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7.仲直り ※おもらしなし 精神不調
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張り付く呼吸と動悸で陽登は目が覚めた。
文化祭が終わった翌日から秋はどこへ行ったしまったのかと思うほどに外の気温は急激に冷え込み、まだ朝日の昇りきらない明け方は毛布と掛け布をかけていてもなお寒い。陽登は布団をたぐり寄せくるまって一つくしゃみをした。
文化祭のあの日から毎日悪夢続きで、夜中に何度も目覚めてしまっておねしょの回数はかえって減ったものの、睡眠不足がひどく毎日のように眠い。
今は朝の四時だが今日起きたのはこれで5度目。5回も悪夢を見るとさすがにもう一度眠ろうと言う気も失せた。シャワーを浴びて目を覚まし、今日の授業の準備を済ませる。
あれからずっと自分の臭いが気になるようになって、体を洗っても洗っても人前に出るのが怖い。冬の乾燥も相まって、特に手はあかぎれて皮膚がひび割れ汚くなってしまった。その汚い手を見るとまた人に触れるのも怖くなる。
留年したくない一心だけで学校には何とか出席しているものの、全く学業にも実が入らずノートはスカスカだった。
まさかお化け屋敷で不調になっているわけではないと思うが、自分でもなぜあれからこんなに調子を崩しているのか思い当たる事がなくて陽登自身困惑していた。
夢に見るのは中学の頃の事。それも起きたらほとんど覚えてはおらず、それなのに不安や恐怖などの嫌な感覚だけが残っていて、起きる度に動悸と震えが止まらなくなる。しばらくして動悸や震えは収まっても一日中その覚えてもいない夢のせいで対人恐怖が酷くなっている自覚がある。
実のところ陽登は中学時代のことをほとんど覚えていない。いじめられてたことと、それが悪化した原因の一部におむつがあったことを記憶してるくらいで、他のことは忘れた。
それなのになぜ今更そんな忘れた記憶が―—嫌なこともあったものの楽しかった鷹橋とのデートの後から―—夢に出てきて毎日眠りを妨げ、足元をすくってくるのか皆目見当もつかない。
わかるのは、こうして鷹橋の気持ちも考えずにすぐに自分の事ばっかり気にして逃げ回って人を避けるような自分は誰かと友達であれ恋であれ付き合うことなど百年早いということだけだ。
最近は自分の臭いも気になるし気分が悪くなるから朝の満員電車には乗れなくなって、朝は人の少ない早い時間に電車をずらし、公園で時間をつぶしてから登校するようにしていた。
日に日に外で時間をつぶすには冷え込みがきつくなり、学校へ着く頃には身体が芯まで冷え切ってしまって、もともと寒さに強い方ではないから体調は悪くなる一方で自分でもバカなことをしていると思い、陽登は自嘲気味に笑った。
今日はよりによってカイロを忘れ、HRの間中もずっと手が面白いくらいに震えている。教室に入れば少しは温まると思ったのに暖房はまだついておらず、風がない分行く分かは室内のほうが暖かいものの冷えたからだは一向に温まることがなく腹痛まで現れ始め、温人はお腹を抑えていた。
鷹橋とはあれから1週間まともに話していない。
席が前後の席だから、避けることは不可能だろうと思っていたら、幸か不幸か文化祭すぐ後の登校日に席替えをすることになり、陽登は廊下側の一番うしろの席へ、鷹橋は以前陽登が座っていた窓際の一番うしろから二番目の席へと移動することになり、席が離れて逃げやすくなってしまった。
鷹橋の前の席では息をしてもいけないような妄想に取り憑かれていたから、席が離れられてよかったとさ思った。授業が終わってすぐにトイレにも行きやすい席で願ったり叶ったりだ。
休憩時間は時間ギリギリまで人を避け教室の外へ逃げて、授業が終われば一目散に帰る。そうして鷹橋もそれ以外のクラスメイトもなるべく避け続けて今日に至る。
