不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

文字の大きさ
30 / 76
第三章 歩く死体

1-1

しおりを挟む
 来週から、ゴールデンウィークに突入する。
 連休前は、やることがありすぎて心身ともに疲労困憊になるのだが、大型連休目前だと思うと頑張れるから不思議だ。
 今年度に入って、やっと一息つける時間になるだろう。
 女生徒失踪事件に、緑川先生の「元彼のような振る舞い」に関する周囲の反応、なによりミコ先生の悪女のごとき私への接し方、そういったものによって、私の心労はつもりにつもっていた。
 まえの職場は、大御所感漂う中学校で、堅物な上司が多かった。対人関係で苦労をしたのは、苦い経験になっている。
 今の職場は、そこまで堅苦しくはない。
 けれど、昨年度に中高一貫となった新設校のため、ひとりの負担が凄まじかった。これ本当に教師の仕事? というようなことまで、やっている気がする。
 まぁ、ここが田舎で、職員が少ないためでもあるんだけど。
「神崎せーんせ」
 パソコンとにらみ合いっこしていた私の前に、ミコ先生がひょっこり現れた。
 彼女は対人関係に関してラフで、軽いノリと真面目な表情を切り替えてうまくやっている。
 これだけ見た目が可愛かったら、私も優しくされたのかなぁと思ってしまう。
 ぽってりとした唇は、柔らかそうだし。柔和な笑顔は、女性らしいし。顔も小顔で、目は小動物みたいに大きいし。
 私が新人だった年は、激務だったよ。
 ある意味パワハラかってくらい、上司にこき使われたよ。
 ミコ先生みたいに、年配の男性教員に甘やかされるなんてこと、天地がひっくり返って藻ありえない状況だったなぁ。
「どうしたんですか? あ、お疲れです?」
「まぁ、うん。それで、なに?」
「さっき生徒から聞いたんですけど、この学校で幽霊がでるんですか?」
「はい?」
 思わず、聞き返してしまう。
 ミコ先生が、「もう、神崎先生ったらおばあちゃんなんだから」と笑う。さらりと馬鹿にされながらも、もう一度問うと、ミコ先生は詳しく話し始めた。
「なんでも、夜中に校舎から声がするらしいですよ? 聞いた人がいるって、生徒が言ってました」
「生徒が聞いたんじゃなくて?」
「生徒の知り合いが、聞いたみたいです。ちょっと遠いですけどね。だから、幽霊でも出るのかなって思ったんです」
 なんでそれが幽霊になるの、とジト目をした瞬間。
「ああ、それなら私も聞いたわよ」
 中等部一年二組担任の、早良先生が話に入ってきた。
 私の母と同じほどの歳をした早良先生は、つねに堂々としている、てきぱきと仕事をこなす女性だ。わからないことへの質問の返事も明確で、相手に伝わる言葉を選べるひとでもあった。
 早良先生のような人が担任なら、保護者も安心だろう。
「早良先生もですか? 幽霊がでたって?」
「さすがに飛躍しすぎよ、宝田先生。私が聞いたのは、深夜に学校から人の声がするって話。うちのクラスの子が話してるのを聞いたの」
「あれ、私が聞いたのは、二年の子からでしたよ」
「何件か証言があるのかしら。もし、深夜に誰か学校に忍び込んでるなんてことがあったら、一大事よ。教頭に連絡しなきゃ」
「それなら、私が行ってきます」
 私は、ふたりの話に入って、席をたつ。
 早良先生が、ありがとうと言うのを聞いてから、教頭先生の方へ向かった。なぜか、ミコ先生もついてくる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声-サスペンス×中華×切ない恋

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に引きずり込まれていく。 『強情な歌姫』翠蓮(スイレン)は、その出自ゆえか素直に甘えられず、守られるとついつい罪悪感を抱いてしまう。 そんな彼女は、田舎から歌姫を目指して宮廷の門を叩く。しかし、さっそく罠にかかり、いわれのない濡れ衣を着せられる。 翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 嘘をついているのは誰なのか―― 声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...