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第三章 4、真実
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目を開いた私は、頭をはっきりさせようと、朝日を求めてカーテンを開いた。望んでいた陽光はなく、真っ暗な空には星がぽつぽつと輝いている。時計を見ると、夜中の十時を過ぎた頃だった。
「おい、生きているかと聞いているんだ」
「あ、はいっ」
どんどん、と部屋のドアをたたく先生の元へ、慌てて向かった。どうやら先生の声で、意識が浮上したらしい。車の旅疲れのせいか、それとも先生の実家で精神的に緊張していたのか、私はかなりぐっすりと眠っていたようだ。
ホテルの部屋についてすぐ、惰眠をむさぼったために、身体はかなり軽くなっていた。半面、気持ちはがくがくと揺れている。先ほどまで見た夢は、私の脳裏にくっきりと残っていた。
ドアノブに手をかけて、ふと、開くのを思い留まる。
先ほど見た夢は、ただの夢ではない。私が、過去に、実際に体験したことだ。
ホテルのドアは、安っぽいアルミのように見えた。ドアノブをひねれば、すぐそこに先生がいる。秀麗な眉をつりあげて、ドアを睨んでいることだろう。
「……先生」
「なんだ、まさか開け方がわからないとかじゃないだろうな」
ドアは、オートロックだ。壁の差し込み口に、カードキーを置いてある。だが、ドアをひらくのに必要なのは、ドアノブを回すことだけ。
内側から開く分には、簡単なのだ。
ドアノブに触れた手が、震えていた。
先生から、離れないといけない。お父さんは、私と先生を近づけたくないみたいだから。このまま先生の近くにいたら――きっと、私の過去が、先生にバレてしまう。
ひゅっ、と喉がなった。
このドアを開いたが最後、部屋にこもっている私のみた「夢」が、先生に知られてしまうのではないか。そんな錯覚を覚えて、ドアノブから手を離した。
今、部屋には私の「過去」が漂っている。
薄暗く、窓から差し込む星々の明かりや月光が、ぼんやりと室内を照らしていた。
「鏑木くん?」
「……先生」
「どうした、具合が悪いのか」
先生の声音に、私を気遣う色が混ざる。とっさに、ドアから離れた。
「鏑木くん? 返事はどうした」
「せ、先生。あの、私。……先生に、嫌われたくない」
離れよう。
先生に、私の過去を知られる前に。
「おい、生きているかと聞いているんだ」
「あ、はいっ」
どんどん、と部屋のドアをたたく先生の元へ、慌てて向かった。どうやら先生の声で、意識が浮上したらしい。車の旅疲れのせいか、それとも先生の実家で精神的に緊張していたのか、私はかなりぐっすりと眠っていたようだ。
ホテルの部屋についてすぐ、惰眠をむさぼったために、身体はかなり軽くなっていた。半面、気持ちはがくがくと揺れている。先ほどまで見た夢は、私の脳裏にくっきりと残っていた。
ドアノブに手をかけて、ふと、開くのを思い留まる。
先ほど見た夢は、ただの夢ではない。私が、過去に、実際に体験したことだ。
ホテルのドアは、安っぽいアルミのように見えた。ドアノブをひねれば、すぐそこに先生がいる。秀麗な眉をつりあげて、ドアを睨んでいることだろう。
「……先生」
「なんだ、まさか開け方がわからないとかじゃないだろうな」
ドアは、オートロックだ。壁の差し込み口に、カードキーを置いてある。だが、ドアをひらくのに必要なのは、ドアノブを回すことだけ。
内側から開く分には、簡単なのだ。
ドアノブに触れた手が、震えていた。
先生から、離れないといけない。お父さんは、私と先生を近づけたくないみたいだから。このまま先生の近くにいたら――きっと、私の過去が、先生にバレてしまう。
ひゅっ、と喉がなった。
このドアを開いたが最後、部屋にこもっている私のみた「夢」が、先生に知られてしまうのではないか。そんな錯覚を覚えて、ドアノブから手を離した。
今、部屋には私の「過去」が漂っている。
薄暗く、窓から差し込む星々の明かりや月光が、ぼんやりと室内を照らしていた。
「鏑木くん?」
「……先生」
「どうした、具合が悪いのか」
先生の声音に、私を気遣う色が混ざる。とっさに、ドアから離れた。
「鏑木くん? 返事はどうした」
「せ、先生。あの、私。……先生に、嫌われたくない」
離れよう。
先生に、私の過去を知られる前に。
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