駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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3.帝政エリクシア偵察録

12.マルク伯領のハンターギルド

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「はぁ、全く退屈ですわね……」

 河畔を望む眺めの良い部屋の中で、1人の少女が呟いた。年の頃は10代半ばであろうか。黄金と見間違うかの様な艶やかに光る金の髪は、如何にもお嬢様といった感じで前髪は縦ロールを優美に描き、緩やかに広がる髪は腰元で赤いリボンで軽く纏められている。
 顔立ちは勿論美しいが、人形じみた美しさといったほうが良いであろう。ぼんやり窓の外を望むその姿は、大抵の男性であれば老若を問わず、賞賛するであろうスタイルを保っている。
 少女の名前はエリーゼ・クラウディウス。帝政エリクシアの北部一帯を預かるクラウディウス公爵の長女であり、アレキサンドリアに留学中の第2王子、オリバーの婚約者となったばかりである。

「エリーゼお嬢様、この地はお父上クラウディウス公に属するマルク伯領とはいえ、事実辺境でございます。川の対岸は亜人エルフ族の自治領ですので、自由な外出は無理かと存じます」

 声をかけたのは、エリーゼ付きのメイドである。10代後半と思われる栗色の髪の美しい少女であるが、その所作や物腰は優雅で洗練されており、何処かの令嬢といわれても疑う物はないであろう。

 クラウディウス公爵は、別名を北領公爵と言われ、帝政アレクシアの北部地方全般を掌握しており、膨大な森林資源を元に、造船や林業などの木材加工を中心に、穏健な治世によって北領をエリクシア統治以前よりも繁栄させている辣腕かでもあった。
 しかし、いかに辣腕を振るえど全てがうまくいくわけでもなく、現在のクラウディウス公の血筋は長女エリーゼのみであった。
 当然の如く、領内諸貴族の嫡男はエリーゼの関心を買う為、躍起であったが、先の婚約発表によってオリバーに、油揚げをさらわれた格好となったのである。とは言え、正式な結婚までまだ最低でも数ヶ月あり、オリバーが一定の武勲を挙げることが前提であるため、まだチャンスはあると暗躍している貴族も多い。そのうちの1人が、ここマルク領を統括するマルク伯爵であった。伯爵としても、自分の所領で令嬢に怪我をされては困るらしく、事実上高級宿での軟禁の様な物である。まあ、伯爵の邸宅への滞在を固辞した結果ではあるのだか……

「この町に到着してもう二日目ですのよ。外出といえば、マルク伯宅で行われたパーティーだけ。しかも、ローラントとかいう馬鹿息子の相手をさせられただけではありませんか。
 正式な婚約が発表された令嬢に、いいよる馬鹿の相手をしにこの地に来た訳ではありませんのよ?」

