不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

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第二章 少女失踪事件

6-1

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 校舎屋上から見える池は、裏山から続く獣道を延々と登っていくらしい。
 昼休みが終わるとき、姫島屋先生にそう聞いていたため、仕事が終えたあと、ロッカーに予備として置いてある体操着に着替えた。
 外は、夕暮れが辺りを染め始めており、生徒はもちろん、教師も帰宅済みだ。
 私も帰る準備をして、姫島屋先生と待ち合わせている裏門へ向かった。生徒の利用は現在なく、内側から軽い閂で線をするだけの門だ。
 学校の裏庭と歩道が、フェンスを挟んで並行しているけれど、森がどんどん浸食してきているため、現在では歩道を使う住人もほとんどいなかった。
 いくつかある電灯は、私の借家近辺ほど数が少ない。この時間、まだ明かりはついていないけれど、ついたとしても薄暗いことは容易に想像ができた。
 懐中電灯持ってこなかったな。
 山を登ってる間に、確実に暗くなる。
 帰り道、危ないだろうなぁ。
 よし。
 姫島屋先生はまだ来ていないし、少し遅れる旨を連絡してから、学校へ懐中電灯を取りに行ってこよう。
 そう決めて、携帯電話を取り出したとき。
「先生、お疲れ様でござる」
「ひゃっ!」
 背後から声をかけられて、飛び上がった。
 首がもげる勢いで振り向くと、空閑くんがぽりぽりと頭を掻きながら立っている。反対の空いた手には、明るさマシマシの懐中電灯を持っていた。
 ライトは地面に向けられているため、今の今まで彼の存在に気づかなかった。
 足音たてて歩こうよ、忍者みたいだよ。
「まさか、このようなところで先生とご一緒になるとは。もはや、運命でござる」
「な、なんで、空閑くんがここに?」
「この先に、用事があるでござるよ」
 そう言って、空閑くんは波のように私たちを飲み込もうとしている木々の根元を、懐中電灯で照らした。そこには、わかりずらいが、人がひとり通れるほどの道がある。
「この道って、もしかして池へつながってるやつ?」
「そうでござる。さすが尊敬する神崎先生、知識人でござるなぁ」
 知識のちの字もアピールしてない私を褒める空閑くんは、どう考えても私を過大評価しすぎである。
 いやいや、彼は頭がいいから、教師を褒めていい気にさせているだけかも。
 って、ちょっとその考えってどうなの、私。
 生徒の言葉を信じないでどうするの。
 空閑くんは、純粋に慕ってくれてるんだ。
 そう思おう。
「もうすぐ陽がくれるよ?」
「日没までは、まだ二時間弱ござるよ」
「そ、そうなんだ。この先へ行くって言ってたけど、秘密基地でもあるの?」
「池以外に、でござるか?」
 空閑くんが、首を傾げる。
「拙者も、この先へは行ったことがないでござるゆえ、未知の領域……はっきりと、是非を答えられぬ拙者を許してほしいでござる」
 空閑くんは、律儀に会釈をした。謝罪という意味らしい。深い意味もなく、なんとなく秘密基地という言葉を使った自分に後悔する。
 空閑くんと話すときは、もう少し言葉を選ぼう。
 彼は、真面目な生徒だ。むやみに私の言葉に振り回してはならない。
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