本当は文化祭の日の不自然な行動も、それ以降の陽登の失礼な態度に対しても弁解して謝って鷹橋と前みたいに話したい。
でも声を掛けるどころか鷹橋を目にすると他のクラスメイトと相対する以上に自意識過剰になって、自分に吐き気がして、とてもゆっくりと会話ができる状態で居られなくなる。携帯端末にメッセージをくれているかもしれない、と思ったこともあるが、何を言われているのかが怖くてみることもできず端末自体を随分とカバンの中にしまい込んだまま出してもいなかった。
そうやって最低にも逃げ続けて、逃げたのは自分なのに鷹橋を怒らせてしまう、嫌われてしまう、と毎日怯えていた。
今日も休憩時間になれば逃げるために教室を出ようと陽登は思っていたが、1限が終わるころになると朝からの腹痛がさらにひどくなり席から動くことさえできずにお腹を抑えて机に突っ伏していたところ、ふと首元に暖かい何かが置かれた。
陽登は疑問に思い首を触るとそれは貼らないタイプのカイロだった。それを手に持ち顔を上げてもそばには誰もいない。すぐにチャイムが鳴ってふと手元のカイロに目線を落とすと、マジックで何か文字が書いてある。
『いたいのいたいのとんでけ~』
鷹橋の筆跡だ。
鷹橋の方を見ると授業の用意をしていた鷹橋がちら、とこちらを見てにこ、とわらって小さく手をふった。すぐに鷹橋は教科書を取り出したりなどするために視線をそらす。
ぽた、ぽた、と手に水が落ちてきて、自分が泣いてるのに気づいた。
「あれ…」
小さくつぶやく。涙をあわてて拭うとさらに涙が落ちてきて、わけがわからなかった。
カイロのおかげでで寒さが緩和され手が温くなり、おなかに当てると腹痛も少しずつ和らぎ始める。まだ嫌われていないかもしれないことがうれしくてカイロ一つで心も少し暖かくなった。
触れられるのも臭いをかがれるのも話をするのも怖いと逃げ回っているのに、迷惑をかけて嫌な思いしかさせられていないだろうに気にかけてもらえることが嬉しくて、また申し訳なかった。
こうして自分の何もかもが鷹橋に届かない位置でなら安心して鷹橋の優しさがうけとれる。あまりにも自分が勝手すぎてあきれた。
涙を見られない後ろの席でよかったと思った。
文化祭が終わった翌日から秋はどこへ行ったしまったのかと思うほどに外の気温は急激に冷え込み、まだ朝日の昇りきらない明け方は毛布と掛け布をかけていてもなお寒い。陽登は布団をたぐり寄せくるまって一つくしゃみをした。
文化祭のあの日から毎日悪夢続きで、夜中に何度も目覚めてしまっておねしょの回数はかえって減ったものの、睡眠不足がひどく毎日のように眠い。
今は朝の四時だが今日起きたのはこれで5度目。5回も悪夢を見るとさすがにもう一度眠ろうと言う気も失せた。シャワーを浴びて目を覚まし、今日の授業の準備を済ませる。
あれからずっと自分の臭いが気になるようになって、体を洗っても洗っても人前に出るのが怖い。冬の乾燥も相まって、特に手はあかぎれて皮膚がひび割れ汚くなってしまった。その汚い手を見るとまた人に触れるのも怖くなる。
留年したくない一心だけで学校には何とか出席しているものの、全く学業にも実が入らずノートはスカスカだった。
まさかお化け屋敷で不調になっているわけではないと思うが、自分でもなぜあれからこんなに調子を崩しているのか思い当たる事がなくて陽登自身困惑していた。
夢に見るのは中学の頃の事。それも起きたらほとんど覚えてはおらず、それなのに不安や恐怖などの嫌な感覚だけが残っていて、起きる度に動悸と震えが止まらなくなる。しばらくして動悸や震えは収まっても一日中その覚えてもいない夢のせいで対人恐怖が酷くなっている自覚がある。
実のところ陽登は中学時代のことをほとんど覚えていない。いじめられてたことと、それが悪化した原因の一部におむつがあったことを記憶してるくらいで、他のことは忘れた。
