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第3章 盗まれた作品
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「……く、未来」
耳元で大声で叫ばれ、未来は慌てて顔を上げた。呆れたような表情で見下ろしてきたのは弥生だった。いつ入ってきたのか全く気付かなかった。
未来は今朝見た夢が、頭の中にしっかり入っているうちに書き出していたのだ。簡単な情景を絵で描くノートは既に書き終わっているが、あの時の言葉や表情、未来が覚えている限りの情景を物語として綴っていたのだ。それは小説を書く練習にもなるが、何よりも誰かに情景を伝える助けとなってくれるし、未来自身の記憶が薄れても思い出す力となってくれる。
「何かあった?」
そばに来た弥生が未来の目をまっすぐと見てくる。何かあったのかと聞かれても、未来には何も答える事が出来ない。
「……夢を、見た……」
手元にあったノートを弥生に差し出す。未来の脳裏に人形のような表情を浮かべた椿が浮かぶ。そして、さっきまで見ていた映像が未来の頭から離れてくれない。
「めずらしく、二つの夢を見た……七尾さんと山内美穂……。彼女、部屋の中でまるで人形のような虚ろな表情を浮かべていた……」
部屋にあったのは牧瀬学園の制服だった。あれが、さほど遠くない未来か過去であることは疑いようがなかった。
ポツリ、と呟いた未来に弥生が不思議そうな表情を浮かべる。
「で?それと、今のあなたの状態と何の関係があるの?」
「自己嫌悪中。……わたし、山内美穂が文芸部の部室に入って本を取っていった理由も、私の話を勝手に販売した理由も考えてなかった。それどころか、七尾さんも何でもっとはっきりと拒絶してくれないんだ、って思ってた。完膚なきまでにたたき潰して、一生心に残るような傷をつけてやりたいって思ってた……。そのためなら誰を利用してもいいって思ってた。……そのすべてを人にやらせて自分は安全な場所にいる……それに気づいてさえいなかった。罰を受けないといけないのは、私の方、だよね」
未来は復讐に榊原を利用することに何の疑問も持っていなかった。榊原が最も嫌がるであろう役割を振ることもしょうがないと感じていた。しかもその指示を未来自身が行うのではなく弥生に送ってもらった。心のどこかで未来は今猛烈に傷ついているんだから何をしても許されるんだ、って思っていた。最低だ。
冷静になった今、自分がやろうとしていたことがいかに最低なことなのかわかる。
「同情したの?」
淡々とした弥生の言葉が未来の耳に冷たく響く。
「……わからない……今朝見た夢だけじゃ……どういう状態なのか解らないし……」
「未来、あなたはどうしたいの?」
「……わからない」
自分がどうしたいのか、どうすべきなのか未来にはわからなかった。許せないと思っている。それは今も変わらない。だけど、このまま感情のままに復讐を果たしても何も変わらないんじゃないかと思う。世に出た物語は消えないし、今後も同じことがない、とも限らない。
「なら、調べようか?」
「え?」
弥生の言っていることが瞬時には理解できなかった。
「……未来、何で日本人には霊力があると思う?」
突然変わった話題に未来はきょとんと弥生を見た。弥生は、さっきまでの冷たい表情が消え、柔らかい表情を浮かべている。
「霊力の……元……?」
そんなこと考えたこともなかった。「日本人には皆霊力がある」と言われたので、それ以外の理由を考えようとはしていなかった。
「これは、はっきりとした文献ではないんだけど……日本人の祖先が天照大御神様だという話は聞いたことがない?天皇陛下は天照大御神様の直系、っていうの」
小説とかで読んだことはあるが、ファンタジーの小説であり事実そうだと考えたことはなかった。
「それ……本当、なの?」
「さぁ?はっきりとはわからないけど、霊力は神の持つ力の一部だという説がある」
「神の力の……一部……?」
「ええ。ねぇ、あなたはその夢を見なければ今日にでも復讐の第一歩を始めていたでしょう?」
未来は小さく頷く。復讐の一歩、榊原の名で山内美穂に手紙を出す。それを今日実行する予定だった。だが、夢を見たせいで実行してもいいのかわからなくなってしまったのだ。
「今の、このタイミングで見たのは冷静になれ、と神が未来を止めたかったのかもしれない。何も知らずに、感情のままに復讐をしたら、後悔するぞって」
「だから、調べる……の……?」
「ええ、私の力とあなたの能力を使えば過去を見ることくらいできるわ」
今までにも何度か弥生の千里眼で見た光景を夢で見せられたことがある。必ず成功するわけではないが、最近は成功率が上がっている気がする。多分お互いに信用できるようになってきているから、だと思うが。弥生の千里眼は見たいと思っている相手の事しか見れないが、代わりに見たい情報を得る事が出来るのだ。だが、未来の夢は好きなものを見れない代わりに夢の中で好き勝手に動き回り情報を手に入れる事が出来る。その二人が見た光景をお互いに伝え合う事で今まで以上の精度で情報を得る事が出来る。
その力を使って二人の過去を知ろうというのだ。勝手に過去を見る事に罪悪感はある。だが、何も知らず、何も調べずに復讐を決行するよりはマシかもしれない。
「わかった……見てみる。それからどうするか考える事にする」