 よほど腹に据えかねたのか、珍しく感情を表に出したエリーゼに対し、メイドであるヘルガは溜め息をつかざるを得ない。

「エリーゼお嬢様、淑女の話す言葉じゃありませんよ」

 ヘルガの言葉をエリーゼは無視して、言葉を続ける。

「ヘルガ、レーナを呼びなさい」

 ヘルガと呼ばれたメイドは盛大に溜め息をついたのであった。

*****

 30分後、通りを歩く2つの影があった。1人はごく普通のブリオーにロングスカートに外套姿、もう1人はやや細身の男性剣士に見えるが、目深に被った帽子で隠された顔は、繊細である。双方ともに帯剣しており、冒険者の様にみえる2人連れは、エリーゼとヘルガであった。宿にはもう1人のメイドであるレーナが残っている。レーナはエリーゼに似た容貌を持ち、ヘルガとエリーゼの声音を真似るのが得意だった為、エリーゼが御忍びで出歩く際の替え玉として、ハウスキーパーとは無関係に雇われた専属メイドである。普段は鬘を被り裏方として傍で控えているが、エリーゼの替え玉役は気に入っているようで、文句もいわずに働いている。
 町の情報を手っ取り早く手に入れるには、酒場が最適である。しかし、昼前から大勢の人で賑わう酒場など、そうそうあるわけでもない。2人はその脚を真っ直ぐにハンターギルドへと向けたのであった。
 扉を開けて入ったマルク領のハンターギルドは、町の南街門そばにあり、昼前だというのに賑わっていた。エリーゼとヘルガは周囲からの興味や揶揄やゆの視線を受けつつも、依頼の貼り出された掲示板を眺める。森林の伐採にともない、森から人里にあふれ出た魔獣や魔物、猛獣の討伐依頼の中で、樵の護衛依頼などもある。その中に、場所の記載の無い怪しげな依頼も存在する事を確認し、二人は酒場の空いたテーブル席に陣取り、雑談をしている振りをしながら周囲のハンターの話す言葉から情報を得てゆく。

「例の樵の依頼は、最近美味くないらしいぜ…」

「なんだ? 武器を持てない亜人を散らす簡単なお仕事って言ってたじゃないか。」

「それな。」

「……なんでも最近、邪妖精の悪戯が頻発するらしいぜ。依頼主の樵が必死に斧を抱えてるんで笑った途端、自分の戦斧と依頼主の斧がポチャンと水の底行きだとさ。」

「げ、それじゃ依頼失敗で武器もロストかよ……」

「あぁ、楽な仕事のつもりが大赤字。これなら溢れた魔獣狩りにでも行ったほうがまだマシだ」

 漏れ聞こえた冒険者同士の会話からすると、エルフ領へ出向く樵がいるのは間違いないらしい。いかなる防御手段が講じられたのかは想像がつかないが、武器が沈められるのでは大赤字だろう。

「エリーゼ、どうやら樵がかの地へ出向いているのは間違いないようですね」

「そうね。あとは樵がマルク伯の命令で動いている事が確定できれば完璧なんだけど……」

 2人がそんな会話をしていたとき、ギルドの扉が開いた。反射的に職員も冒険者も扉の方をみるが、すぐに会話が再会される……はずであった。しかし、沈黙がギルド内に広まったのには理由がある。
 扉を開いた人物の顔形は、逆光でよく見えなかったが、人目で小柄だとわかる。そして背に背負われた剣はまさに身の丈に届くようなと表現するに相応しい。これは人物が小柄な製もあるだろう。一瞬小柄なドワーフ族かとも思うが、ドワーフ族にしては体型が丸っこくない。
 沈黙に被われたギルド内に、その人物が入り扉が閉まると、更に違和感が広がる。室内の灯りに照らされた姿は、少女の姿だったからである。足元までの外套を羽織り、薄明かりにもきらきら光る髪は白金のよう。腰まである長い髪は、後頭部で結わえられ、髪自体も赤いリボンで広がらないように纏められていた。少女の瞳は紅瞳で、背負ったやや湾曲した剣と相まって、この地の人間では無い事を知らしめていた。
 皆が注目していることに気付くと、小さな溜め息をついて、少女は依頼の貼り出してある掲示板を暫く眺めていたが、不意にするりと入ってきたときとは逆に扉の外へと出て行ってしまった。ややあって、ぽつぽつと会話の始まった酒場のなかで、ヘルガがエリーゼに囁いた。

