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5.南海の秘宝
20.それぞれの戦い(クラリス編)
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陣地である丘陵が崩壊する少し前のことである。丘の麓近くの、本陣へ向うルートから多少離れた、医療班用のテントの前で、『クラリス・アメレール』は同じ魔法医療学を受講している『サンドラ・ノヴィエロ』とのんびり話をしていた。
大柄で身長が180cm、貴族出身のサンドラは、小柄で158cmの身長であるクラリスと並ぶと、周囲にでこぼこコンビなどと揶揄されていたが、美人で貴族家出身であるが、気安いサンドラとは、年齢が同年とあって仲が良いほうである。
もう1人の女性受講者である『レギニータ』は、クラリスよりも身長が高いが、島国の小国出身だけあって、食生活は魚介類が中心であり、山育ちのクラリスとは必然食事の好みも異なり、仲が悪いわけではないが微妙に距離感のある付き合いだ。
この日もレギニータは単独でフラリと姿を消しており、戦闘開始になっても戻ってこない為、2人で探そうと歩き出した時であった。
突然背後から光の奔流が周囲を覆い、咄嗟にしゃがんだものの急速に収まった光に、辺りが騒然となっている。
「おい、何が起こったんだ」
サンドラが通りかかった連絡要員らしい符術基礎受講生に尋ねた。言葉遣いに、一瞬むっとしたその受講生だが、サンドラを見ると態度が変わってしまう。
(美人は得というのはホンとですね)
内心クラリスは思ってしまうのも無理は無い。口調に一人称が『俺』というサンドラではあるが、見かけは胸元まで伸びた、緩くウェーブのかかった黒髪に、貴族家出身者であり、明らかに美形な顔立ち、大柄とはいえ褐色の肌を持ち、勿論スタイルも良いのだ。男子受けはかなり高く、実の所口調も自分を『俺』という一人称も、男避けではないかとクラリスは疑っている。
そんなサンドラからの質問に、答えない朴念仁はいないということであろう。嬉々とした表情で、実にすらすらと答えてくれた。
「実は遊撃部隊が待機していた予備陣地の丘(モット)が、魔法攻撃を受けて消滅したんですよ。そんな大魔法が遠距離で使えるわけがないと、付近の警戒を厳重にしろとの連絡なのです。では、残念ですが急ぎますので失礼します」
そういい立ち去った符術基礎受講生の男子は、本気で残念がっているようだ。そんな男子が立ち去るのを見送ったサンドラが、クラリスに向けて話した。
「あいつら、相手の実力もなにも知らずに戦を仕掛けたのかよ……、ちっ、なにか攻略方法でも見つけたのかと思っていたんだが、当てが外れたな」
「あきれた。貴方まで講師の方々と争いを望んでいたの?」
そんなクラリスの言葉に、サンドラは笑って語った。
「なに言ってんだい。強い者を倒すために挑むのは、武人の嗜みだろう? 俺も回復役を選んじゃいるが、武人でもあるつもりなんでね。当然付け入る隙があるのなら、つけ込みたいところだったんだがなぁ」
あっけらかんと話すサンドラに、クラリスは溜め息1つ。ほんとにこの人は天真爛漫というか、表裏が無い性格をしている。
「そういえば遊撃部隊って、ミッテルベルヌ王国の戦乙女、コリーヌ様がつめていたんじゃありませんか?」
クラリスの言葉に、サンドラは黒髪を揺らして肯いた。
「さすがは講師達だね。あの人はフリーにさせて置くには危険すぎるからな。こちらの大将とは格が違うか。なにもさせないで葬ったのは、流石だな」
クラリスの淡い色の金髪が、風に揺られるのを目で追ったサンドラではあったが、ふとある事に気付いた。
「あいつ、消滅したって言ってたよな? って事は、怪我人はいないのか?」
「きっと、エスケープさせられたのでしょうね。でも、確認が必要かもしれない。行きましょう」
そう言って歩き出した直後である。『ズンッ』と下から突き上げられる感覚に、片膝を付き添うになったクラリスを、サンドラが慌ててささえた。
「なっ、何が起こったの!」
クラリスの声と同時に、サンドラの『チッ』っという舌打ちが聞こえた。クラリスが顔を上げてサンドラを見上げたが、サンドラはそんなクラリスの様子に構わずに、クラリスの頭を後ろに抱えるように斜面を駆け下り始めたのである。