きっぱりと頷き、顔を上げた未来を弥生がどこか嬉しそうな表情で見下ろしてきた。
耳元で大声で叫ばれ、未来は慌てて顔を上げた。呆れたような表情で見下ろしてきたのは弥生だった。いつ入ってきたのか全く気付かなかった。
未来は今朝見た夢が、頭の中にしっかり入っているうちに書き出していたのだ。簡単な情景を絵で描くノートは既に書き終わっているが、あの時の言葉や表情、未来が覚えている限りの情景を物語として綴っていたのだ。それは小説を書く練習にもなるが、何よりも誰かに情景を伝える助けとなってくれるし、未来自身の記憶が薄れても思い出す力となってくれる。
「何かあった?」
そばに来た弥生が未来の目をまっすぐと見てくる。何かあったのかと聞かれても、未来には何も答える事が出来ない。
「……夢を、見た……」
手元にあったノートを弥生に差し出す。未来の脳裏に人形のような表情を浮かべた椿が浮かぶ。そして、さっきまで見ていた映像が未来の頭から離れてくれない。
「めずらしく、二つの夢を見た……七尾さんと山内美穂……。彼女、部屋の中でまるで人形のような虚ろな表情を浮かべていた……」
部屋にあったのは牧瀬学園の制服だった。あれが、さほど遠くない未来か過去であることは疑いようがなかった。
ポツリ、と呟いた未来に弥生が不思議そうな表情を浮かべる。
「で?それと、今のあなたの状態と何の関係があるの?」
「自己嫌悪中。……わたし、山内美穂が文芸部の部室に入って本を取っていった理由も、私の話を勝手に販売した理由も考えてなかった。それどころか、七尾さんも何でもっとはっきりと拒絶してくれないんだ、って思ってた。完膚なきまでにたたき潰して、一生心に残るような傷をつけてやりたいって思ってた……。そのためなら誰を利用してもいいって思ってた。……そのすべてを人にやらせて自分は安全な場所にいる……それに気づいてさえいなかった。罰を受けないといけないのは、私の方、だよね」
未来は復讐に榊原を利用することに何の疑問も持っていなかった。榊原が最も嫌がるであろう役割を振ることもしょうがないと感じていた。しかもその指示を未来自身が行うのではなく弥生に送ってもらった。心のどこかで未来は今猛烈に傷ついているんだから何をしても許されるんだ、って思っていた。最低だ。
冷静になった今、自分がやろうとしていたことがいかに最低なことなのかわかる。
「同情したの?」
淡々とした弥生の言葉が未来の耳に冷たく響く。
「……わからない……今朝見た夢だけじゃ……どういう状態なのか解らないし……」
「未来、あなたはどうしたいの?」
「……わからない」
自分がどうしたいのか、どうすべきなのか未来にはわからなかった。許せないと思っている。それは今も変わらない。だけど、このまま感情のままに復讐を果たしても何も変わらないんじゃないかと思う。世に出た物語は消えないし、今後も同じことがない、とも限らない。
「なら、調べようか?」
「え?」
弥生の言っていることが瞬時には理解できなかった。
「……未来、何で日本人には霊力があると思う?」
突然変わった話題に未来はきょとんと弥生を見た。弥生は、さっきまでの冷たい表情が消え、柔らかい表情を浮かべている。
「霊力の……元……?」
そんなこと考えたこともなかった。「日本人には皆霊力がある」と言われたので、それ以外の理由を考えようとはしていなかった。
「これは、はっきりとした文献ではないんだけど……日本人の祖先が天照大御神様だという話は聞いたことがない?天皇陛下は天照大御神様の直系、っていうの」
小説とかで読んだことはあるが、ファンタジーの小説であり事実そうだと考えたことはなかった。
「それ……本当、なの?」
「さぁ?はっきりとはわからないけど、霊力は神の持つ力の一部だという説がある」
「神の力の……一部……?」
「ええ。ねぇ、あなたはその夢を見なければ今日にでも復讐の第一歩を始めていたでしょう?」
未来は小さく頷く。復讐の一歩、榊原の名で山内美穂に手紙を出す。それを今日実行する予定だった。だが、夢を見たせいで実行してもいいのかわからなくなってしまったのだ。
「今の、このタイミングで見たのは冷静になれ、と神が未来を止めたかったのかもしれない。何も知らずに、感情のままに復讐をしたら、後悔するぞって」
「だから、調べる……の……?」
「ええ、私の力とあなたの能力を使えば過去を見ることくらいできるわ」
今までにも何度か弥生の千里眼で見た光景を夢で見せられたことがある。必ず成功するわけではないが、最近は成功率が上がっている気がする。多分お互いに信用できるようになってきているから、だと思うが。弥生の千里眼は見たいと思っている相手の事しか見れないが、代わりに見たい情報を得る事が出来るのだ。だが、未来の夢は好きなものを見れない代わりに夢の中で好き勝手に動き回り情報を手に入れる事が出来る。その二人が見た光景をお互いに伝え合う事で今まで以上の精度で情報を得る事が出来る。
その力を使って二人の過去を知ろうというのだ。勝手に過去を見る事に罪悪感はある。だが、何も知らず、何も調べずに復讐を決行するよりはマシかもしれない。
「わかった……見てみる。それからどうするか考える事にする」
きっぱりと頷き、顔を上げた未来を弥生がどこか嬉しそうな表情で見下ろしてきた。
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