不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

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第四章 隠された真実

10-4、

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「お姉さんを救助するために、神田奈々を殺したの?」
 問うた私に、美咲は、ふにゃりと無邪気な笑顔を浮かべた。
 それが答えだった。
 美咲は、異母姉の中惠の死体を引き揚げさせるために、神田奈々を殺害したのだ。
 疑問は沢山あった。
 なぜ、美咲は中惠が沈め池に沈んでいることを知っていたのか。そこまで姉に執着するのはなぜなのか。本当に、池から中惠を引き上げるためだけに、今回のような大掛かりな家出騒動や殺人を犯す必要があったのか。
 美咲なりの答えはあるのだろう。
 考えて、悩んで、彼女の思考は向いてはならない方向へ向いてしまったのだ。
「お姉ちゃん、早く、きて」
 ぽつりと呟いた美咲の声は、小さくて、震えていた。
 幼子のように、助けを求めているのがわかる。
 ふいに、外が騒がしくなった。
 玄関のほうから、複数人の足音が響いてくる。なんだろうと思っていると、スーツ姿の男たちが離れへやってきて、美咲を取り囲んで押さえつけた。
「確保!」
 男の一人が叫んだ。
 男のなかでも、少し余裕のある態度で悠々と歩いてきたイワトビベンギンのような頭をした男が、警察手帳を見せてきた。
「警察です」
「……警察?」
「ご協力、感謝いたします」
 赤子のように、お姉ちゃんと繰り返す美咲を引っ張っていく警察を、私は、唖然と見送るしか出来なかった。すぐに駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られるけれど、咄嗟に動こうとした私の腕を姫島屋先生が掴んだことで、思いとどまった。
「姫島屋先生が、警察を呼んだんですか」
「ああ」
 イワトビペンギンの男の人がひとり残り、今回のあらましを簡単に説明してくれた。
 昨夜、あのあと姫島屋先生は警察に一通りのことを通報したらしい。空閑くんと真理亜ちゃんから続々と入ってくる情報も提供し、つい先ほどの美咲の自供は、携帯電話の通話で、外で待機していた警察へも聞こえていたとのことだ。
「さすがに過去の……ええー、大量の白骨についての逮捕は難しいですが、まぁ、沙賀城家当主にとっては、とんでもない醜聞になるでしょう。これまで様々な捜査を打ち切られてきましたが、なるほど、廃屋の件を隠したかったからだと、やっとわかりましたよ」
 沙賀城家当主には、我々も難しい立場でね、とイワトビペンギンが続ける。
「白骨遺体のひとつが、柳瀬中惠だったというのも間違いないんですか」
 姫島屋先生が、問う。
 イワトビペンギンの人は、頷いた。
「幸いまだ新しいものだったので、早めに鑑定結果がでましてね。歯型から、柳瀬中惠本人だと一致しました。彼女の件は、沙賀城美咲やその母親への取り調べで、詳しくわかるでしょう」
「あの、イワトビさん」
「岩戸ですが」
「イワトさん、あの、美咲ちゃん……その」
「今は、なんとも言えませんな」
 私の表情を見たイワトさんは、苦い顔で呟いた。
 それから改めて、『ご協力感謝いたします』と述べて、去って行った。
 残された私は、暫く呆然としていたけれど。姫島屋先生に声をかけられて、ふらふらと沙賀城家をあとにした。
 沙賀城家の門をくぐる途中、慌てたように荷物を抱えて出て行く使用人の女性を見かけた。美咲が、父親の愛人だと言っていたあの使用人だ。
 がらがらと、崩壊の音が聞こえた。
 空耳だろうその音は、沙賀城家という権力者が、破滅する音だ。



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