「エリーゼ、追わなくて良いのですか?」

 周囲では、先程の少女を酒のつまみに会話を再会する者の他に、数人の男達が席を立って扉を開けて外にでている。

「あの子の心配は要らないですわ。おそらく強い護衛か両親が傍に居りますでしょうし、もし1人だったとしても……」

「1人だったとしても?」

「あの子は恐ろしく強いはずですわ。一人で辺境のこの地を旅して、さらわれず、怪我1つ衣類にも損傷なしで切り抜けているのだから。」

 エリーゼの回答に、ヘルガは満足そうに頷いた。

「では、後を追った不埒者が殺される前に参りましょう」

 そうして2人は席を立ち、男達の後を追うのであった。

*****

「まいりましたね」

 僕は誰に言うとも無く独りごちました。北の地方ではよほど珍しかったのか、それともエルフ族の子供と思われたのかもしれませんね。ユーリアちゃんを筆頭とした、エルフ族を見慣れている僕にとっては、一定の年齢までの成長速度は人間もエルフも変わらないと知っていますので、今の僕の身長で人間の成人を超えているとは思わなかったのですが、こちらはあまり交流が無いようだから、勘違いされたのかもしれません。
 はっ、もしやこの姿が最終形態だと思われたんじゃ、いやいや、まだ身長もちゃんと伸びてますし(僅かではありますが……)、他にもちゃんと育ってるはず……

 まあ、良いでしょう。気にしていてはきりがありませんからね。僕は造船所や貯木場などの施設をぐるっと巡ります。見回したところ、それぞれの木々の量は十分あるようですので、伐採を急ぐ理由はないようですね。
 木材は伐採してからすぐ使えるわけではなく、伐採後そのまま1年寝かせて灰汁抜きをしたり、製材後も灰汁抜き・自然乾燥・陰干しなどを行います。船材として使用できるまでに早くて数年はかかる物なのに、急いで伐採だけ行っても意味はない事は、木工関連の方は承知でしょう。なのに、伐採を急がせるというのは、樹を切ればすぐに使えると思っている無知な人ということになりますね。
 後は樵の人から確証がとれれば良いのですが、僕が尋ねたのでは答えてくれない可能性が高いですね。そろそろお昼になりますが、とり合えず、街中は視線が気になるので、パンだけ買って川岸で食べましょうか。そうしてパンを購入して街門を出た僕は川岸へと向いました。

 川岸へたどり着くと、早速数人の男達に取り囲まれますが、雑魚戦は省略しましょう。判った事は彼らは見目良い人やエルフ族を攫って、売っていたと言う事だけです。他には特に情報は無いようですので、縛り上げて放置します。
 さて、早速お昼にしましょうか。簡単なアウトドア飯ですが、スープパスタにベーコンと野菜のサンドイッチを手早く作りました。ノンビリ頂こうとすると、『ぐぐぅ~』っと何処からとも無くお腹のなく音が聞こえます。最初は男達のお腹がなっているのかと思いましたが違うようですね。音がした方向を僕はジト目で暫く見つめていると、諦めたように2人の人影が現われます。まあ、隠れていたのは知っていたのですけどね。

「お姉さん方、僕に何か用ですか?」

 申し訳ないけど、パスタが伸びるので食べながらお相手します。金髪の綺麗なお姉さんのほうが顔を赤くしていますので、お腹を鳴らしたのはこちらのお姉さんなのでしょうね。もう一方は、男装の麗人って感じで、別な意味で危うい雰囲気をかもし出していますが。

「用事がある訳ではない」

「じゃあ、こっちを見てないでくださいよ。人の食事風景を見ているなんて趣味が良くないですよ?」

 顔を赤くしながら答えたお姉さんに、僕も速攻で答えを返します。ぐむぅと唸り僕を睨むお姉さんに苦笑しながら、男装のお姉さんが話しかけてきます。

「よければ、君の昼食を分けてもらえないか? 無論多少の金銭は払うつもりだ。この辺では見ない料理なんでね。お願いできないかい?」

 ん~、食材はまだ十分あるし、お姉さん方の所作や物腰から、高位な身分だろうとはしれますしね。まあ、うまくいけば情報も取れるでしょう。注意しないと僕が一方的に情報をとられそうですけどね。
 そう考えた僕は、座っている位置をずらしてお姉さん方の座る位置を確保します。その後はサンドイッチを二人前速攻で作って、お二人が食べているうちに、追加のスープパスタを作ります。背嚢から器を出して、フォークとスプーンをそえてお2人に提供しました。
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