それなのになぜ今更そんな忘れた記憶が―—嫌なこともあったものの楽しかった鷹橋とのデートの後から―—夢に出てきて毎日眠りを妨げ、足元をすくってくるのか皆目見当もつかない。
わかるのは、こうして鷹橋の気持ちも考えずにすぐに自分の事ばっかり気にして逃げ回って人を避けるような自分は誰かと友達であれ恋であれ付き合うことなど百年早いということだけだ。
最近は自分の臭いも気になるし気分が悪くなるから朝の満員電車には乗れなくなって、朝は人の少ない早い時間に電車をずらし、公園で時間をつぶしてから登校するようにしていた。
日に日に外で時間をつぶすには冷え込みがきつくなり、学校へ着く頃には身体が芯まで冷え切ってしまって、もともと寒さに強い方ではないから体調は悪くなる一方で自分でもバカなことをしていると思い、陽登は自嘲気味に笑った。
今日はよりによってカイロを忘れ、HRの間中もずっと手が面白いくらいに震えている。教室に入れば少しは温まると思ったのに暖房はまだついておらず、風がない分行く分かは室内のほうが暖かいものの冷えたからだは一向に温まることがなく腹痛まで現れ始め、温人はお腹を抑えていた。
鷹橋とはあれから1週間まともに話していない。
席が前後の席だから、避けることは不可能だろうと思っていたら、幸か不幸か文化祭すぐ後の登校日に席替えをすることになり、陽登は廊下側の一番うしろの席へ、鷹橋は以前陽登が座っていた窓際の一番うしろから二番目の席へと移動することになり、席が離れて逃げやすくなってしまった。
鷹橋の前の席では息をしてもいけないような妄想に取り憑かれていたから、席が離れられてよかったとさ思った。授業が終わってすぐにトイレにも行きやすい席で願ったり叶ったりだ。
休憩時間は時間ギリギリまで人を避け教室の外へ逃げて、授業が終われば一目散に帰る。そうして鷹橋もそれ以外のクラスメイトもなるべく避け続けて今日に至る。
本当は文化祭の日の不自然な行動も、それ以降の陽登の失礼な態度に対しても弁解して謝って鷹橋と前みたいに話したい。
でも声を掛けるどころか鷹橋を目にすると他のクラスメイトと相対する以上に自意識過剰になって、自分に吐き気がして、とてもゆっくりと会話ができる状態で居られなくなる。携帯端末にメッセージをくれているかもしれない、と思ったこともあるが、何を言われているのかが怖くてみることもできず端末自体を随分とカバンの中にしまい込んだまま出してもいなかった。
そうやって最低にも逃げ続けて、逃げたのは自分なのに鷹橋を怒らせてしまう、嫌われてしまう、と毎日怯えていた。
今日も休憩時間になれば逃げるために教室を出ようと陽登は思っていたが、1限が終わるころになると朝からの腹痛がさらにひどくなり席から動くことさえできずにお腹を抑えて机に突っ伏していたところ、ふと首元に暖かい何かが置かれた。
陽登は疑問に思い首を触るとそれは貼らないタイプのカイロだった。それを手に持ち顔を上げてもそばには誰もいない。すぐにチャイムが鳴ってふと手元のカイロに目線を落とすと、マジックで何か文字が書いてある。
『いたいのいたいのとんでけ~』
鷹橋の筆跡だ。
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ぽた、ぽた、と手に水が落ちてきて、自分が泣いてるのに気づいた。
「あれ…」
小さくつぶやく。涙をあわてて拭うとさらに涙が落ちてきて、わけがわからなかった。
カイロのおかげでで寒さが緩和され手が温くなり、おなかに当てると腹痛も少しずつ和らぎ始める。まだ嫌われていないかもしれないことがうれしくてカイロ一つで心も少し暖かくなった。
触れられるのも臭いをかがれるのも話をするのも怖いと逃げ回っているのに、迷惑をかけて嫌な思いしかさせられていないだろうに気にかけてもらえることが嬉しくて、また申し訳なかった。
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