AI恋愛

@rie_RICO

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恋する勤労少女

夜の病院

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〝 高畑さん… 〟
 三咲くんは みうの肩に置いた右手を滑らせ、首筋と後頭部を指で支えながら、柔らかい身体を引き寄せる。
 少し開いたピンク色の唇に吸い込まれるように自分の唇を近づけた…。

 彼の鼻をくすぐる みうの甘いシャンプーの香り。
 壊れそうなぐらい柔らかい身体。
 全てが…愛おしい…。
 
 コツコツコツ…
 あと数ミリで重なり合う…という時、誰かが近付いてくる足音が耳に響く。

〝 っと!ヤバッ 〟
 とっさに腰を抱いていた手を みうのオデコにあてる。
「高畑さん、熱あるんじゃない?」
 と言い、現状が不自然じゃないように演技した。

 コツコツ…足音が止まって……
 段ボールの隙間から選さんがひょいっと顔を出す。
 2人の様子を見て笑顔が一変、酷く険しいものになった。

「えっ。手伝いに来たんだけど。高畑さん具合悪いの?」
 駆け寄って三咲くんに支えられている みうを覗き込みながら言う。
 その様子はいつも以上にぼーっとしており、赤い顔をして涙目だ…。

 選さんはその姿をひと目見て、具合が悪いと確信したようで、
「これは…かなり熱がありそうだね。
 三咲くんが一緒で良かった。
 高畑さんってすぐ無理するから…。1人で倒れてたかもだよ」
 と言い残し来た道を戻り、早足で店長のところに報告へと行った。

 選さんの起こした風がフワッと当たり、みうは微かにココナッツの匂いを嗅いだ。

〝 危なかった…。って。あ? おいおい… 〟
 三咲くんの彼女のオデコに乗せた掌がすごく熱い。

 みうに寒気と眩暈が同時に襲う。
「っ、く、くしゅっ!」
 彼の腕の中でクシャミをし、そのままフラッと傾く。
 倒れ込む身体を長い両腕がしっかりと抱きかかえた。

「高畑さん?…ヤバイな身体が燃えるみたいに熱い。」
 とっさの演技が本当だったなんて…

「ん…、み、三咲…くん…。」
 みうがほんの少し目を開いて意識を絞るように小声で続けた。

「私、重いから。ゆ、床に…。転がして…おいて。
 すこ…し…寝たら……大丈夫だから…」
 みうは言い終わると、ふっと気を失う。

 三咲くんにチカラを無くし湿った熱い身体が預けられた。
 ぐったりと動けない彼女を見てため息をつきながらも、
「…置いていけるワケ無いでしょ。バカだな。」
 と、きつく抱きしめた。

 大きなクチの口角が上がり、目を細めて柔らかな笑顔になる。
 灰色の瞳は暖かい光を放った。

 さてと、子猫を連れて行くか…

 腕の中の みうの脇とひざ裏に腕を回し軽々と持ち上げ、更衣室へ行く。

「…気にしすぎ。重くないよ。」
 と呟き、倉庫内をお姫様抱っこで進んだ。



 その後…
 店長に許可をもらい三咲くんは自分の車に みうを乗せ病院へ。
 夜間の緊急病院に無事に着き助手席の彼女に声をかける。
「高畑さん、病院なんだけど歩けそう?」

 うん。と頷くが身体にチカラが入らないらしい。
 さきほどよりは意識が戻りつつあるが、相変わらずぐったりしている。
 肩に触れると熱さを感じた。

 三咲くんは荷物を持ち助手席側のドアを開け、
「ちょっと、我慢してね。」
 と伝えて彼女をおぶって病院内に入った。

 夜の病院は静かで閑散としている。
 受付で みうのカバンの中から学生証を見つけて渡し、呼ばれるのを待つ。
 長椅子に彼女を寝かせる。
 自分の膝の上に彼女の頭を乗せ、その上半身に自分が着ていた上着を掛けた。

 混んではいないが数人待つ人がいて、なかなか名前を呼ばれない。
 夜間のため医者の数も少ないのだろう。
 少し汗ばんできた彼女の額を、三咲くんは自分のタオルで拭く。

