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第二章

十六、

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「きみは、初手も初手の取材屋か。神田教授がそれを望まれたのならば、随分と酷なことをされる。浅く広くなど、書物にも記載されている事柄ばかりだろうに」
「えへへ」
「褒めていないがな」
 麻野は、涼しい車内で気が抜けたのか、うとうとしつつ、首にかけたカメラを握り締めた。沢山の話を聞いて、この目で見て、カメラに沢山の光景をおさめた。
 そのなかでも、麻野が個人的に気になった場所や石碑についての写真がある。麻野が気になる場所は、なんの変哲もない川辺だったり、木々だったり、民家の隙間だったり。神田教授は、なぜか麻野のそういった個人的な趣味についても、フォルダにまとめて提出するように告げていた。
 楽しかったなぁ、とぼんやりと思う。
 暑くて沢山歩いたけれど、心が折れずに最後まで取材をして過ごせたのは、新居崎がいたからだとわかっている。最初こそぶつぶつ言っていた彼だが、いや、わりと頻繁に言っていたが、汗を拭きながらも、水分補給を盛大にしつつも、最後まで一緒に行動してくれたのだ。
「先生って、なんだかんだで、優しいですね」
 ぽつりとつぶやいた麻野は、隣で何か言い返してくる新居崎の声を聞きながら、コトンと眠りについた。

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