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第2章 二つ目の事件( 未来 中学生)
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「すっご……いつの間にこんなに……」
部屋の中でレシピ帳を広げた妹の未来を奈々子は嬉しい気分で見下ろした。家の中でレシピを作ってもそれを家族に見せたことはほとんどなかった。奈々子が書くレシピには見覚えのない材料が描かれることも多々ある。それをどこで知りえたのかと聞かれても奈々子には答えられない。奈々子自身が知っていたわけではなく、ただ頭に浮かぶだけなのだ。それが超能力というものなのだろう。それを知らない家族に見せても、聞かれた問いに答えられない。でも、妹の未来は違うのだと最近知った。彼女はどうやら奈々子同様にAriaが見つけた能力者なのだ。
「いつも、頭の中は料理一色だからね。暇があれば書いてるの」
おかげで本棚のそこかしこに入っているノートを隠すのにいつも苦労している。
「ねぇ、これ、同じ料理?でもなんか違う気がするけど……それにこの写真……?」
未来が示したのはノートに三ページほど使って描かれているレシピとその次に書かれているレシピだ。確かにその料理はどちらも同じものではあるが、若干使っている材料に違いがある。それに、一つ目のレシピには数枚の写真が張り付けてあった。
「その二つは同じレシピよ。ただし、一つ目は本当に単なる思い付き。このレシピの料理を作るだけで数万円はかかっちゃうの。なんせ、材料が海外にしかないんだから。で、こっちの写真は、私が知らない食材。で、一つ目のレシピだけど、これは私が1つ目の材料を吟味した後で、別の物と置き換えられないかを考えたレシピ。材料さえ決まれば後は自然と頭に浮かぶんだけどね」
クスリ、と笑う。こんな話を世の料理人に知られたら敵視されること間違いなしだろう。
「へー、そんなことまでできるの。すごいね~~。お姉ちゃんって将来はこの力を生かした仕事に就くの?」
未来の問いに奈々子はうーーんと小さく唸った。確かに奈々子は料理の専門学校へ行って料理人になることを目指してはいる。だが、同時に通常の料理人にはなれないだろう、という事もわかっているのだ。奈々子の力は思いつきの力ともいえる。料理レシピに関してのみだが、「こうすればいいんじゃないか?」という突発的な思いつきに突き動かされてしまうのだ。初めから自分で作ることはもちろん、料理中にも先生の言葉を無視してレシピを改ざんしてしまう事も多々ある。奈々子の思いつきは紙に向かっている時よりもどちらかというと、料理をしている時の方が本領発揮されるらしい。気が付いたら全く違う味付けになっていることもある。一度料理を作り出すと集中してしまい、周りの音が聞こえなくなるという欠点もあるのだ。そんな奈々子が通常のレストランや、料亭で修行をできるとは思えない。
「料理は好きだし、仕事にしたいんだけど……私は修行をするために入ったお店の味を変える可能性もあるから」
料理はもっと学びたい、勉強したいと心から思うが、誰かのレシピを忠実に再現することが奈々子には出来ない。それは、奈々子自身コントロールが出来ないところだった。
「じゃあ、作れば?」
「え?」
「自分のお店作ればいいんじゃない?」
とんでもないことを平然と言った未来に唖然とした視線を向ける。無邪気なその表情は、未来が本心からそう思っていることが伺える。他意はなさそうだ。
「えっと……いきなりそんなの……」
「大丈夫だよ。今すぐ、じゃないかもしれないけどお姉ちゃんがお店を持っている夢、見たから。多分場所はこの家だと思う。改造したのかな???はっきりとはわからないけど、お姉ちゃんはさ、お店持つべきだと思う。そのためにその力は与えられたんじゃないかな?」
普段おとなしく、本の話をしている時以外はクールな未来がどこか楽しそうに見えたのは気のせいだろうか?
子供の戯言だと流したいのに、いつのまにかその気になっている自分がちょっと笑える。お金だってないし、実行できるだけの力なんて一切ないのに、それでも奈々子の気持ちがそちらに揺らぐ。
「君が、お店に入るのは無理だ」
恩師である、現在の専門学校の講師の言葉が脳裏によぎる。それが的確すぎて何も言えなかったが、もし、彼にその話をしたら彼はなんというのだろう。認めてくれるか、それともやはり無理だというのだろうか?