「…、まだかかるかもね。喉乾かない?」
 声を掛けられ みうが見上げると光の中に茶髪がふわっと揺れ、心配してる顔があった。

「だ、いじょうぶ…。」
 そう答えると、そっか、と大きい手が頭を撫でる。
 その手の重さと膝枕の暖かさがすごく心地よくて落ち着く。
 その後も何も言わないが、彼は、ただ淡々と優しい。

「み、三咲くん…。ごめん…」
 みうは潤んだ瞳で見上げ見つめた。
 彼の顔は今までで一番優しい顔をしている。

「ずっと、ずっと…ちょっと怖い人だって勘違い…してた。」
 みうは三咲くんの上着で顔を隠す。

「あ、あー。それは…、僕が悪いから。
 僕の方こそ、ごめんね。」
 大きなクチが苦笑いした。

 しばらくして…
「高畑さん~。3番ルームに入って下さい。」
 看護師に呼び出され、まだ自力で立てない みうを背中に乗せて診察室へ向かう。

 部屋に入り備え付けの簡易ベットに彼女を降ろし〝 またね 〟と手を振り待合室に戻った。
 待合室で呼ばれるまでの間に彼は、彼女のスマホをカバンから出す。

「高畑さんのって、こんな古いのなんだ…。」

 それはKAIがメンテの間だけの仮のスマホ。
 4年前ぐらいの市販のモデルだ。
 ポケットから自分のを出し、彼女のスマホに近づけて自分のLINUと電話番号を登録する。

「これで何かあっても大丈夫かな。」
 みうを乗せた背中の感触を思い出していた。
 ぐったりして熱い身体を。


 20分ほどして三咲くんが診察室に呼ばれると点滴をしている姿がある。
 看護師さんが〝 過労ですね。点滴が終わったら良く休ませてください 〟と説明してくれた。
 点滴は1時間ぐらいとのこと。
 その後、苦笑した看護師が〝 しかし…困った彼女さんですね 〟と言い残し部屋を出ていった。
 

 看護師が残した言葉の意味が分からなかったが、それはすぐに解けた。
 2人きりになって みうに声をかけようと顔を見る。
 彼女は点滴とは逆の方向に顔を向けてボロボロと大泣きしていた。

「高畑さん、痛い? 看護師、呼ぼうか?」
 三咲くんは顔を覗き込み聞いた。

「…う、ううん…。意識しなければ大丈夫なんだけど。
 針がね。見えてて…怖くて。」
 そう答える みうの腕を見ると点滴の針が刺さりテープで止められていた。

「ああ。針って怖いよね。」
 そう言い、三咲くんはさっき使っていたタオルを開いて腕の上に広げて乗せる。

 点滴で少し冷えた腕が、ふわっと暖かく柔らかい。
 三咲くんは近くの丸椅子を引き寄せて点滴とは逆の方に座る。
 そして、ぽつりぽつりと世間話をし始めた。

「今日は礼美さんが…しつこかったから。
 高畑さんのお陰で助かったよ。」
 そう言うと溜息をついて苦笑した。

「でも、レジを教わるなら礼美さんが良いでしょ。
 一番長いし、よく知ってるんじゃないかな。」
 涙も止まり始めた みうが答える。

「僕は…高畑さんと仕事したい。」
 ベットの隙間に両腕を組んでその上に顎を乗せて みうの顔を見つめた。
 大きい身体をかなり低く縮めているその姿は少し可笑しい。

「ふふ。その体勢つらくないの?
 私が頼まれるのは力仕事か棚卸しか、セールの準備だよ。
 レジの方が楽じゃない?」

 やはり彼は姿勢が辛かったようで、少しばかり椅子を後方にずらして大きく伸びをした。
「楽(らく)とかじゃなくて、楽(たの)しい方が良いよ。
 同じ文字だけどね。高畑さんといると楽しいんだ。」

「…目が泳ぐから面白いだけでしょ?」
 みうはそう言いながら頬をふくらませる。

 はははっと三咲くんは笑った。

 他愛もない話をしている間に笑顔も戻ってきて話もしっかりしてきた。
 点滴が少し入ってきて落ち着いたのか顔色も元に戻りつつある。
 もうすぐそれも落ち終わりそうだった。

