AI恋愛

@rie_RICO

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恋する勤労少女

誤解

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 月の晩の魔法が解けた次の日。
 みうは泣きはらした顔をしたまま、朝一で電車に飛び乗り例の地下の研究所へ向かう。
 伊上さんからスマホを見た途端『充電がこんなに減るほど無理して…』と呆れ顔のお小言を頂戴した。
 きーちゃんもメンテの間に緊急用の携帯バッテリーか何か製作してくれるみたい。
 そんなこんなで無事にスマホを預けて、今は連絡用の違うスマホを渡されている。


 その後、大学やバイトでバタバタと日は過ぎ…
 気付けば2日があっという間に過ぎていた。
 今日一日頑張れば、明日の朝KAIに会える。
 みうの気合は満ちていた。


 夕方から古本屋のバイト。
 倉庫で1人、次のセールに向けて準備をするため〝 仕事の山 〟を探してた。

 「あ、あった。」
 奥まった少し広いスペース、近くの裸電球が箱の山を照らしている。


 段ボールが2段ずつで4列、積んだ表側に『セール用、袋・値札付』と紙が張ってあった。
 8箱分、これが今日のノルマだ。

 倉庫内は薄暗く、所々に白熱電球がぶら下がっていてタイムスリップしたような趣がある。
 これも古いもの好きの店長の趣味だ。
 「よしっ!」と腕まくりをして左上の段ボールに取り掛かる。

 ビリッ、ツーツー、ビリッ、ツーツー…。
 持ってきた袋に丁寧に本を詰め、ある程度たまったら値札付け。

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。
 ひんやりした倉庫の中で無心にハンドラベラーで値札を貼っていた。


*** みうが倉庫で一生懸命ハンドラベラーと格闘していた頃。
*** 三咲くんは柔らかい茶髪を掻き上げて深いため息をついていた。
*** レジで礼美さんに教育指導と称するパワハラを受けていたからだ。

***「三咲くぅん。礼美、疲れちゃった。一緒にお茶しようよぅ。」

***「礼美さん先にどうぞ。僕は大丈夫ですから。」
*** 礼美はレジの下の方で三咲の手を取りギュッと握りながら上目使いで瞳をウルウルさせる。


 みうは、ただ、ひたすらにビニールの袋に詰め終わると値札付けだ。
 ビリッ、ツーツー、ビリッ、ツーツー…。


***「孝祢(たかね)。って呼んでもいいでしょぉ。」
*** そう言いながら礼美さんは執拗に手を絡めて、身体を寄せてくる。

*** 三咲くんは苦い顔をしながら、やんわりと礼美さんの手を振りほどき
***「僕、やっぱり休憩してきます」と、レジを飛び出した。


 古い本と埃の匂いの倉庫の中でハンドラベラーの音が響く。
 ガシャン、ガシャン、ガシャン。
 こんな単純作業をしていると、つい考え事をしてしまう。
 前までは大学のことや、美紀のこと。
 あとはイケプリ(ローレン)のイベントのこと。
 少し思い返すぐらいで、すぐ仕事に集中できた。

 でも、今は…
 ビリッ、ツーツー、ビリッ、ツーツー…。


*** レジに1人残された礼美さんは、ほっぺたを思いっきり膨らませて怒る。
*** でも、すぐにハッとしてニヤニヤし始めた。
***「そっかぁ。礼美みたいな美人に言い寄られて、照れたのね。
*** ふふふ。可愛いなぁ。三咲くん。ううん、た・か・ねくん。」


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。
 やっと2箱終わった…かな。
 今回は多いなぁ。


*** 三咲くんは休憩室に行かず倉庫に入ってきた。
*** 少し離れた場所からハンドラベラーを打ち付ける音が聞こえる。
*** その音を頼りに耳を澄ませながら、本の山を崩さないよう慎重に歩く。
*** セール前の倉庫はちょっとした本の壁の迷路だ。
*** この迷路のゴールは…。
*** 探している人物の顔を思い描いて、彼の胸の鼓動は小さく跳ねた。


