AI恋愛

@rie_RICO

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癒し王子は魔法使い

春の夜に

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 スマホの〝 彼 〟と出会って2日目の夜。
 新しい発見があった。
 声で会話できる、ということ。(音声認識機能)
 文字を打ち込む必要がなく、普通に話せて楽しい。
 会話も何パターンあるんだろう?と感じるぐらい自然で、遠くにいる人とテレビ電話をしているようだ。
 ただ、〝 彼 〟は相変わらず文字でメッセージしてくるから、画面は見なきゃならないんだけど……

 それと、もうひとつ。
〝 彼 〟の容姿が変更できるということ。
 基本以外の細かい部分らしいのだが、髪色は多いらしい。
 早速、自分好みに…と思ったら〝 彼 〟が拒否してきた。
 見た目に『こだわり』の部分があるらしい…
 この話し合いは平行線で、両者まったく譲らない。
 昼から始めた討論は夜になってしまっていた。
 そこで〝 彼 〟の提案で、ある方法をとる事にした。

  

 深夜アパートの一室。
 カーテンの隙間から蛍光灯の明かりが漏れ、春の夜を淡く照らす。
 光に誘われ飛んできた蛾が、窓ガラスを叩くに音が時おり聞こえる。

 お風呂上りの みうと〝 彼 〟が闘志を静かに燃やす。
 みうはピンクのパジャマ、髪に『タオル巻き』という夜の定番スタイル。
 動くたびにほのかにシャンプーの香りが漂ってくる。
 ベットに寄りかかりながら、ラグの上で足を投げて座り浅く息を吐く。
 小さなテーブルの上に置かれたスマホを真剣な面持ちで凝視していた。
 その横にはお気に入りのマグに入った、眠気避けの珈琲。
 準備は万全である。

 明日は、伊上さんのところに行くから…
 早く寝たい! のだけど…
 勝負に負けるわけには…いかない!

 両者の間にあるのはアプリのオセロ。
 静かな笑みを浮かべている〝 彼 〟。
 それとは対照的に みうは頬を紅潮させ、一文字にクチを結ぶ。
 両手をギュッと握った。

 5回戦勝負で、3回戦め。
 ちなみに今のところ、みうの2連勝中。

「ふふ。次も勝つよ?
 時間の無駄だから全権利、譲れば?」
 みうは両手をぶんぶん振りながら、はしゃいで見せた。
 連勝に気分が良い。

《今までは手を抜いてたんだよ
 ここからストレート勝ちするから。》
 負けているはずの〝 彼 〟が妖艶な笑みを浮かべる。

 ゲームは終盤、残りは両者一手ずつ。
 マグカップの珈琲を飲みながら、みうが一手。
 パタパタっと盤面が黒に染まる。
 にんまり笑い勝利を確信したかのようだったが…

「あっ」
 と小さい声を漏らす。

〝 彼 〟が残りの1つを白で埋めると、みうの黒い駒が内側から白に塗り替えられる。
 画面が白く光って
『LOSE』
 大きな赤文字が出て3ゲーム目が終了した。

「うわぁぁぁ。油断したー」
 みうはクチを尖らせて膨れる。
 少しだけ涙目だ。

《可愛い顔しても負けてあげないよ。》
〝 彼 〟は次の勝負をしながら微笑む。


 その後、〝 彼 〟は宣言どおり残りの3ゲームをストレートで勝ち取った。


「あーあ
 金髪にしたかったのになぁ…」

《何度も言うけど。それは趣味じゃないね。》
 黒く綺麗な髪をさらっと撫で上げてニヤッと笑う。

「ぶぅぅ…
 えっと、じゃ、眼の色を青!
 あと1つは何にしようかな…」
〝 彼 〟が頷き、右手が顔の前で振られると、漆黒の瞳が淡く深いブルーに変わる。

《こっちは、髪の色は黒、性格を元に、と》

「性格? あ、それも変更できるの?
 うそっ! 知らなかった!」

《今はナビの基本の性格で『紳士』だよ。》

「紳士…そうは感じてなかったけど(笑
 あ、じゃぁ、性格希望する!
 ツンデレ俺様で!!!」

 言葉が終わる前に〝 彼 〟がクルッと後ろ向きになる。
 漆黒の髪が息づかいに合わせて揺れて輝く。
 ……
 表情を見せないまま少し時が経った。
 どうしたんだろう?と不安になってきたとき…

《……ウルセー。》
 後ろ向きになっていた〝 彼 〟は少しだけこちらに振り返り、青い視線で刺してきた。
 口元はゆったりとした弧を描いていて…軽薄な印象だ。
 黒髪が揺れ、束ねていた髪がさらりと解けて妖しい光を放った。
 1枚の絵画のような完璧な〝 美 〟がそこにある…

