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第4章
峰川龍人
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「龍人、ご飯食べるよ」
その声に、部屋から中位の声で返事をして、パソコンをいじり続ける。あと少しだ。あと少しでこの街は闇と化す。よし、これでオーケー。あとは、『enter』ボタン1つだ。
「さてっ」そう呟いて、思い切り立つ。椅子が、立った勢いで壁まで退がった。伸びをして、疲れを取る。いよいよ夕食…。この家での最後の晩餐に向かう。この部屋には、もう一度戻ってくるのだが。ダイニングに向かうと、年越し蕎麦が準備されていた。皆で一年間あった事を話しているが、勿論、分からないことの方が多いので、適当に話を合わしておく。僕が分かっているのは、大まかな事だけだ。明るい笑い声が響く。しかし、この声も、そして、演技で笑っている自分ですらも憎々しい。今年も残すところ、あと4時間の午後8時過ぎ。テレビでは、毎年恒例の人気芸人達が、1日を過ごす番組をしている。食べ終わると、僕以外の3人は、リビングに移り、僕だげは、部屋に戻った。さあ、いよいよだ。頬を叩いて気を引き締める。ニヤニヤが止まらない。この家が、角部屋で、しかも、隣が空き部屋なのは、本当に助かった。リュックサックに、薄型のノートパソコン、財布、スマホ、ICカード、着替え、そして、夜行バスの券を入れていよいよ自分の部屋を出る。この部屋には、短い間であったが、世話になった。感謝の意味を込めて、部屋を出る前に一礼した。ポケットからは、隠しきれなかった拳銃が少しのぞいている。しかし、すぐにリュックサックに入れ替えるから大丈夫だ。頭の中でもう一度今夜の予定を確認する。うん、オーケーだ。ミスは起こらないだろう。起こっても、今夜一夜の予定を達成できれば、本望だ。ドアノブを回す。体が一瞬震えた。恐れや、恐怖ではない。武者震いだ。慣れとは怖い物で、最初こそ、人を殺すのは、怖くもあったが、僕には、もともとサイコパスの一面があるらしく、横山飛鳥を刺した最初の一発意外、何とも思わなくなった。よし、そう言って、ドアノブを回して、廊下に出て、奥のリビングに向かう。リュックサックは、リビングのドアの手前に置いておく。入ると、ちょうど、3人とも、テレビを見ていて、こちらに背を向けていた。ソファに『姉』と『父』、隣の丸椅子に『母』。ソファの肘掛に置かれていたリモコンを取り、急に音量をマックスまで上げる。『父』が何か言っているが、音量のせいか、もしくは、意識的にか、口パクのように見え、全く聞こえなかった。全く、どうしようもない『家族』だ。自分の息子や、弟の入れ替わりにすら気付いていない。前もってスライドを引いて撃鉄を起こしておいたので、あとは、引き金を引くだけだ。スローモーションに見えた。『父』の頭に銃口を突きつける。顔面蒼白になり、叫ばれるより前に引き金を引いた。「パンッ」。予想よりも、小さく、そして幼稚な音で恐ろしいことに一面を血の海にした。テレビの音である程度、音は掻き消される。二発目以降は、スライドを引く必要もないので、続けざまに、隣で血を浴び、叫び声を上げている『姉』を撃ち、そのまま『母』を撃った。三人の死をそれぞれ確認してからテレビを消した。そして家を出る。勿論、銃は、リュックサックに安全装置を降ろして入れた。マンションの前のいつも電車に乗る駅から、街中に向かう。駅からは、電車でおよそ25分。街中に着いたのが9時6分だった。約束の時間には、少し早い。だが、時間には余裕をもって、少しずつ行くことにした。コートを着ているので、胴は寒くないが、首の辺りがやはり寒い。街中は、大晦日だからか、人が少ない。