Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第3章 盗まれた作品

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 真っ暗闇が晴れた時、成功したのだ、と直ぐにわかった。未来の目の前に二人の少女がいる。二人ともだいたい小学校二、三年生くらいに見える。未来が知る二人よりもかなり幼く、そして雰囲気がまるで違うがそれでも二人が山内美穂と七尾椿なのだとわかった。
 七尾はあの時夢に見た時と一緒で冷たく、虚ろな人形のような表情を浮かべていた。反面山内美穂は無表情ではあるが、その顔にどこか心配そうな表情を浮かべている。
「何、してるの?」
 場所は恐らく学校の屋上だろうか、ぼんやりと空を見上げている七尾を山内美穂が見下ろしている。
「……別、に……」
 七尾から聞こえる声は小さくて、未来の耳にもかろうじて届く、という程度の音量だった。それでも山内美穂には届いたのか、どこか悲しげに表情をゆがめ、その場に腰を下ろした。
「家、帰りたくないの?」
 首をかしげつつ尋ねる山内美穂に七尾が困ったように顔をゆがめた。何も答えなかったが、事実帰りたくないのだろうという事がうかがえる。
「……帰る」
 それでも小さく呟いた七尾が立ち上がる。その動作は緩慢で、出来ればもっとこの場に居たいのだと如実に物語っていた。山内美穂はそれに気づいたのかはわからないが七尾の手を軽くつかんだ。その動作に七尾の顔が軽く歪む。
「……ごめん、痛かった?」
「……平気、でも本当に帰らないと……」
「帰りたくないんじゃないの?」
 山内美穂の問いにしばらく沈黙をした七尾が口にした言葉は未来にとっても、そしておそらく山内美穂にとっても予想外だったのだろう。驚いたように目を瞬いている。
「……早く、帰らないと、ぶたれるから」
 七尾の声が空虚にその場に響く。未来は今見た光景が信じられなくて、その場から動くことができなかった。
 視界が反転する。グルグルと周りの景色が回っている。未来が一人で視る夢は一つのみで、他の夢を見るには一度起きる必要がある。もっとも今朝二つの夢を同時に見たので、この力もまだまだ未知数のようだが。だが、弥生と共に視る夢は、弥生が千里眼で見る内容を切り替えると未来の中の夢もまた切り替わる。グルグル回っているのは切り替えている途中なのだろう。
 ようやく視界が定まると、未来は小さな孤児院の中にいた。孤児院の入り口には「山内孤児」と書いてある。山内美穂の自宅で経営している孤児院なのだろう。
 ということは、どこかに山内美穂がいるはずだ。
「お母さん」
 山内美穂が母親と思われる妙齢の女性の腕をつかんでいた。そんな美穂を見る母親の表情がどこかいびつに映る。母親ではなく他人のような印象を持った。
「お母さん、じゃなくて先生でしょう?ここはあなたとは違って家族がいない子供たちが集まっているのよ。そこで甘えちゃいけないって何度も言ったでしょう?」
「でも……お母さん……うちのクラスの七……」
「その話は後で聞くから、とにかく部屋に行ってなさい」
 優しく、でもきっぱりと告げる母親はもう山内美穂を見てはいなかった。背後にいる子供たちに近づいて話をしている。山内美穂と接しているよりもよほどお母さんをしていた。
「でも……話を聞いてくれたことなんて……ないのに……」
 泣きそうな、悲しそうな山内美穂の声は恐らく未来にしか届いていないのだろう。あまりに悲しげで、未来はその表情から目を逸らすことができなかった。山内美穂が母親に何を伝えたかったのか何となくわかる気がする。こういう環境で育てば、あの年でも「虐待」の二文字はよく知る言葉だろう。それを伝えようとしていたのではないだろうか……。
 確かに彼女には母親はいる。でも、これでは両親がいない孤児の子どもたちよりもよほど孤独だ。こんなの、家族とは言えない。彼女はこんな環境でずっと生きてきたのだろうか。
 再び場面が変わる。今度もまた同じ孤児院だった。ただし、さっきとは違い子供たちが遊ぶ場ではなく職員が書類を作成し、仕事をする場なのだろう。雑然としているが、どこかピシっとした雰囲気を肌で感じた。
「何で言わなかったの!」
 大きな声が響き、同時に子供の泣き声も聞こえてきた。
「だ……だって……き……」
 絞り出すような声音は山内美穂の物だろう。恐らく怒鳴っているのは母親だ。
「気づかなかった、とでもいうつもり?でも、あの子は、椿ちゃんはあんたと会話をした、って言っていたわよ。そういう子がどういう思いをしているのか、あんたは嫌という程みてきたはずでしょ?アンタがもっと早く言ってくれていればもっと早く助けられたのよ!あんたみたいな子が子供を虐待するろくでなしに育つのよ」
 冷たい声。母親は本当に怒っているのだろう。だが、未来からすれば、その怒りは理不尽なものに他ならない。さっきの光景を見れば山内美穂は確かに母親にその事を伝えようとした。だが、それを聞こうともしなかったのは母親の方のハズだ。
「いい?もう二度と孤児院の子どもたちには近づかないで」
 それは、二度と母親である彼女と会話をするな、と言っているも同然だった。母親がいながら、共に育ちながら山内美穂は今、この時に母親から捨てられたのだ。
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