Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第3章 盗まれた作品

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「先生……?」
 ちょうどお昼休みになったころに学校についた。職員室に顔を出し、その足で部室に向かった未来は読書スペースであるソファにジッと座っている榊原の姿に小さく目を瞬いた。お昼休みにここに来るのはほぼ未来だけで、他の部員や榊原がここにいるのは珍しい。しかも鍵をかけて中にこもっていたのが不思議だ。何をしていたのだろう。
「佐川?お前が朝、部室に来なかったことの方が珍しいだろう?」
 呆れたような表情で振り向いた榊原の手にはタブレットが握られている。
「何読んでるんですか?」
 未来と同じように読書家に登録し、色々な電子書籍を読んでいる事は知っているが、学校で電子書籍を読んでいるのは初めて見た。
「本能寺の変」
「それって……まさか……」
 予想外の題名に慌ててタブレットを覗き込む。未来は冒頭部分しか読んでいなかったが榊原はしっかりと購入して読んでいるらしく、既に半分ほど読み終わっていた。
「御堂に聞いて購入してみた。丁度今日は十一時からの授業はなかったからな」
「ど、どうですか……?」
 思わずついて出た言葉に口を噤む。いきなりそんなことを言われても困るだろう。
「す、すみません……私……」
「お前から見せてもらった原稿をそのまま載せている。一字一句たがわず」
「私の原稿、ということ、なんですよね……?」
「そうなるだろうな」
 榊原の言葉に迷いは一切ない。人によっては冷たく感じてしまうであろうその潔さが未来にとってはありがたい。
「先生に、確認したいことがあります」
 未来は今日書いた七尾ともう一人の生徒の顔がはっきりとわかる絵を彰禧の前に置く。
「これは?」
「こっちは七尾さんかと。ただ……こちらの生徒に見覚えがないんですけど、先生は知ってますか?」
 榊原が一度でも見たことのある人間であれば知っているはずだ。彼はそういう力を持っている。
「……逆に佐川が覚えていないのが不思議なんだが、山内美穂、半年以上前だけど、一ヵ月だけ文芸部の部員だった。本が好きなわけでもなく、文芸部でやりたいことがあったわけでもないのに何故か入部した一年生だ。ああ、当時は一年だけど、今は二年だな。で、部室に来てもずっとくっちゃべってて邪魔なもんで追い出した。彼女がどうかしたのか?」
 ああ、あの時の後輩はこんな顔をしていたのか。絵を見て考えてみるがあの後輩の顔とこの顔がイコールで結ばれることはなかった。全く思い出せない。
「夢で見たんです。七尾さんがほぼ無理やり彼女に部室の鍵を奪われるのを」
「は?」
「私の見た夢は……過去か未来どっちかはわからないですけど、絶対に外れないのだけは確かです」
 榊原の目が大きく見開かれた。
「先生なら、意味、解りますよね?」
「お前、まさか……」
 唖然と目を見開く榊原に未来は大きく頷いた。もし榊原がAriaの人間であることを知ったのが今のタイミングでなければこんな風にカミングアウトするつもりはなかった。だが、今は少しでも力が欲しい。手が必要なのだ。
「私はAriaに所属する協力者です。……先生、協力してくれますよね?」
 疑問形の形を取ってはいるが、未来は彼に断る権利を与えるつもりはなかった。未来はたとえどんな理由があったとしても、未来の物語を盗み、それを無断で配信した人間を許すつもりはない。そもそもアレはまだ配信できるようなレベルではないのだ。これから読んでくれた人たちの感想を聞きながらさらに手直しをしてから公募に応募をする予定だった。それを不完全な状態で人目にさらすことになってしまった。
「選択肢があるようには見えないんだが……」
「ないですよ。……Ariaの力を総動員してでも、私の子に手を出したこと、後悔させてあげます」
 自分の口から出た冷たい言葉に榊原の口元が小さく引きつったのに気が付いたが、今の未来はそんなことを気にする余裕はなかった。
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