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第三章 5、呆気ない終わり、そして、はじまり
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「少ししゃべりすぎたね。少々、テンションがあがっているようだ。まさか、須藤由紀子の息子ときみが、こんなに親しくなるなんて。しかも、犯罪加害者遺族が、被害者であるきみを変えようとしている。これは、とても興味深い。……だから、暫くはこのまま、きみを見守ることにするよ」
現代のモリアーティは、すっと若々しい仕草で立ち上がり、私の隣まで歩み寄ってくる。目を合わせても、そこにいるのは「矢賀先生」でしかなかった。生徒想いで、うざいけれど、優しい先生。
なのに。矢賀先生からは今、なんの感情も読み取れない。喜怒哀楽の何も見えない。目は笑っているし、話す口調もやや早く、興奮が読み取れる。なのに、表情や雰囲気は、人形のようで不気味だった。
「忘れないで。きみは、私が私の後継者候補として育てた、大切な娘だよ」
「私は、私でしかない」
「うんうん、そのまま突っ走るといい。楽しいことを知ってから絶望を味わえば、きみの孤独はより増すだろうから」
現代のモリアーティは、私とすれ違う。先ほど倒れた男のほうへ、歩き出す。
「物語は、常に劇的とは限らない。静かな終焉を迎えるときもあるのさ。可愛い渡月。きみは、とてもかしこい子だ」
いけ、と言われた気がした。
強張っていた身体が、呪縛から解放されたように動き出す。私はアトリエを飛び出して、ひたすら、先生の車が止めてある駐車場を目指した。
餅井殿商店街を抜けて、駐車場を目指す。鞄ももたず、靴も足を突っ込んだままきちんと履くことなく走る私を、すれ違う人々が振り返る。それでも私は足を止めず、アトリエからどれだけ離れても走る速度を緩めなかった。
「鏑木くん!」
先生の――須藤先生の声。
急停止して、辺りを見回す。最近できたばかりの、奈良特融の外観を模したコンビニに、須藤先生がいた。驚いた顔で、入り口から半身を乗り出している。目が合うと、須藤先生は片手に持っていた買い物かごを店内に放り投げて、こっちへ駆けてきた。
「何があった、真っ青だぞ!」
「せ、ん……せ」
身体から力が抜けて、その場に座り込む。駆け寄ってきた先生は、片膝をついて私の前にしゃがみこむと両肩に手を置いた。ぐっと先生の顔が近づく。
現代のモリアーティは、すっと若々しい仕草で立ち上がり、私の隣まで歩み寄ってくる。目を合わせても、そこにいるのは「矢賀先生」でしかなかった。生徒想いで、うざいけれど、優しい先生。
なのに。矢賀先生からは今、なんの感情も読み取れない。喜怒哀楽の何も見えない。目は笑っているし、話す口調もやや早く、興奮が読み取れる。なのに、表情や雰囲気は、人形のようで不気味だった。
「忘れないで。きみは、私が私の後継者候補として育てた、大切な娘だよ」
「私は、私でしかない」
「うんうん、そのまま突っ走るといい。楽しいことを知ってから絶望を味わえば、きみの孤独はより増すだろうから」
現代のモリアーティは、私とすれ違う。先ほど倒れた男のほうへ、歩き出す。
「物語は、常に劇的とは限らない。静かな終焉を迎えるときもあるのさ。可愛い渡月。きみは、とてもかしこい子だ」
いけ、と言われた気がした。
強張っていた身体が、呪縛から解放されたように動き出す。私はアトリエを飛び出して、ひたすら、先生の車が止めてある駐車場を目指した。
餅井殿商店街を抜けて、駐車場を目指す。鞄ももたず、靴も足を突っ込んだままきちんと履くことなく走る私を、すれ違う人々が振り返る。それでも私は足を止めず、アトリエからどれだけ離れても走る速度を緩めなかった。
「鏑木くん!」
先生の――須藤先生の声。
急停止して、辺りを見回す。最近できたばかりの、奈良特融の外観を模したコンビニに、須藤先生がいた。驚いた顔で、入り口から半身を乗り出している。目が合うと、須藤先生は片手に持っていた買い物かごを店内に放り投げて、こっちへ駆けてきた。
「何があった、真っ青だぞ!」
「せ、ん……せ」
身体から力が抜けて、その場に座り込む。駆け寄ってきた先生は、片膝をついて私の前にしゃがみこむと両肩に手を置いた。ぐっと先生の顔が近づく。
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