Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第3章 盗まれた作品

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 真っ暗な闇が覚めていく。小さな声が聞こえるがまだ、はっきりとした文章となって耳には届かない。
 闇の向こうから現れたのは二人の少女だった。二人とも牧瀬学園の制服を着ている。そのうちの一人に未来は見覚えがあった。
「七尾……さん?」
 長い髪の毛を後ろで無造作に一つに縛り、さほどおしゃれに気を使ってはいないであろう少女がいつも以上に暗い表情でもう一人の女の子と向き合っていた。
 彼女の名は七尾椿。未来が所属する文芸部の二年生部員であり、漫画家志望の女の子だ。細かいことが苦手とのことで、手で書いた絵はかなり雑だが、それをパソコンで書くと不思議と綺麗なまとまった絵がかける。「戻るボタンさいこー」と笑っていたのが記憶に新しい。
 思わず思い出し笑いをしてしまった未来は再び二人の少女に目を向ける。一人は七尾椿だが、もう一人は知らない。タイの色から見ても二年生なのは間違えないが。七尾の友達、にしてはずいぶんと印象が違う。
「で……できない、よ……」
 七尾が小声で反論しているのが耳に届いて来た。その反応に向かい側の少女が軽く顔を顰める。
「はぁ?」
「だ、だって、美穂……そんなことして、ばれたら……」
「あのさ、アンタに迷惑なんてかけないって言ってるでしょ?ただ、私を部室に入れてくれればいいの」
「む……」
「椿?あんた、私に逆らうの?」
 冷たい声音に椿の体が小さく震えるのがはたから見てもわかった。未来にとってはさほど怖いとは思わないが、こういった人間になれていないであろう七尾にはこの「美穂」に逆らう事は出来ないのだろう。
「で……でも、部室になんて入って、何するの?」
「言わない。知らない方がいいこともあるでしょ?わかったらとっとと鍵貸して」
 スッと美穂が右手を差し出す。未だ迷っているのか手を伸ばそうとしない七尾に美穂が小さく舌打ちをする。
「早くしてよ」
 ギュっと鍵を握りしめたまま動こうとしない七尾から美穂が鍵を奪い取った。小さなキーホルダーがついている鍵で、そのキーホルダーには覚えがあった。七尾が部室の鍵に使っているキーホルダーだ。
「美穂……?」
「私を部活から追い出したこと、絶対後悔させてやる」
 小さな小さな声は七尾には届かなかったようだが、すぐわきで聞いていた未来の耳には届いた。
「部活から……追い出した?」
 そんな人間に覚えはないが、おそらく何かあったのだろう。無理やり七尾から鍵を奪ったことを考えても、彼女が実行犯なのは間違えないように思う。
* * *
 バン、と部屋の戸を開けた未来に姉が呆れたように息をついた。姉の視線が未来から未来が持つノートに向かう。その表情がどことなく厳しいような気がするのは気のせいだろうか?
「お姉ちゃん……」
「お母さんたちは出かけてて、今いるのは私達だけ。今日はお店も休みだしね。何かあったの?」
 軽く首をかしげた姉に未来は一瞬逡巡した。これは学校の問題であり姉には一切関係がない。
「それ……は……」
「この張り紙したってことは、何か緊急で「視たい」事があったんでしょ?視れたの?」
 ひらひらと一枚の紙を振る姉に未来は慌てて頷いた。A4の紙にマジックででかでかと【起こすな!】と書いてある。書いた本人の未来が見ても随分と乱暴な字だ。起こされたくない一心で書いたが、今考えればそれが通じるのは姉だけで、他の家族は未来を無理やり起こそうとするだろう。夢を見ている時の未来がそう簡単に起きるとは思えないが、これを見たのが姉でなければ完全に怒られていたはずだ。なんせ、学校がある日に「起こすな」なんだから、見つけたのが未来でも怒る。
「……今、何時?」
「十一時。学校には連絡してあるから何か食べて行ったら?」
「……お姉ちゃん、ありがとう……」
 カチャカチャと料理をする姉の手際は相変わらずスゴイ。そういう能力があるとか、そんなことではなくてやはり料理が好きで好きでしょうがないのだと、そのしぐさから伝わってくる。だからこそ、姉が作る料理はあたたかいのかもしれない。
「未来、何があったのかは聞かないわ。言えない事もあるでしょうし……でも、一つだけ、見たい夢が見れた?」
 未来の能力が発覚してからも姉はあまり未来に夢の事を聞こうとはしなかった。初めのうちは何度か聞かれたが、言葉を濁しているうちに聞かないでいてくれるようになったのだ。でも、たまに部屋にこもると内容ではなく「視れた」かどうかだけ聞いてくることがあった。そんな姉の優しさには感謝してもしきれない。
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