「ちょ、ちょとサンドラ、降ろして」
「今はそれど頃じゃない、後ろを見てて」
そうに言われて、サンドラの肩を見上げていた顔を正面に向けたその時であった。
『ドンッ』という音と共に、眼前の丘が内側から爆発したかのように土煙が上がると、雪崩の様に一気に崩れたのである。
『ズズズズズズズッ』と鈍い音を立てて迫る土煙に、多くの受講生が飲み込まれるのを見ながら、クラリスが叫んだ。
「サンドラッ、このままじゃ間に合わない。私を降ろして逃げて!」
そんなクラリスの声に、サンドラは呟いた。
「……ほんとならそうしたい所なんだけどな、この後の事を考えると、俺より必要なのは……、クラリス、『障壁』を張れ!」
「はい、《魔力よ、壁となりて敵の攻撃を弾け!障壁》」
クラリスが詠唱したのを確認したサンドラは、クラリスを前へと投げ出して、自身も魔法を詠唱する。
「《魔力よ、壁となりてこの者を守る盾となれ!障壁》」
サンドラの詠唱直後、2人は背後から押し寄せた土砂に飲み込まれたのであった。丘の麓付近に布陣させられていた、多数の戦闘実習受講生や、符術基礎受講生と共に……
*****
クラリスが目を覚ましたのは、土砂に巻き込まれてそんなに時間が経ってはいないだろうというのは、目にした光景から想像がついた。
もうもうと土煙があがり、受講生側が陣地としていた丘はすでにその高さを大幅に減じていた。
サンドラを探そうと、声をあげようとしてクラリスは思いとどまり、唇を強く噛む。ここは演習とはいえ戦場。味方陣地が壊滅状態に陥った中で、声を上げて人を探していては、良い的となってしまう。
(全く、あの人は自分を残らせる為に犠牲になったんです。それを無駄にしては……)
魔法医療学受講生は、5人とも魔力の基礎容量が常人よりも多いことが選抜された原因でもあることを、クラリスは知っていたのである。そして、5人の中で最も魔力容量が少ないのがサンドラであることも。そして、サンドラ自身がそれを知っていたことも。
周囲を見渡したクラリスは、今回の実習の意味を考えてみる。周囲に誰もいないが、言葉に出す事で自分の考えを纏めるのだ。
「致命傷を受けたと判断された者は即時エスケープさせられる。軽傷の者は自ら戦地へ向うか、戦意を失って射殺されますね」
クラリスの視界に、呆然と佇んでいた符術基礎受講生が、見えないほどの遠方から飛来した矢を胸に受けて、エスケープさせられるのが見えた。
「100名余りの受講生に対し、魔法医療学受講生は5名、いえ既に4名以下。実際の戦闘であれば、救命を考えなければいけないけど、この場で必要とされるのは、強力な講師達へと立ち向かう力ね。ならば、治療順位は戦意を保ったまま、身動きの出来ない怪我をした者」
走りながら周囲を確認すると、比較的怪我人の少ないパーティーを見つけ、駆け寄った。
「医療班の者です。怪我人はいますか?」
丘の上から流されてきた大岩の影で、矢を避けていたPTのリーダーは、驚いた表情をみせた。
「あ、あんた、丘の上から流されて無傷だったのか。こっちは麓にいてもこの有様だ」
手早く状況を確認したクラリスは、背負っていた背嚢から、左腕に傷を負った槍使いから応急処置を行う。
「すみませんが、負傷者が多いので完治させることはできません。とりあえず、貴方は本陣のあった場所へ向かってください。既に残存兵力と講師PTの戦闘が開始されています」
そういいながら、戦闘復帰が可能な者から最低限度の治療を行うクラリスをみて、リーダーは唸った。
「おい、普通は重傷者から治療すべきだろう。こっちの魔術師の治療を頼む。こいつが復帰できれば、PTとして何とか活動できるんだ」
そう言ったリーダーが指をさすのは、小柄で細身の魔術師だが、彼女の左太ももは大きく裂けて傷は深い。
「……この方は戦闘参加は無理です。簡易の治療では痛みは相当残りますが、その状況では詠唱はできないでしょう。止血はしますがそれ以上の治療には時間がかかります。戦闘復帰ができないのであれば、今は彼女を放棄して戦闘参加してください」
「なっ、仲間を見捨てろというのか」
リーダーの言葉に、複数のPTメンバーが頷くが、クラリスは簡易的な治療だけを済ませると立ち上がった。
