45 / 67
第4章 Aria展
1
しおりを挟む
当日、弥生は学校の予定が入っているとのことで、美穂と二人で出かけることになった。さすがにAria巡りに七尾を連れて行くわけにはいかない。
美穂がNANACOに立ち寄ったのは初めてではないが、まともな状態で来たのがはじめてだからか、物珍しそうな表情であたりを見回している。ちょうどいいことに今いる客は久遠寺蓮のみだ。あとはカウンターの内側で料理をしている菜々子と、ピアノを弾いている妹の美弥子がいるだけだ。柔らかな音色がお店に響き渡っている。思わず耳を傾けたくなるような音だ。美弥子のピアノを聴くたびにAriaが全てではないのだと思う。能力なんて無くても努力と根性でここまでできるようになるのだから。それでも能力者とそれ以外では絶対に超えられない一線がある。
「すごいですね……先輩の妹さんですか?」
美穂が演奏を邪魔しないように小さな声で尋ねてくる。それに未来は小さく頷いた。その後の言葉はなんとなく想像がつく。
今までにも何度かAria巡りにNANACOに訪れた人たちはいたが、大抵が同じ疑問を持つ。Ariaがあることが絶対ではないのだと知ってもらうためにも、ここは都合がいい場所なのだ。しかも、運が良ければ、未来、弥生、久遠寺など数名のAria能力者が集まることもある。
「Aria……なんですか?」
「違う。美弥子はAriaではない。……後天的に能力に目覚める条件は揃っているけど、霊力が絶対的に足りないから」
「……能力者じゃないのに……」
美穂が思わず口をつぐむ。Ariaを知ったばかりの人は大抵、能力を持たない人間は上にいけない、努力は意味がない、と感じてしまうことがある。それを打ち砕く事もまた、Aria巡りの大きな目的だ。そもそも才能=Ariaではないのだ。
「美弥子の努力の結果。Ariaを持っていることが必ずしも最良ではないし、能力と関係のない道に進むことができないわけでもないの。そもそも……能力は実力を上げる、というよりは一発芸みたいなものでしょう?あなたの持つ暗視の能力を職業に役立てることなんてできる?」
考え込んだように顔をしかめていた美穂が軽く首を振る。
「私は、泥棒になるつもりなんてありません」
きっぱり告げられた言葉に未来は絶句した。完全に職業に役立てる方法は思い浮かばなかったが、だからと言って、泥棒は考えてもいなかった。
唖然とした未来の横で軽く吹き出す音が聞こえた。
「暗視の能力を持ってるのか?」
クスクス笑う男性、久遠寺に美穂の体が小さく震える。あの環境で生きてきたからか、美穂は大人をひどく警戒している。
「久遠寺さん、いきなり話に入ってこないで下さい。……山内さん、この人は久遠寺蓮さん。絶対味覚の能力者がで、料理評論家」
「絶対味覚……?」
「そ、人が作った料理にケチをつける嫌な能力」
「未来ちゃん……そりゃないよ。……えーと、山内さん、君の能力は泥棒じゃなくても活かせるよ」
「強盗、とか言いませんよね?」
ジトーとした目で見ると、久遠寺が困ったように笑った。彼は料理に関して以外は気のいいおじちゃんだ。こと、料理が関わると人が変わるが。
「言うわけないだろ。……NPOだよ。色々な災害にあった人を援助し、支援する。電気がない場所も多いからね」
「でも……私だけ周りが見えても……」
意味がないのだという美穂の言葉を久遠寺が遮った。
「能力を貯めておける装置がある。それを使えば君以外も君の能力の恩恵にあずかれる。……意味のない能力なんてない。その力を必要としている人はきっといる」
小さく、静かな声。だが、その言葉は美穂の心に響いたようだ。未来では伝えることができなかっただろう。今日、お店に久遠寺が来てくれていた事が素直に嬉しい。
「未来、他にも回るんでしょう?これ食べたら行ってきたら」
すっと菜々子が二人の前に小さなプレートを差し出した。メニューにはない、今日の定食なのだろう。菜々子の料理は毎日食べていても飽きない。
可愛い見た目に目を輝かせた美穂が一口食べて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おいしい」
「でしょう?これがお姉ちゃんの能力、料理レシピの力」
美穂は未来の声が聞こえていないかのように一心に箸を運んでいる。これは決して珍しい事ではない。菜々子の料理をはじめて食べた人はみんな同じ反応をする。