 三咲くんが看護師に声を掛け点滴の後の処置もしてもらい、薬を受け取った。
 帰る頃には みうの足取りもしっかりとしている。

「無理しないで背中に乗ればいいのに。」
 三咲くんは心配そうに みうを見下ろした。

 2人で話ながら駐車場へと向かう。
 見上げると三咲くんの優しい笑顔があった。

「ううん。もう歩けるし…。」

 そう答えながら〝 KAIも同じぐらい背が高かったなぁ 〟とぼんやり思う。
 もし一緒に歩いたらこんな感じなのかな…と。
 一瞬考えただけなのに、また頬が赤く染まる。

 銀色のスポーツカーに近付く。
 さっきまで具合が悪くて見ていなかったが、三咲くんの車ってこんなのだったんだ、と驚いた。

「さ、乗って。」
 三咲くんが車の助手席のドアを開いてくれる。
 ゆっくりと蹴飛ばさないように乗り込むと、後ろ側に回っていた彼がキーレス(車の鍵)で閉めた。

「ありがとう。この車って三咲くんみたいだね。」
 隣に乗り込んでハンドルを握る人物に声をかける。

「そう? あ、夜は銀色に見えるね。
 こいつ昼間は光沢のある薄いブルーなんだ。」
 茶色の髪がふわっと揺れて、笑顔になった。

「へぇぇ。ブルーなんだ。不思議な車だね。
 あ、あと、病院代、もしかして立て替えてくれた?」

 車は流れるように動き出す。
 三咲くんは〝 気にしない。でも、ごめんっ 〟って言いながら、学生証を見たことを話した。

「高畑さん…、下の名前は〝海(うみ)〟ちゃん?」
 車は駐車場から大通りに向かう。

 夜の街を車で走るなんて初めてかも…と景色を見ながら
「…ううん。海って書いて〝 みう 〟だよ。
 病院代、あとでちゃんと返す…。ちょっと時間かかるかもだけど。」
 そう答えて三咲くんの横顔を見た。
 運転をしている表情は大人っぽくてバイトでは見たことがない雰囲気をまとっている。

 そういえば…三咲くんのこと全然知らないな。
 初日にあんなことがあって、その後も怒らせたりして…
 ずっと避けてた、な。

 ほどなくして…車は細い路地に入りコインパーキングに停車した。

「中華は好き?」
 言いながら、三咲くんが後部座席にあったデニムのシャツを みうに渡す。

「う、うん。中華好きだよ。えっと…これは?」

 戸惑いながら渡されたシャツを広げていると、大きい手がヒョイとそれを奪い みうの肩に掛け袖口を前でまとめてくれた。

「少し歩くから。それ、みうちゃんには大きいから暖かいよ。」

 三咲くんの匂いがするシャツと〝 みうちゃん 〟って初めて呼ばれたことに赤くなる。
 彼は頬を染めた みうに笑顔を残し車から降りた。
 追いかけるように助手席のドアを開け2人で中華屋に向かう。


 みうは中華屋で初めての中華粥を堪能した。
 色々な具材を好みに合わせて少しずつ入れながら食べられることに感動し、楽しかった。
 三咲くんは話も上手で、聞いて欲しくないことには無理やり踏み込むことはしない。
 だからなのか自然と打ち解けられ、抵抗も薄くなっていった。
 帰り道には普通に話せるまでになっており…


「あー。やっぱり病院の薬が効いて寝ちゃった。
 みうちゃんって無邪気だなぁ。」
 三咲くんは信号待ちで隣を覗き込んだ。
 助手席で幸せそうに眠る顔がある。

「…、しかし、どうしようか。
 家、知らないんだよね。あ、学生証見ればいいのか。」
 青信号で直進しながら呟き、悩む。

 1人暮らしっぽいし、まぁ、もう大丈夫だと思うけど…
 カバンの中で鍵っぽいもの見なかったんだよな。
 選さんの話だと無理する娘らしい。
 …うーん。あまり気は進まないけど。

 少しため息をつきながら
「プライベートは見せない主義なんだけど…な。」
 独り言を眠る彼女に聞こえるように言うが、スースーと寝息だけが返ってくる。

 野良の子猫を拾ったみたいだ…
 可愛いな。

 銀色の流線型が加速し夜の街を駆けていった。
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