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第二章

二十六、

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「質問、いいですか」
「あ、ああ」
「私、どうしたら挽回できますか? 今日は、たくさんご迷惑をかけて、助けてもらったのに、先生に何もお返しできないんです。何かしてほしいことありますか?」
「ないな」
「……ですよね」
「きみは、頑張りすぎる。そこが私には卑屈に見えるんだ。もっと気楽にいけ」
 ふ、と微笑む新居崎の笑みに、麻野は、目を瞬いた。
 見間違いではないだろうか。自嘲でも嘲笑でもない、自然にあふれた優しい笑みだった。
「まぁ、「してほしいこと」は考えておこう」
「はい。あの、先生」
「今度はなんだ」
「先生って、本当に格好いいですね」
 心からの言葉だった。
 人のために動くことが出来て、人のために言葉をつづることができる新居崎は、大人として、男性として、教師として、本当に格好いい。
 麻野の純粋なる言葉に、新居崎はさっと視線をそらしたのち。
 露骨な咳払いをして、えらく数の子の美味しさについて早口で語った。そんなに美味しいなら、と浅野の分を箸でつまんで差し出すと、新居崎は一瞬だけ固まったのち、ぱくりと食べた。
 どうやら、新居崎は数の子が好きらしい。


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