思えば、去年の大晦日には、まさか、自分が顔を変えて、峰川龍人になりすまし、何人もの人を殺す殺人鬼になるなんて、考えもしなかった。いや、それは僕だけじゃない。殆どの人間がそうだ。誰が、一年後の自分の事を見事に当てる事が出来るだろうか。そんなことは、不可能だ。もし、どうしても当てたいのならば、選択肢を2つにするべきだ。「生きているか」か、「死んでいるか」か、だ。この二つなら、50パーセントの確率で的中させられる。しかし、これでも半分は外れる。人間が、明日のことも分からない人間が、一年や十年先の事を考えること自体、生物としての本文を逸脱しているのだ。そう思えば、自然と、明日のことですら二択になる。「生きているか」もしくは、「死んでいるが」だ。ああ、そう考えると、自分のやっている事が、本来の生物の姿をちゃんと捉えているような気がして、心が安らぐ。そう考えながら歩いているうちに、今夜の舞台となる大舞台が目の前に見えてきた。それは、ただ何百年と立っているだけなのに、威厳があり、何者をも威圧し続ける。ちょうど、この最終舞台にぴったりだ。そう、松山城。一旦、そのまま城の麓にある堀之内(城山)公園に入る。そう、ここは、小島亜友里が殺された場所だ。ベンチに腰掛けて、松山城を見上げる。もう2人はすでに約束している場所に来ているかもしれない。時刻は9時57分。今年も残すところ、2時間と3分。リュックサックから、ノートパソコンを取り出して、『enter』ボタンを押す。ただそれだけだった。2分ほど経って、外灯の電気などが一斉に消えた。勿論、ビルや家庭の電気も。丁度、今日は新月で、明かりは殆ど無い。幾重にも重ねてハッキングしたので、しばらくの間、電気は回復しないだろう。ただでさえ今、治安が悪いこの街で、こんな事が起きれば、パニックが起こってもおかしくない。ああ、それにしても、こうなると星が綺麗だ。感傷に浸っている暇はない。すぐに裏の登城口から城山を登り始める。そう、最終舞台へ。
その声に、部屋から中位の声で返事をして、パソコンをいじり続ける。あと少しだ。あと少しでこの街は闇と化す。よし、これでオーケー。あとは、『enter』ボタン1つだ。
「さてっ」そう呟いて、思い切り立つ。椅子が、立った勢いで壁まで退がった。伸びをして、疲れを取る。いよいよ夕食…。この家での最後の晩餐に向かう。この部屋には、もう一度戻ってくるのだが。ダイニングに向かうと、年越し蕎麦が準備されていた。皆で一年間あった事を話しているが、勿論、分からないことの方が多いので、適当に話を合わしておく。僕が分かっているのは、大まかな事だけだ。明るい笑い声が響く。しかし、この声も、そして、演技で笑っている自分ですらも憎々しい。今年も残すところ、あと4時間の午後8時過ぎ。テレビでは、毎年恒例の人気芸人達が、1日を過ごす番組をしている。食べ終わると、僕以外の3人は、リビングに移り、僕だげは、部屋に戻った。さあ、いよいよだ。頬を叩いて気を引き締める。ニヤニヤが止まらない。この家が、角部屋で、しかも、隣が空き部屋なのは、本当に助かった。リュックサックに、薄型のノートパソコン、財布、スマホ、ICカード、着替え、そして、夜行バスの券を入れていよいよ自分の部屋を出る。この部屋には、短い間であったが、世話になった。感謝の意味を込めて、部屋を出る前に一礼した。ポケットからは、隠しきれなかった拳銃が少しのぞいている。しかし、すぐにリュックサックに入れ替えるから大丈夫だ。頭の中でもう一度今夜の予定を確認する。うん、オーケーだ。ミスは起こらないだろう。起こっても、今夜一夜の予定を達成できれば、本望だ。ドアノブを回す。体が一瞬震えた。恐れや、恐怖ではない。武者震いだ。