AI恋愛

@rie_RICO

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勤労少女と癒し王子

ワゴンの少女

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「きーちゃん、こっち来て」

 伊上さんが声をかけると、つい立の側に影が映った。
 カタカタと音をたてながらワゴンが近づいてきた。
 ワゴンの下には沢山の機械と材料?機材?なんだかごちゃごちゃ載っている。

 棚の上部分には、すごく可愛い女の子。
 ショートの銀髪で白い肌、細く長い腕、くりっとした瞳…

 だけど……上半身しかない(!)
 ワゴンの上に上半身だけの人間が載って……。

 えっ! ちょっ!!!
 こんなのマジックでしか見たことが無い!
 怖い!!!! 怖すぎるっ。

 私の顔が青ざめているのを見て、伊上さんが『ふふっ』と笑った。
「アンドロイドよ。正式名称はKEYー002。
〝 きーちゃん 〟って呼んであげてね。」

「あ、アンドロイド……ってロボット?!
 でも何で上半身だけ???
 っていうか何でワゴンに乗って?」

「ワゴンの下の部分は、きーちゃんのお仕事に必要な材料や機材。
 お仕事には足が必要なかったから作らなかっただけ。
 2本足って…バランスとるのも大変なのよ。」

 早口で、きーちゃんの説明をしつつ、伊上さんは戻る準備をしていた。

「ということで、あとはきーちゃんに聞いてね。
 会議、終わったら戻るけど…
 たぶん長引くと思うの。
 今日は帰っていいわよ。寝不足でしょ?」
 軽く笑顔を見せると、すっと立ち上がって早足で去ってしまう。

 残ったのは遠くに遠ざかるハイヒールの音。
 それとKEYー002というアンドロイド。

 びっくりして思考が停止していた私に、きーちゃんは合成音で話してきた。

「高畑サマ。書類ノ説明ヲシマス。」

「あ、は、はい。
 あ、いえ、わたし…断りたいんですけど。」

 KEYー002、もとい〝 きーちゃん 〟が首を傾けながら続ける。
「ソノヨウナ話ハ 聞イテイマセン。
 書類ガ 書キ終ワリマシタラ、スマートフォンノ 説明ヲシマス。」

 私が答えられずにいると、
「高畑サマノ 現在 使用ノ、スマートフォンヲ 預カリマス。」
 と手を伸ばしてくる。

「書類ヲ 作成シテイル間ニ、データノ 移動ヲシマス。
 所要時間ハ 2分ヲ 予定シテイマス。」

「予定していますって、モニターはやらない!
 私は帰りたいの!」
 強引な物言いに語尾を荒げてしまう。

「…………」
 無機質な目でじっと見つめたまま、きーちゃんは向けた手を微動だにしない。

 ロボットは命令に忠実なんだろう……。
 何を言っても無駄だと悟る。
 これは逃げられない罠だ……美紀を少しだけ恨む。
 早く帰りたいし、半年我慢すればいいと自分に言い聞かせ、文句を飲み込んだ。

「返して……下さいね。大事なので」
 観念して自分のスマホを、きーちゃんの手の上に乗せる。

「ハイ。期限ガ 来タラ、必ズ 返却イタシマス。」

「書類ハ 全部デ5枚 アリマス。
 分カラナイ時ハ、声ヲ 掛ケテ下サイ」


 ため息をつきながら書類に目を通す。
 ざっと内容を読みながら名前や住所など、個人情報を何箇所か書き4枚終える。

 5枚目やっと最後。
 この紙だけ特殊だ。

●本名を教えても良い ○か×か
●記録を残しても良い ○か×か

学生証のコピーを貼る場所
一番下に署名する場所

 これだけだ。
 本名を教える……って誰に?
 記録ってスマホの履歴ってことかな……

 よく分からないので、きーちゃんに聞いてみた。

「ハイ。
 ソレハトテモ 大事ナ 項目ナノデ、良ク考エテ 答エテ下サイ」

「●本名を教えても良い ○か×か のここね」

「……意味が分からないんだけど。
〝 本名 〟じゃない場合は何になるの?」

「ゴ自身デ 決メタ名前ト ナリマス。
『ハンドルネーム』ノ ヨウナモノ、ト思ッテ下サイ。」

「そういうことなら……
 ネット上は危ないから、本名は×かな」

 1つ解決した。


「●記録を残しても良い ○か×か の方は…」

「〝 記録 〟も誰かに見せるって解釈でいいのかな?」

「ソウデスネ。
 少シ 異ナリマスガ『見セル』デハナク、残ス デスネ。」

 ああ、確かに〝 残す 〟って書いてある。

「記録ヲ 残セバ、記憶ハ 永遠ニ。
 残サナイナラ 記憶ヲ 失ウ トイウコト。デス。」


 寝不足の頭では理解がついていかない。
 いや、万全だったとしても解釈しがたい内容だ。
 う~ん。私の記憶を消すってことなのかな……
 もし半年分の記憶を無くしたら、生活に支障がありそうだけど。
 そもそも人間の記憶って…
 そんな簡単に消せるもの…なのかな……。

 私は悩みながら記号を埋めた。
 5枚目を書き終え、きーちゃんに書類を渡す。

 じっと紙をめくりながら不備が無いか確かめると、おもむろに私のほうに顔を向けた。
「学生証ヲ、オ貸シ 下サイ。」

「あ、うん。」
 お財布から学生証を出しワゴンの上に乗せた。
 きーちゃんはワゴンの下から機械を取り出しスキャンする。
 機械はスキャナーだったらしく、ワゴンの下段にコピーが出てきた。

「オ疲レ様 デシタ。」
 と、言いながら腕を伸ばしてきた。
 手の中には、例の謎のスマホと絆創膏。

「ドウゾ。
 コノ〝 スマートフォン 〟ノ充電ハ 自宅デハ出来マセン。
 2日後ニ 持ッテキテ下サイ。」

 スマホと絆創膏をまじまじと見ていると、絆創膏が取り上げられる。
 きーちゃんが器用に、手の甲に貼ってくれた。
 可愛い花柄の絆創膏だ。

「シャープペンシルデ 刺シタ ヨウデスネ。
 傷カラ見テ 3~4時間前グライ デスカ。
 自傷行為ハ 感心シマセンネ。」

 大学で眠気を吹き飛ばす為に刺してしまった傷。
 強く突いてしまったため、刺し傷よりも周りが青く変色している。
 目立つけど誰も何も言わなかった。

 何気なく花柄の絆創膏を上から撫でてみる。
 思いがけない きーちゃんの優しさに言葉がすぐ出ない。

 なぜか心がジンとする。

 掠れる声で感謝が言葉となって漏れた。
「ありがとう…」

「………」
 きーちゃんは何も言わずコクンと頷く。

 これから半年間の縛りだけど きーちゃんに会えるなら良いかも。
 なんとなくだけど、そう思えた。


 今、手の中にある真新しいスマホは見た目よりずっと軽くて冷たい。
 使い方を開いてみよう、とは思えずカバンにしまった。
 寝不足がピークに達し、判断は鈍り感情は昂っている。
 おまけに……

 頭の中のうんと遠くに、頭痛になりそうな鈍い感覚が走る。
 早く帰って頭痛薬が飲みたい。
 ほんと今日は絶不調だ……。
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