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タイヨウを求める
しおりを挟む「あれ、ヒナタ……?」
真夏だと言うのに小さな公園のベンチで、木漏れ日を身体中に浴びながら瞼を閉じている青年。
俺は彼を覚えていた。
「……んぇ?誰………って、え!もしかしてヒマリか!?」
思わず声をかけたが為に起きてしまった彼、
ヒナタも俺の事を覚えてくれていた。
「そうだよ、久しぶりだねヒナタ。戻ってきてたんだ。」
「うん、仕事変わってさ。実家から通った方が近くなったから戻ってきた。
母さんには良い歳して実家暮らしってってどやされたけどね~」
まだ眠たいのかポヤポヤとしながら質問に答えてくれた。こんな蒸し暑い中でよく眠れるもんだ。
俺が小学校に通ってた時、ヒナタは近所に住む大学生のお兄さんだった。親が共働きだったから、いつも俺はヒナタの家で一緒に遊んでもらってたんだ。就活とか忙しいのによく俺に構ってくれてたなぁ…と、自分があの頃のヒナタの年齢になった今だから思う。
それで就職が決まったと同時にヒナタはこの町を出てしまって、それきり会えていなかった。
いつもニコニコしてて、料理やスポーツ、………勉強はそんなにだったらしいけど……なんでもできるヒナタの存在は俺にとって憧れのお兄さんであり、そしてー…
「うわっ!……ちょっと、何急に引っ張って!」
「まぁまぁ、ヒマリ君座りたまえ。大きくなった君とこうして一緒にベンチに座るのもよいではないか。ちょっと見ないうちに大きくなって」
「おじさんクセェ言い方。
……暑い、から、もうちょい離れて」
そして、俺の7年間の片想い相手。
……重いって思わないでくれ、俺もそう感じてたんだから。
「今身長何センチ?」
「ひゃくはちじゅーさん」
「えっデッカ!!もう俺よりデカいわけぇ?世の中の時の流れって早いな。ってか、何その腕の筋肉!ムキムキじゃん!?」
「……まぁ、バスケやってっから。もー!暑いから触らないでって!!」
切れ目無く質問をしてきては俺の成長に驚くヒナタ。それと比べてヒナタはほとんどあの頃と変わっていない、人懐こい顔で笑いかけてくる。
7年も初恋を拗らせている俺にとってはどれもこれも心臓に悪い。
俺の額にジワジワと水滴がつき始める。それに気づいたヒナタは久々に俺の家に来るか?と立ち上がって聞いてきた。
俺は一度深呼吸したのち行く、と返事をした。
あちこちから騒ぎ立てるような蝉の声と頬を掠めるなまったるい風を一心に浴びてテロテロと家へ向かう。
その間も、笑いながらヒナタは話を続けた。話をしながら、チラッとヒナタの顔を見る。あの頃は下からしか見れなかったけれど、今はもう隣にあるんだ。
それだけの時間が、俺とヒナタには流れていたんだ。
「……そうだよな。もう子供じゃねぇ」
「え?なんて?なんか言ったか?」
「いーえー、なーんでも」
「なんだよその含みのある言い方ー。
って……おっ!おいヒマリ!あれ見てみろよ!」
「ん?なに?」
突然熱射のなか走り出して前方を指差す。
俺は目に入りそうな滴る汗を拭ってその方向を向く。
その先にあったのは、
「ヒマワリ!!!だ!!!」
あたり一帯に咲く黄色の花。夏の象徴。
俺と同じくらいの大きさで、太陽のいる東の空に向かって伸びている。
良い歳した大人がヒマワリ畑を見てはしゃいでいるというのは滑稽通り越して愛しかった。
「ねぇヒナタ」
「ん?なんだ?」
「ヒマワリってさ、小さい時は毎日タイヨウの方角を向くためにクルクル首回して追っかけるんだって。」
「ほぉ~!それは知らなかった!」
「大きく成長するまで、ヒマワリはタイヨウしか見ないんだよ。大きくなった後も、タイヨウを求めて手を伸ばそうとする」
「ん?手を伸ばす?ヒマリ、なんのこと言ってるんだ?」
ニカっと笑うヒナタに、ヒマワリ達が一瞬ヒナタの方を向いたように見えた。
「ヒナタはさ、タイヨウを求めて大きくなったヒマワリは、いつかタイヨウに触れることができると思う?」
なまったるい風の中に、一つ爽やかな風がヒマワリ畑を駆ける。
「なんだその哲学っぽい質問。頭使うのは無理だっつーの。……まぁ、普通に考えりゃ無理だわな。でも俺は手が届くと良いなって思う。
だって、ヒマワリはタイヨウを得る為に生きてるもんってことだろ?だったらいつかその想いは届くはずだ。」
「ぷっ!アハハハハ!!」
「なっ!なんだよお前が聞いたんだろ?笑うんじゃねぇ!!」
「アハハ、ごめんごめん!ちょっと、頑張らないとなーって思って!」
眩しいタイヨウ。風に揺れるヒマワリ。
タイヨウを手に入れると決めたヒマワリは、一体いつまで求め続けるだろう。
きっと、時間がかかったとしても手を伸ばし続ける。
「これから覚悟しといてね、ヒナタ!」
「何を!?」
タイヨウに振り向いて欲しいヒマワリは、また少し空へ背伸びした。
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