考え出したら楽しくなってくる。
「そうね、それもいいかもね」
そう口にした奈々子に未来が嬉しそうに笑う。その妹の顔に、動かされている自覚はあった。
これからどうなるかはわからないが、動かないで後悔するより、動いて後悔する方がいい。どの道、奈々子が料理人となる道は他にはない。
奈々子のような人間を受け入れてくれる場所などないだろう。
部屋の中でレシピ帳を広げた妹の未来を奈々子は嬉しい気分で見下ろした。家の中でレシピを作ってもそれを家族に見せたことはほとんどなかった。奈々子が書くレシピには見覚えのない材料が描かれることも多々ある。それをどこで知りえたのかと聞かれても奈々子には答えられない。奈々子自身が知っていたわけではなく、ただ頭に浮かぶだけなのだ。それが超能力というものなのだろう。それを知らない家族に見せても、聞かれた問いに答えられない。でも、妹の未来は違うのだと最近知った。彼女はどうやら奈々子同様にAriaが見つけた能力者なのだ。
「いつも、頭の中は料理一色だからね。暇があれば書いてるの」
おかげで本棚のそこかしこに入っているノートを隠すのにいつも苦労している。
「ねぇ、これ、同じ料理?でもなんか違う気がするけど……それにこの写真……?」
未来が示したのはノートに三ページほど使って描かれているレシピとその次に書かれているレシピだ。確かにその料理はどちらも同じものではあるが、若干使っている材料に違いがある。それに、一つ目のレシピには数枚の写真が張り付けてあった。
「その二つは同じレシピよ。ただし、一つ目は本当に単なる思い付き。このレシピの料理を作るだけで数万円はかかっちゃうの。なんせ、材料が海外にしかないんだから。で、こっちの写真は、私が知らない食材。で、一つ目のレシピだけど、これは私が1つ目の材料を吟味した後で、別の物と置き換えられないかを考えたレシピ。材料さえ決まれば後は自然と頭に浮かぶんだけどね」
クスリ、と笑う。こんな話を世の料理人に知られたら敵視されること間違いなしだろう。
「へー、そんなことまでできるの。すごいね~~。お姉ちゃんって将来はこの力を生かした仕事に就くの?」
未来の問いに奈々子はうーーんと小さく唸った。確かに奈々子は料理の専門学校へ行って料理人になることを目指してはいる。だが、同時に通常の料理人にはなれないだろう、という事もわかっているのだ。奈々子の力は思いつきの力ともいえる。料理レシピに関してのみだが、「こうすればいいんじゃないか?」という突発的な思いつきに突き動かされてしまうのだ。初めから自分で作ることはもちろん、料理中にも先生の言葉を無視してレシピを改ざんしてしまう事も多々ある。奈々子の思いつきは紙に向かっている時よりもどちらかというと、料理をしている時の方が本領発揮されるらしい。気が付いたら全く違う味付けになっていることもある。一度料理を作り出すと集中してしまい、周りの音が聞こえなくなるという欠点もあるのだ。そんな奈々子が通常のレストランや、料亭で修行をできるとは思えない。
「料理は好きだし、仕事にしたいんだけど……私は修行をするために入ったお店の味を変える可能性もあるから」
料理はもっと学びたい、勉強したいと心から思うが、誰かのレシピを忠実に再現することが奈々子には出来ない。それは、奈々子自身コントロールが出来ないところだった。
「じゃあ、作れば?」
「え?」
「自分のお店作ればいいんじゃない?」
とんでもないことを平然と言った未来に唖然とした視線を向ける。無邪気なその表情は、未来が本心からそう思っていることが伺える。他意はなさそうだ。
「えっと……いきなりそんなの……」
「大丈夫だよ。今すぐ、じゃないかもしれないけどお姉ちゃんがお店を持っている夢、見たから。多分場所はこの家だと思う。改造したのかな???はっきりとはわからないけど、お姉ちゃんはさ、お店持つべきだと思う。そのためにその力は与えられたんじゃないかな?」
普段おとなしく、本の話をしている時以外はクールな未来がどこか楽しそうに見えたのは気のせいだろうか?
子供の戯言だと流したいのに、いつのまにかその気になっている自分がちょっと笑える。お金だってないし、実行できるだけの力なんて一切ないのに、それでも奈々子の気持ちがそちらに揺らぐ。
「君が、お店に入るのは無理だ」
恩師である、現在の専門学校の講師の言葉が脳裏によぎる。それが的確すぎて何も言えなかったが、もし、彼にその話をしたら彼はなんというのだろう。認めてくれるか、それともやはり無理だというのだろうか?
考え出したら楽しくなってくる。
「そうね、それもいいかもね」
そう口にした奈々子に未来が嬉しそうに笑う。その妹の顔に、動かされている自覚はあった。
これからどうなるかはわからないが、動かないで後悔するより、動いて後悔する方がいい。どの道、奈々子が料理人となる道は他にはない。
奈々子のような人間を受け入れてくれる場所などないだろう。
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