慣れとは怖い物で、最初こそ、人を殺すのは、怖くもあったが、僕には、もともとサイコパスの一面があるらしく、横山飛鳥を刺した最初の一発意外、何とも思わなくなった。よし、そう言って、ドアノブを回して、廊下に出て、奥のリビングに向かう。リュックサックは、リビングのドアの手前に置いておく。入ると、ちょうど、3人とも、テレビを見ていて、こちらに背を向けていた。ソファに『姉』と『父』、隣の丸椅子に『母』。ソファの肘掛に置かれていたリモコンを取り、急に音量をマックスまで上げる。『父』が何か言っているが、音量のせいか、もしくは、意識的にか、口パクのように見え、全く聞こえなかった。全く、どうしようもない『家族』だ。自分の息子や、弟の入れ替わりにすら気付いていない。前もってスライドを引いて撃鉄を起こしておいたので、あとは、引き金を引くだけだ。スローモーションに見えた。『父』の頭に銃口を突きつける。顔面蒼白になり、叫ばれるより前に引き金を引いた。「パンッ」。予想よりも、小さく、そして幼稚な音で恐ろしいことに一面を血の海にした。テレビの音である程度、音は掻き消される。二発目以降は、スライドを引く必要もないので、続けざまに、隣で血を浴び、叫び声を上げている『姉』を撃ち、そのまま『母』を撃った。三人の死をそれぞれ確認してからテレビを消した。そして家を出る。勿論、銃は、リュックサックに安全装置を降ろして入れた。マンションの前のいつも電車に乗る駅から、街中に向かう。駅からは、電車でおよそ25分。街中に着いたのが9時6分だった。約束の時間には、少し早い。だが、時間には余裕をもって、少しずつ行くことにした。コートを着ているので、胴は寒くないが、首の辺りがやはり寒い。街中は、大晦日だからか、人が少ない。思えば、去年の大晦日には、まさか、自分が顔を変えて、峰川龍人になりすまし、何人もの人を殺す殺人鬼になるなんて、考えもしなかった。いや、それは僕だけじゃない。殆どの人間がそうだ。誰が、一年後の自分の事を見事に当てる事が出来るだろうか。そんなことは、不可能だ。もし、どうしても当てたいのならば、選択肢を2つにするべきだ。「生きているか」か、「死んでいるか」か、だ。この二つなら、50パーセントの確率で的中させられる。しかし、これでも半分は外れる。人間が、明日のことも分からない人間が、一年や十年先の事を考えること自体、生物としての本文を逸脱しているのだ。そう思えば、自然と、明日のことですら二択になる。「生きているか」もしくは、「死んでいるが」だ。ああ、そう考えると、自分のやっている事が、本来の生物の姿をちゃんと捉えているような気がして、心が安らぐ。そう考えながら歩いているうちに、今夜の舞台となる大舞台が目の前に見えてきた。それは、ただ何百年と立っているだけなのに、威厳があり、何者をも威圧し続ける。ちょうど、この最終舞台にぴったりだ。そう、松山城。一旦、そのまま城の麓にある堀之内(城山)公園に入る。そう、ここは、小島亜友里が殺された場所だ。ベンチに腰掛けて、松山城を見上げる。もう2人はすでに約束している場所に来ているかもしれない。時刻は9時57分。今年も残すところ、2時間と3分。リュックサックから、ノートパソコンを取り出して、『enter』ボタンを押す。ただそれだけだった。2分ほど経って、外灯の電気などが一斉に消えた。勿論、ビルや家庭の電気も。丁度、今日は新月で、明かりは殆ど無い。幾重にも重ねてハッキングしたので、しばらくの間、電気は回復しないだろう。ただでさえ今、治安が悪いこの街で、こんな事が起きれば、パニックが起こってもおかしくない。ああ、それにしても、こうなると星が綺麗だ。感傷に浸っている暇はない。すぐに裏の登城口から城山を登り始める。そう、最終舞台へ。
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