Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第3章 盗まれた作品

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 真っ暗で何もない空間に未来はいた。小さな音が断続的に聞こえてくる。それが何の音なのかはわからないが未来は気を引き締めた。黒い空間から始まるのは過去や未来に実際に起ったことだ。そしてここ数年の経験から、今未来が最も関心が強い事柄を夢で見る事が多いことを知っている。今未来が一番関心があるのは、後輩の七尾椿や山内美穂、そして文芸部を中心に起きている出来事の事だ。
 真っ暗な闇が晴れると視界と共に音声もはっきりとしてきた。
 未来がいるのは公園だった。見覚えのない、どこか寂れた印象を感じる公園だ。全く人がいないその公園の隅に小さな女の子が蹲っている。断続的に聞こえているのはその女の子の嗚咽だった。泣かないように懸命に涙をこらえているのが分かるが、それでも小さな声が口からもれてしまっている。ぼろぼろの服にボサボサの髪。服の上からでも女の子の体に無数の傷がついているのが分かった。
 カサリ、と小さく土を踏む音が聞こえ、思わず息を呑む。誰にも未来が見えないとわかっていてもまるで見てはいけない物を見てしまったかのようで落ち着かない。
「何、してるんだ?泣いてるのか?」
 高校の制服を着た男の子が少女の前に立つ。顔を上げた少女の、涙でぐちゃぐちゃになった顔が未来にも見えた。それは、今よりも幼く、頼りない表情を浮かべているが、未来が良く知る人物だった。
「……七尾……さん……?」
 明らかに尋常じゃない様子の七尾のその目は何も写していないかのように冷たい色をしていた。おとなしくて、人見知りが激しくて、だけど、本が大好きで優しい女の子、未来が知っている七尾はそういう人間だ。でも、顔を上げた七尾椿はまるで人形のような表情を浮かべていた。
 七尾のそんな表情を見た男の子が怯えたような表情で後ずさる。男の子の顔が、まるで不気味なものを見たかのように凍り付いていた。男の子は七尾を見なかったことにしたかのようにきびすを返し、逃げるように公園から出て行った。そんな少年の行動を彼女は一切感情の見えない、虚ろな瞳で見ていた。

 不意に画面が変わった。珍しい。未来が見る夢は一回につき一つで。一度も起きないのに二つ以上の夢を見たことはなかった。例外は弥生の千里眼と連携している時だけで、それ以外にはなかった。弥生との連携から別の力の使い方を覚えたのだろうか。
 今未来がいるのはシンと静まり返った家の中だった。その部屋には窓がなかった。真っ暗でどこか空気がよどんでいるような気さえする。
 その部屋の中にはほとんど物がなかった。ベッドと机があるだけ。本棚もなく、学校関係の教科書が段ボールの中に陳列されている。まるで、牢獄のような場所だ。
 その机の前に座っている少女の姿に未来は小さく息を呑んだ。少女は、コンビニの袋からおにぎりを一つとサラダを取り出すとペットボトルのお茶を飲みながらそれに口を付ける。どこかうつろにも見える表情で食事をしている彼女は、あの日夢に見た彼女とは全くの別人に見えた。どことなくさっき見たばかりの七尾の幼少期を思い起こさせる表情だった。
 部屋の外から大きな喧噪が聞こえてきて、それを諌めるような女性の声が聞こえてきた。外の楽しそうな雰囲気とは裏腹にこの部屋だけはシーンと静まり返っている。
 今が何時なのか、今がいつなのか、全くわからない。まるで、この中でだけ時が止まっているかのようだ。
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