AI恋愛

@rie_RICO

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勤労少女と癒し王子

勤労少女 〝 みう 〟

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これは、ほんの少し前の昔話。
お姫様のとても不思議な恋物語が始まる日。
秘密の砂時計の砂が落ち始めた瞬間。

あ、ほら、来たよ。
未来のお姫様…。
彼女はとても眠たそうだ。

それでは……
はじまりはじまり。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 21歳。
 大学生になって4度目の春。
 ほこりの匂いが少しする教室にいる。

 本日の予想は21℃快晴。
 空は澄んでいて雲も少なく空気が軽い。
 花壇の花は咲き始めていて、まさに春真っ盛りだ。


 私こと『高畑 海(みう)』は友人の『小林美紀』に誘われて、久しぶりに大学の講義を受けている。

『大学に来るように』
 と彼女からLINUが入ったのは2日前。
 2ヶ月ほど会えていなかったので心配を掛けてしまったらしい。
 最近ある事情から生活費も危うくなっていて、仕方なくバイト漬けの日々だ。
 学びたくて入った大学なので私だって学業も頑張りたいとは思っている……。

 だけど………現実は思ったようにはいかない。
 今、ホント痛感する。
 疲れた身体に講義は向いていない。

「暖かくて眠くなる……」

 つい独り言が出て、慌てて口に手をやる。

 隣にいる美紀が唇の前に人差し指をたてて「シーッ」と怒った顔をする。
 謝る代わりに小さく俯き目を伏せた。
 あと15分で講義が終わる。
 もう少しだ………頑張って耐えよう。


 先生の声に耳を傾けようと少し聞き入ってみようと頑張る。
 だけど講義に集中しようとすると、睡魔に襲われ身体がゆらゆらし始める。

 ダメだな……頭が勉強を拒否してる。

 講義はもったいないけど出席できたことで良しとしよう。
 先生ごめんなさい、と心の中で謝る。

 考え方を変えてみよう。
『最後まで居眠りしない』
 を今の目標に掲げてみることにする。

 手始めに眠気を散らすため他に意識を移すことにしてみるかな。
 周囲をぐるっと見て決める。
 そうだ!
 久々に会った友人を観察しよう。


 目が合うと文句を言われそうなので、ちらりと隣に座る美紀を盗み見る。

 わぁ…細くて色が白くて羨ましい!
 顔は平凡なんだけど、メイクなのかなぁ…
 ぱっちりとした眼が印象的で人目を引く。
 ほんと可愛い。

 あ。髪切ったんだ。
 前より少しだけ短いな…
 ショートボブにゆるふわパーマが更に魅力的。

 ふぅ~。
 相変わらずの女子力の高さにため息が出るわ。
 ワンピースは流行の小花の刺繍が美紀らしい。
 ふむふむ……ネイルも完璧、清楚で上品なピンク色…か。
 自分の似合う可愛いものが理解っているんだなぁ。

 で、私は?というと…。
 Tシャツとジーンズに薄手のパーカー&すっぴん。
 シャツは4年前にユニコロで買ったアニメとのコラボ。
 気に入って着すぎてぼやけた赤になり首元は伸びかけ。

 ジーンズはお母さんが昔買ってきた(…って中学生の頃だっけかな)でウエストがゴム。
 これも洗濯しすぎて色落ちしちゃってほぼ白に近い水色だ。
 パーカーは黒だけど近くでみると毛玉が…。
 伸ばしっぱなしの髪は梳かして黒いゴムで後ろに一つまとめ終了。

 今日が特別手抜きってわけじゃない。
 これがいつもの格好だ。

 私に『おしゃれ』というものは必要ない。
 背が低くて少し太っていて何を着てみても似合わない。
 可愛いのは海(みう)って名前だけ。
 おしゃれも、彼氏も無縁のまま21歳になった。


 そんな〈女の子〉として間逆な私達だが意外なことに仲が良い。
 美紀はこうして講義にも誘ってくれる。
 カフェや買い物も一緒に行くことが多いのだ。

 そういえば今日は講義の後に頼みたいことがあるって言ってたなぁ……
 うーん…でも……
 彼女には悪いけどバイトがオフの時は家で寝ていたかった……かも
 特に今日は疲れが溜まってて……

 眠い…また意識が飛びそうになってきた。
 暖かさが体中を包み、耳からも心地よい調べが脳を思考停止へと誘い始めた。
 欠伸が出そうなのを必死に堪える。

 何故こんなに眠いんだろう?

 あ、そうか……
 今日の講師は声が良いことで有名な小泉教授だ。
 物腰が柔らかく、授業も分かりやすいのだが、欠点がひとつある。
 声が……
 本当に良すぎる。

 淡々とした口調と、優しいテノールの響き。
 まるで頭の中で低くて優しい鐘が打ち鳴らされてるみたい。
 それに加え春の陽気だ。
 教室中が毛布に包まれているみたいに心地よい。
 眠りに引き込まれるのを耐えているのがやっとで……だめだ。死にそう。

 足元からフワフワとした浮遊感が昇ってくる。

 !!
 や、やばい!

 とっさに握っていたシャープペンで左手を刺す。
 鋭い痛みで一瞬にして現実に戻れた。

 甲に小さい赤い点ができ血が染み出ている。

「っくぅぅ~~痛ぃ……」

 かすれた声で小さく呻く。
 唇をギュっと結んで、止めていた息を鼻からゆっくり抜く。
 とにかく気を引き締めなきゃ、あと8分で終わるんだから!