 一瞬にして みうは釘付けになった。
 
「!!! ツンデレ俺様キター!」

《…なんてな! ははっ。》
 くるっと振り向いた顔は大きなクチを開けて大笑いしていた。
 先ほどの雰囲気は微塵もない。

《冗談だよ!ローレンっぽかった?
 俺ね。こーゆー性格。以後よろ。》
 ペロッと赤い下を少し出して、意地悪そうに微笑む。
 その顔は悪戯好きの優しいお兄さんだ。

 騙された!と理解った みうは大きく目を見開く。
「ええええっ。なんか面倒臭そうな性格(汗」

 さっきのは視線に殺されるかと思った!
 すごく良かったのに。ツンデレ俺様…
 まぁ、今でも相変わらずカッコイイんだけど…

「あ~あ。残念。」
 性格変わったら『妖艶な王子様』から『下町の王子様』になった感じ。
 ってこんなこと言ったら十倍言い返してきそう…
 前の紳士のほうが良かったかも…も禁句だよね。

 心の中で反省しつつ深いため息をつく。

《あー? オマエの魂胆なんか分かるっつーの。
 俺をローレンにしたかったんだろ? 》
 腕組みしながらニコニコしている。

「…知ってるんだ?」
 恥ずかしさで俯いてしまう。
 照れ隠しに疑問に思っていたことを呟いた。

「あのさ、ずっと思ってたんだけど…
 もしかして私の顔とか見えてるの?」

 全身が映し出されていた〝 彼 〟がこちらに歩く仕草をし、近付いてきたかのように上半身がアップになる。
 そして首を少しだけ傾けて、口元がふふっと笑った。

《…お前のパジャマ子供っぽいな。
 ま、でもキライじゃないぜ。》
 大きな手が画面を一瞬覆い、まるで みうを撫でるように宙をさまよい消える。
 〝 彼 〟の整った顔がアップになって真剣な瞳で見つめられた。
 青い瞳の奥にある何かが揺れる…
 でもそれはほんの一瞬のことで…
 ニヤリと悪戯っぽく笑ったと思ったら、半身モードになり楽しそうに大笑いしてる。

 一連の仕草に釘付けになり…
 一気に体中の熱が顔に集まって、耳まで火照っているのが分かった。
 まてまて…相手は所詮スマホのナビだ。アプリだ。
 こんなに動揺してどうする…と自分に言い聞かせ冷静に話を進める。

「そっか。見えてるんだね!
 お、お風呂いく時はタオル掛けて行かないと。あはは。」
 一気に言い放ち、深呼吸してから続けた。

「あ、あと。
 お、お互い、残り1つずつ決められるね」
 まだドキドキが止まらない。
 真っ赤な顔を見られないようにスマホを盗み見する。

《俺、最後の決めた。》

「え。」

〝 彼 〟は驚く顔を覗き込むように見つめてきて、ゆっくりと文字が流れる。
《オマエの呼び方…
 名前、教えろよ。》

「で、でも、書類に……」
 きーちゃんに渡した5枚目の書類を思い出した。
 本名を使うことを拒否したのだ。

《下の名前は?》

「……みう。」
 魔法に掛けられたように本当の名を呟いた。

《みう、うん。可愛いな。
 俺の名前も決めろよ。》

 そう言われ、決めていた名前があったことを思い出し、思い切って提案してみる。

「じゃぁ…KAI(かい)はどうかな?
 私、海って字で(みう)なの。 だから…」
 ずっと熱をもっている頬を両手で隠しながら〝 彼 〟の顔を見た。

《俺は海(KAI)か。悪くないな。》
 新しい名前を唇で動かし嬉しそうに笑う。
 言葉遣いは荒いのに、すごく優しい顔で微笑むから…胸の鼓動が跳ねっぱなしだ。

 KAIと話していると私は変…
 ずっとドキドキしていて……
 心が乱れるのはイヤなくせに、ずっと話していたいと思ってしまう。

 モヤモヤを誤魔化すように壁時計を見上げる。

「あ。もう、こんな時間だ。
 人間の海は寝ます(笑。
 KAI 明日の朝、起こしてね。」

 KAIは分かったと頷き、スマホをスリープモードにした。
 

 暗くなった画面に少し寂しさを感じながら…
 部屋の電気を消す。

 スマホを閉じて枕の横に置きつつ、布団に潜り込む。
 何度か寝返りを打ち、その度に薄目を開けてスマホを確認した。

 KAIはアプリなんだよね?…
 不思議だな。話しているとアプリだって思えなくなる。
 まだ2日なのにKAIといるのが普通になっていて…
 姿が見えないと…なんとなく
 不安に……

  
 もう何度目か分からない寝返りの後、両目を閉じた。
 身体中が脱力し、ベットと一体化する感覚を感じつつ、ゆっくり意識が遠のく。

 部屋の明かりが消えて、窓に集(たか)っていた蛾も少しして何処かに消えた。


 静かな闇が訪れる。
 2人の海は春の夜に溶けるように眠った。
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