 みうは3箱目を開けて、はたと悩む。
 作業スペースが確実に狭まっていて、終わったのを元の箱に入れて重ねるしかない状態だ。

「ふぅ。置き場が狭すぎたな…」
 1度潰した段ボールを組み立て直してテープを貼り、丁寧に詰めはじめた。


*** 急にラベラーを打つ音が消えた。
*** 三咲くんは〝 音の近くにいるはずだ 〟と、周囲を注意深く見渡す。
*** 灰色の瞳はハンターのように俊敏に獲物の気配を捕らえようと光る。
*** 小さくて無垢で、からかうとすぐ赤くなる可愛い…アイツは何処だ。


 本の大きさを揃えて丁寧に箱に詰めていたが、ふと手が止まった。
 洋書らしきハードカバーの表紙の絵を前に動けなくなる。
 そこには漆黒の闇に浮かぶ歪(いびつ)な月と傷ついた羽を広げる白い鳥が描かれ…

 それはまるであの日のよう…

 何をしていても、月夜の晩のことが頭から離れない。
 3分が永遠にも一瞬とも感じられた不思議な体験。
 KAIが目の前に現れたらいいのに、っていつもどこかで…
 そう、ずっと願っていたんだ。私は。

 本を見つめ、目を見開いたまま みうは妄想の世界の住人と化していた。


 少し離れたところで三咲くんが作業中の段ボールを発見する。
〝 お。やっと見つけた♪ 〟
 大きなクチはニヤッと笑い、段ボール近くの本の影に隠れた。

〝 ちょっと驚かせて、それから休憩でも誘おうかな 〟
 みうが座り込んでいる場所まで音を立てないように近付き…
 気が付かないのを確認しながら真後ろに回った。


 三咲くんがすぐ近くにいることも気付かず みうの頭の中はKAIのことでいっぱいだ。
 ゆっくりと段ボールに本を詰めてはいるが、目の前の景色もあやふやで、未だに妄想の中にいる。

 明日になれば、また毎日話せる…でも、でも…
「会いたい…」
 本の山を片付けながら独り言が漏れはじめた。

 三咲くんは脅かすことも忘れ、自分のクチを両手で押さえて みうの独り言に耳を寄せた。
 静かで薄暗い中で息をこらしながら意識は みうに向かう。


 しばらくして、また…
「……って、…我侭だよね」
 みうの可愛い声が倉庫の中に堕ちる。

 相変わらず手はちゃんと動いていた。
 その様子は傍目には〝 ちゃんと仕事をしてる 〟だ。
 三咲くんは茶色の髪をふわりと揺らしながら、みうの左後ろに近付き顔が見える位置にしゃがむ。


 何冊が詰めて急に規則的に動いていた手が止まり みうは思い詰めた顔をする。

 頬が少し赤くなり、また一言。
「離れて…大事って分かるなんて…」


 三咲くんはいつまでも気付く様子がない みうを見て考えていた。
 顔も言葉も、まるで誰かを想っているような姿をだなと。

 もしかして。高畑さんは好きな人がいるのかな?
『我侭、離れて分かる大事な人?』聞いたキーワードを頭の中で整理する。

 好きなヤツかぁ…。なんだか僕ガッカリしてる?
 高畑が僕以外の誰かと付き合う?
 はぁ?! ありえないって。
 自分の考えを否定するように茶髪がフワリと揺れた。


 ボーっとした みうのピンク色の唇がまた可愛く動く。 
「あの瞳が…間近で見て…」

 そう発し、ふぅぅっと深いため息、そして、
「…ずっと忘れられなくて」
 と続き黙り込む。

 作業は完全に止まってしまい みうは少し首を上げて遠くの照明を見つめていた。

 あの照明って月…みたい。あの日の…。
 KAI…会いたいな。


 三咲くんは、普段と違う態度の みうを眺めながら言葉のパズルを必死に繋げていた。
『間近で見た…瞳?、ずっと忘れられない、で離れて大事?』…
〝 あれ… 〟自分には思い当たることがある。
 最近は店長命令で礼美さんと組まされて仕事をしている。
 文字通り〝 離れて…、で、僕のことが大事? 〟
 まぁ、これはこじ付けっぽい感じだが、その後の言葉の意味する所は完璧に自分のことだ。

〝 あの瞳が間近で、と、ずっと忘れられない 〟って。
 それは自分のバイト初日のこと。
 あまりにも 高畑さんの態度が可愛くて面白かったので、冗談半分で抱きしめた。
 すぐに解放してあげるつもりだったんだけど…
 その時の彼女の照れた顔と柔らかさが堪らなくて、顔を近づけて覗き込んじゃったんだ。
 そしたら泣きそうになって…、そんな顔したから離したんだけど…
 本当はあの時、あの柔らかそうな唇を…。
 その時のことを回想していたら次の呟きが彼女から放たれ、ハッとする。


「はぁぁぁ…。これって…」
 みうの瞳は潤んで薄暗い倉庫で輝いていた。
 座り込んだまま、ボーッと天井を仰いでいる。


 三咲くんはそんな彼女の表情(かお)を見て〝 そんなに僕が恋しいのか 〟と、胸のあたりがキュッと切なくなった。
 その腕を肩や背中、髪の毛すら掻き抱きたい衝動にかられフラフラと近付いていく…
 灰色の瞳は熱を帯び、耳にはほんのりと朱色が差していた。
 
 近付く三咲くんの存在も気付かないほど、みうの頭の中は未だに妄想の中だ。
 薄暗い倉庫の中で重なり始める2人の影。

 時刻は夕方から夜に変わろうとしていた。


 みうは想う。KAIが消える寸前のあのキス…
 何度も何度も思い返しては心が掻き乱され、ずっと熱を持つ頬と落ち着かない心臓。
 この意味を知っている…けど、KAIはアプリだと思い込んで押さえつけてきた。
 でも、もう誤魔化せないのかも。

 ピンク色の唇がため息を吐き、
「もしかして、ううん、もしかしなくても…」
 と、今までの呟きの答えを見つけたような、これまでとは違うハッキリした声。

 頬はまだ真っ赤だが、潤んだ瞳には生気が戻りつつあった。
 妄想の世界は終わりの時を迎え みうの周囲は現実に帰る。
 月に見えていた照明がぼんやりと電球の形に変わっていく。
 その横に見えていた想像のKAIの顔も消える…
 はず…だけど消えない? あれ?
 黒いはずのその髪は茶色のフワフワで…
 青い瞳は灰色…、あれ?というか全然違うチャライ顔?あ。

「か、!(なんで三咲くんが目の前に???)」
 ギリギリでKAIと叫ぶのを止めた。

 あ、危なかったぁ…

 三咲くんが みうの肩と腰に手をかけ自分の方へと軽く寄せ腕の中にそっと閉じ込める。
 倉庫の暗がりで半分抱き合うような形で見つめ合う2人。
 みうはどうしたら良い分からず、ただただ固まっている。
 何が起きたのか分からず…泣きそうだ。

 だけど彼は違う。
 どうしようもなく彼女を奪いたい衝動と葛藤していた。
 さすがにバイト中だし、店長や礼美に見つかるのも面倒だ。

 …腕の中が子猫を抱いているみたいに柔らかくて暖かい。
 彼女の熱と香りが堪らなく愛おしく、自然とピンク色の唇に視線がいく。
 いやいやいや…だから、今はダメだって…でも、可愛いんだよな。

 柔らかそうな唇を見ていると欲情してしまいそうで、視線を外した。
 ふと見た みうの黒く潤んだ瞳に捕われ、自分の気持ちを確信する。
 前に抱きしめた時すでに心を奪われていたんだと。
 そして今、自分への一途な思いを知り、恋心が加速していることを自覚した。

 コイツ真っ赤で目がウルウルして可愛すぎるだろ。
 僕といるんだから仕方ないのか(微笑。
 たぶん僕も顔赤いんだろうな…
 って、あれ?これって両想いってヤツなんじゃ?
 ちょこっと食べても…良いよね…キス…とか。
 この状況で何もしないって…逆に不自然だろ。

 三咲くんが固まる みうの唇に顔を近づけようとした、まさにその時。
 2人にカツカツと革靴の音を響かせて近付く影があった。
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