 少し涙目になりながら反省してみる。
 この酷い眠気は、深夜のバイトで寝不足なのが一番の原因!
……の、はず。

 ここで昨夜について思い返す。
  昨日も忙しかったなぁ。
 2つめのバイトがファミレスで…
 確か終わったのが日付が変わった深夜1時30分。
 夜中のシフトは片付けや器具の洗浄があって体力使うんだよね…。
 急いでタイムカードを押しつつ制服の上にパーカーを羽織り駅に向かってダッシュ。
 なんとかギリギリ最終電車に間に合って本当に良かった。

 自宅の最寄の駅についたのが2時。
 駅からアパートまで少し距離があるので、ここから小走りで向かった。

 実は今のアパートは家賃が安かったというだけで決めちゃったんだよね…。
 しばらく住んでから、なんでもっとちゃんと調べなかったのかって後悔した。
 少し…というか、かなり治安が悪く空き巣や泥棒の被害も多く、特に夜は注意しなくてはならない。
 灯りのほとんどがスナックかコンビニでお酒の自販機も多い。
 そして必ずと言っていいほど酔いつぶれた人が昼夜問わず道々に転がっている。
 住み初めはこんな風景に驚いていたけれど……
 時は人を成長させるものである。
 バイト三昧で深夜帰宅が多いせいか、3年目の今、夜道は慣れてしまった。

 それどころか帰り道に酔っ払いさん達を数えるのが日課になりつつある。

 昨日は確か……4人。
 いつもより少なめだったな。

 そうそう。
 こんな治安の悪い街だけど、夜の楽しみがもうひとつある。
 路上ライブを聞くことができるのだ。
 まだ駆け出しのバンドマン達だと思うけどみんな上手い。

 昨日はさすがに遅すぎて誰もいなかったなぁ。
 いつも聞きに行っているお兄さんにも会えなかった。
 残念。
 あの歌声に励まされてるんだけど……。

 あ、そういえば、お兄さんがいつも座っている近くの電柱が折れてたっけ。
 3日前に事故があったんだよね。
 黄色いテープで囲われて道が封鎖されたままだから少し遠回りして帰ったんだ…。

 それから家に着いて……。

 えーっと…。
 スマホを充電してシャワーを浴びて出たのが3時。
 そっか、髪を乾かしたらすぐにベッドに入れば良かったんだ。

 ずっとバイトばかりだったから寂しすぎて…
 ついつい寝る前のルーティンを行ってしまったんだ。

 スマホに手を伸ばし
 『今日はもう遅いし明日は講義に出るから少しだけ……。
 イベントの順位を確認するだけ』

 なんて思いつつイケプリ(いけないプリンスby恋愛ゲーム)にログイン。
 推しのローレンが画面いっぱいに現れて幸せで疲れを忘れた。

 イケプリには6人の王子がいてローレンはその中の一人だ。
 外見は金髪ロング、碧い瞳のイケメンで性格は俺様ツンデレの王子様。
 見たときからの一目惚れでプレイしたら性格も気に入って好きが加速した。

 いつものことながら……。
 スマホ上に微笑む王子様にニヤニヤがとまらない。
 まさに至福の時間。

 あー…そっかー。
 ここで変なアドレナリンが出ちゃった……んだろうな。
 眠気が吹き飛んで気づいたら限定イベントの順位上げに5時まで起きてたっけ。

 それでもライバル達に追いつかず、とうとう課金アイテムに手を出した。
 そこからガンガンに攻め一気に巻き返して8位まで上り詰めた!
 で、急にメンテが入ったんだっけ。

 あれ?今日のメンテ早いなーなんて時計を見てびっくり。
 朝の8時までやっていたとは。

 そのまま着替えて慌てて大学に向かった。
 そして今……教室でお勉強中。
 あれ?寝た記憶がございませんね。

 そっか。よくよく思い出したら…
 徹夜だ。
 って、そりゃ眠いはずだよ。

 あ……。
 一番、忘れたかったことを思い出した。
 もうやらない!って思いながらついつい課金しちゃった………。
 ストレスが溜まるとやってしまう悪い癖(高額課金)…
 昨日っていくら使ったんだっけ……。

 うぅ…また入れてしまった。
 今月本気でやばいなぁ。
 累計15万ぐらい?
 バイト代が……生活費が……
 ローレンに消えていくっ。
 もちろん…ローレンのせいじゃない。
 自分が悪いんだけども。

 というか私、今月と来月生きていけるのかな。
 1人暮らしで仕送りも無いというのに。

 変な冷や汗が出てきた。
 課金という現実で眠気は飛んでくれたけど心が沈んでる。
 もう…何のために働いているのか分からなくなってきた。
 ローレンに癒されて、ローレンに貢いでる。
 私はバカなの?……だよね……
 客観的にみたら………

 ひとまず、この事実は忘れよう。
 ネガティブになるから。
 苦笑しながら現実逃避で意識を景色に移した。
 春の日差しが目に染みる。

 窓の少し遠くに桜並木がありピンク色に染まってる。
 ときおり強い風が吹き花びらが舞い飛んでいた。


 わぁ。桜がすっごい綺麗だ。(棒読み)


 一度冷えた心はなかなか温度を取り戻さない…らしい。
 隣を見ると美紀も少し眠そうにしていた。

「もう桜が咲いてるんだ…ね?」
 彼女にこっそりと話しかけて窓の外に視線を送ってみた。

 美紀は私をちらっと見て、
「春だもん。当たり前でしょ?」
 半ば呆れた感じに小声で答えながらノートの端に何か書き私に見せる。


『そのすっごいクマはどうしたの??
 今日はブス度が増してるよ?(苦笑)』


 女の子らしい可愛い字で、思いっきり悪口が書いてあった。

 私は引きつった笑顔を返す…。
 と、同時に講義の終了を知らせる鐘が鳴り響いた。
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