須藤先生の平凡なる非日常

如月あこ

文字の大きさ
14 / 128
第一章 3、須藤先生は、ちょっぴり優しい……かも、しれない

4、

しおりを挟む
 じっくり見たわけではないが、先生の手は細くて筋張っており、「男の手」といった印象だった。あの手がここにいる子たちを作り出しているのだと思うと、不思議な感覚がする。
 だが、さすが講師をやるだけのプロ。
 お値段もなかなかのものだ。
 すべてが一点ものの手作りだと考えれば、安いのかもしれないけれど。
 狭い店内には、お客さんが二人。友人同士の女性で、「これ綺麗やねぇ」と二人で話している。大方、前を通りかかって偶然来たにすぎない冷かしだろう。積極的に声をかけると、そそくさ退散していきそうな人たちだったので、カウンターで軽作業をしているふりをする。しばらくしてお客が「綺麗でした、また来ますー」と一言残して、帰って行った。
「お前、接客悪くないな」
 ひょっこりと、奥の作業場から現れた先生は、何をしたのか、袖にべったりと青色の染みを作っていた。まだ乾いていないらしく、てらてらと染色部分が光っている。だが、当の本人は気にする様子もなく、私の隣に座った。
「終わったんですか」
「ああ。どれも寝かせる工程まで進めておいた」
「寝かせる?」
「二液レジンや、モールドを複数仕込んできた」
「はぁ、そうですか」
 それが何か、私にはわからなかったが、聞いたところで何が変わるでもない。適当に相槌を打つと、先生は気にした様子もなく、話を戻した。
「午前中に、いくつか売っただろう?」
「はい。五つも売れましたよ。そのうち二つはプレゼント用らしくて、梱包に包みを使わせていただきました」
「好きに使ってくれ。金具の付け替えも慣れていたな。先日、あまり物づくりが得意でないようなことを言っていたが?」
「得意じゃないから、パーツだけ買って金具を付け替えてるんです。どうしてもイヤリングでほしいのに、ピアスしかなかったりなんて、よくありますし」
「上出来だ。梱包も接客も丁寧で、作り笑いも詐欺レベルにうまい」
 最後の比喩は、どう考えても馬鹿にしている。
 それでも、褒めてくれたのだろうから、一応「ありがとうございます」と言っておく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声-サスペンス×中華×切ない恋

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に引きずり込まれていく。 『強情な歌姫』翠蓮(スイレン)は、その出自ゆえか素直に甘えられず、守られるとついつい罪悪感を抱いてしまう。 そんな彼女は、田舎から歌姫を目指して宮廷の門を叩く。しかし、さっそく罠にかかり、いわれのない濡れ衣を着せられる。 翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 嘘をついているのは誰なのか―― 声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

処理中です...