美穂がNANACOに立ち寄ったのは初めてではないが、まともな状態で来たのがはじめてだからか、物珍しそうな表情であたりを見回している。ちょうどいいことに今いる客は久遠寺蓮のみだ。あとはカウンターの内側で料理をしている菜々子と、ピアノを弾いている妹の美弥子がいるだけだ。柔らかな音色がお店に響き渡っている。思わず耳を傾けたくなるような音だ。美弥子のピアノを聴くたびにAriaが全てではないのだと思う。能力なんて無くても努力と根性でここまでできるようになるのだから。それでも能力者とそれ以外では絶対に超えられない一線がある。
「すごいですね……先輩の妹さんですか?」
美穂が演奏を邪魔しないように小さな声で尋ねてくる。それに未来は小さく頷いた。その後の言葉はなんとなく想像がつく。
今までにも何度かAria巡りにNANACOに訪れた人たちはいたが、大抵が同じ疑問を持つ。Ariaがあることが絶対ではないのだと知ってもらうためにも、ここは都合がいい場所なのだ。しかも、運が良ければ、未来、弥生、久遠寺など数名のAria能力者が集まることもある。
「Aria……なんですか?」
「違う。美弥子はAriaではない。……後天的に能力に目覚める条件は揃っているけど、霊力が絶対的に足りないから」
「……能力者じゃないのに……」
美穂が思わず口をつぐむ。Ariaを知ったばかりの人は大抵、能力を持たない人間は上にいけない、努力は意味がない、と感じてしまうことがある。それを打ち砕く事もまた、Aria巡りの大きな目的だ。そもそも才能=Ariaではないのだ。
「美弥子の努力の結果。Ariaを持っていることが必ずしも最良ではないし、能力と関係のない道に進むことができないわけでもないの。そもそも……能力は実力を上げる、というよりは一発芸みたいなものでしょう?あなたの持つ暗視の能力を職業に役立てることなんてできる?」
考え込んだように顔をしかめていた美穂が軽く首を振る。
「私は、泥棒になるつもりなんてありません」
きっぱり告げられた言葉に未来は絶句した。完全に職業に役立てる方法は思い浮かばなかったが、だからと言って、泥棒は考えてもいなかった。
唖然とした未来の横で軽く吹き出す音が聞こえた。
「暗視の能力を持ってるのか?」
クスクス笑う男性、久遠寺に美穂の体が小さく震える。あの環境で生きてきたからか、美穂は大人をひどく警戒している。
「久遠寺さん、いきなり話に入ってこないで下さい。……山内さん、この人は久遠寺蓮さん。絶対味覚の能力者がで、料理評論家」
「絶対味覚……?」
「そ、人が作った料理にケチをつける嫌な能力」
「未来ちゃん……そりゃないよ。……えーと、山内さん、君の能力は泥棒じゃなくても活かせるよ」
「強盗、とか言いませんよね?」
ジトーとした目で見ると、久遠寺が困ったように笑った。彼は料理に関して以外は気のいいおじちゃんだ。こと、料理が関わると人が変わるが。
「言うわけないだろ。……NPOだよ。色々な災害にあった人を援助し、支援する。電気がない場所も多いからね」
「でも……私だけ周りが見えても……」
意味がないのだという美穂の言葉を久遠寺が遮った。
「能力を貯めておける装置がある。それを使えば君以外も君の能力の恩恵にあずかれる。……意味のない能力なんてない。その力を必要としている人はきっといる」
小さく、静かな声。だが、その言葉は美穂の心に響いたようだ。未来では伝えることができなかっただろう。今日、お店に久遠寺が来てくれていた事が素直に嬉しい。
「未来、他にも回るんでしょう?これ食べたら行ってきたら」
すっと菜々子が二人の前に小さなプレートを差し出した。メニューにはない、今日の定食なのだろう。菜々子の料理は毎日食べていても飽きない。
可愛い見た目に目を輝かせた美穂が一口食べて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おいしい」
「でしょう?これがお姉ちゃんの能力、料理レシピの力」
美穂は未来の声が聞こえていないかのように一心に箸を運んでいる。これは決して珍しい事ではない。菜々子の料理をはじめて食べた人はみんな同じ反応をする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる