なのではないかと考えて爆発しそうだった。触れ合った手のひらが熱い。自分の手汗が鷹橋を汚してしまうような気がして早く手を離したい気持ちにかられたけれど、しっかりと握られた手を自分から振り払う勇気もない。
海を見る余裕など陽登にはなく、ただ波の音にも勝るほどの大きな自分の鼓動の音がどうか聞こえていませんようにとだけ願っていた。
「あ、ごめん」
ぱっと突然鷹橋が手を離す。
はっと陽登が顔を上げると、真っ赤になった鷹橋が口元を押さえて照れたように目を逸らしていた。
(鷹橋も、こんな顔するんだ)
鼓動は今もまだ弾んだまま、そのさくらんぼのような熱気を帯びた顔に、耳に、触れてみたくなって陽登はふと手を伸ばした。
顔の近くまで手を持っていったところで鷹橋が不思議そうに首を傾げ陽登の方を見たことで陽登は正気に戻って手を引っ込める。
「ん?なに?なんかついてた?」
「あ、えとっあっ、あの、その、かっか髪にゴミが……」
本当は何処にも何もついていないのに嘘をついて誤魔化すと鷹橋は髪を手ぐしでといた。
「えーっはず」
照れたように笑う鷹橋が、可愛いと思った。
「とれた?」
陽登がコクリと頷く。
「なぁ、海、はいろ」
鷹橋はそういうと返事をまたずにローファーと靴下を脱いで裸足になり、ズボンをまくりあげて砂浜を駆け出した。
「はやく!」
鷹橋が手招きをする。
言われるがまま、陽登も同じように裸足になって追いかける。砂は火傷しそうなほど熱かった。波打ち際まで来ると水に濡れた砂は少し冷えていて落ち着いて立てるようになり、鷹橋が波打ち際の水の中に入っていくのを見て陽登も少し怖気付きながら水に入るとひんやりと気持ちよかった。
海に入るのは何年ぶりだろう。
もう何年も、こんな砂浜まできたことがなかったから、不思議な感覚だった。足元をなでる砂が少しくすぐったい。
ふいに足元にパシャリと大きく水がかかり、驚いて水のきた方を見ると鷹橋がいたずらっぽく笑って、もう一度陽登のほうに水を蹴った。
「わっ」
せっかく裾をまくりあげたのに少し濡れた制服をみて、むっとするとまた鷹橋は水をかけてくる。
「やり返さないとずぶ濡れになるぞ」
そう言って容赦なくバシャバシャと両手で水をかけてきて、びしょぬれになったから陽登も少し怒ってムキになってやり返すと鷹橋は軽やかに笑って応戦した。お互い容赦なく水を掛け合って濡れながら遊んでるうち少し大きな波が来て、驚いて陽登は体勢を崩して尻もちをついた。
パンツの中までびしょ濡れの泥だらけになって呆然としてると鷹橋が大笑いをする。
「だっさ!転ぶか普通そこで。大丈夫?」
余裕を持って差し伸べてくる手がなんだか憎たらしくて引っ張ると、鷹橋は予想してなかったようで陽登に覆いかぶさるようにして倒れた。
「わっ危な……」
鷹橋が陽登の方を見る。
波打ち際に二人座り込んだまま、まだ高い太陽がジリジリと二人の肌を焼いていた。髪まで濡れてあらわになった陽登の瞳は太陽に照らされブルーグレーにビー玉みたいに光って、鷹橋が見惚れているとすぐに陽登は目を逸らした。
前髪を戻そうとして濡れてどうしようもないことに気づいて顔を隠しながら陽登は鷹橋を少し強引に押しのけて立ち上がって距離をとってしゃがみ込んだ。
広瀬の後ろ姿の呼吸が荒くて鷹橋は不安になって、近くに歩み寄る。目を合わせるのが苦手って言ってたっけ、と思い出して不可抗力とは言え申し訳なく思う。
「大丈夫……?ごめん……」
広瀬は片手をひらひらとさせた。多分、大丈夫か離れてくれの意味だと受け取って少しそっとしておくことにして、濡れた服を絞りながら乾いた砂浜の方へ歩き、大きな流木に腰かける。
しばらくして広瀬が顔を腕で隠しながら近づいてくる。
「……っ、……っご、っごめ、驚いて、僕が引っ張ったのにおっお、お、押しのけて、感じ、悪くてっごめん」
広瀬と仲良くなれたきっかけのあの日よりも、昨日よりもずっとひどくなっている話しにくそうな声が、顔を隠そうとする仕草が、心配だった。
安心させてあげたいと思った。座っている流木の空いている隣を示し、座るように鷹橋が促すと陽登は大人しく座る。
「…っご、ごめん、ね?」
「謝ることないだろ。遊んでただけだし」
そう言うと広瀬は沈黙した。
「ふたりともびしょびしょ」
笑うと間を少し開け広瀬もくす、と小さく笑う声がする。
「俺広瀬のこと名前で呼びたい」
海を見ながらボソッとつぶやいてみた。
横を見ると見ると広瀬はすこし逃げ腰になる。嫌だったかな、と思いつつ
「いい?」
ときくと、陽登は案外すぐに小さく頷いた。
「やった!よろしく陽登」
すこし強引に許可をもらった気がするものの、嬉しくてニコニコと呼ぶと陽登は頭を押さえながらリンゴのようになっている。
「な、なまえ……」
「ん?俺の名前?俺は千傘だよ」
「ぼ、ぼくの……知ってたんだって、おもって」
「好きな子の名前知らないわけがないでしょ」
「す、好きなこ…」
陽登は顔を赤らめる。
こういう初な反応が可愛い。
「俺も名前で呼んでよ」
欲張ってそう言うと、陽登は口をパクパクして喋ろうとして、力が入りすぎるのか顔を少ししかめて息を荒げた後発声もまともにできずに途中で諦めて蹲ってしまった。
「ごめん、焦らせるつもりなくて」
そっと背中に手を置く。陽登の膝の上の手がぎゅ、っと力が入ったのがわかった。
「あ、じゃぁさ、いつか俺のこと好きになったら千傘ってよんで」
陽登の小指に無理やり小指を絡めると、陽登は小さく頷いた。
「約束」
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