「これは実戦のようで実戦ではありません。彼女の体が心配なら、致命傷を与えてエスケープさせてください。すぐに外部で治療され、昼には普通に食事も戦闘も可能となります。
命が保証され、味方がほぼ壊滅している今回の戦闘では、戦力が一人でも必要なんです。状況判断を試されている事に気が付かないのなら、この場で彼女を守りつつ、何もできずに講師達に倒されなさい」
常ならば優しく慈悲深いクラリスの、厳しい言葉に、この場の他の面々は凍り付いたが、一人魔術師の少女だけは違った。突如クラリスに持っていた杖を向けたのである。
「風球」
魔法名だけの簡易詠唱とはいえ、ゼロ距離で放たれた風の魔法に、小柄なクラリスの体は大きく弾き飛ばされるが、ダメージにはならない。そして、クラリスを攻撃した魔術師は、遠方から飛来した青白く輝く炎針に貫かれて、フィールドを去ったのであった。クラリスを狙って背後から迫る炎針に気づいたのは、クラリスの背後が見えていた魔術師だけだったのである。
「今の風球が無ければ、二人とも戦線離脱していた……」
脇腹を抑えながらも立ち上がるクラリスと、いまはエスケープさせられ居なくなった魔術師の少女がいた場所をみて、リーダーは決断した。
「行くぞ、あいつの犠牲を無駄にしねぇためにも、一太刀くらいは化け物講師達にあびせるぞ」
「「「「おう!」」」」
駆け出す5人を見送った後、クラリスは魔術師の少女が倒れていた場所に向かって深く一礼する。
「ありがとう。貴女とサンドラの二人に助けられたこの命で、より多くの戦士たちを講師達に向かわせますね……」
その場を去ったクラリスは、その後も戦闘可能な戦士達の治療に専念した。背後に現れたクロエに至近距離で炎針を撃ち込まれるまで……
クラリスが戦闘に復帰させた人数は10名ほどであったが、山体崩落後の実働戦力のほぼ半数を彼女は戦線に復帰させたのである。
炎針に撃ち抜かれ倒れるクラリスは、イリスがほほ笑んでいたのを倒れながらも眼にし、満足気なほほえみを浮かべてエスケープしたのであった。
大柄で身長が180cm、貴族出身のサンドラは、小柄で158cmの身長であるクラリスと並ぶと、周囲にでこぼこコンビなどと揶揄されていたが、美人で貴族家出身であるが、気安いサンドラとは、年齢が同年とあって仲が良いほうである。
もう1人の女性受講者である『レギニータ』は、クラリスよりも身長が高いが、島国の小国出身だけあって、食生活は魚介類が中心であり、山育ちのクラリスとは必然食事の好みも異なり、仲が悪いわけではないが微妙に距離感のある付き合いだ。
この日もレギニータは単独でフラリと姿を消しており、戦闘開始になっても戻ってこない為、2人で探そうと歩き出した時であった。
突然背後から光の奔流が周囲を覆い、咄嗟にしゃがんだものの急速に収まった光に、辺りが騒然となっている。
「おい、何が起こったんだ」
サンドラが通りかかった連絡要員らしい符術基礎受講生に尋ねた。言葉遣いに、一瞬むっとしたその受講生だが、サンドラを見ると態度が変わってしまう。
(美人は得というのはホンとですね)
内心クラリスは思ってしまうのも無理は無い。口調に一人称が『俺』というサンドラではあるが、見かけは胸元まで伸びた、緩くウェーブのかかった黒髪に、貴族家出身者であり、明らかに美形な顔立ち、大柄とはいえ褐色の肌を持ち、勿論スタイルも良いのだ。男子受けはかなり高く、実の所口調も自分を『俺』という一人称も、男避けではないかとクラリスは疑っている。
そんなサンドラからの質問に、答えない朴念仁はいないということであろう。嬉々とした表情で、実にすらすらと答えてくれた。
「実は遊撃部隊が待機していた予備陣地の丘(モット)が、魔法攻撃を受けて消滅したんですよ。そんな大魔法が遠距離で使えるわけがないと、付近の警戒を厳重にしろとの連絡なのです。では、残念ですが急ぎますので失礼します」
そういい立ち去った符術基礎受講生の男子は、本気で残念がっているようだ。そんな男子が立ち去るのを見送ったサンドラが、クラリスに向けて話した。
「あいつら、相手の実力もなにも知らずに戦を仕掛けたのかよ……、ちっ、なにか攻略方法でも見つけたのかと思っていたんだが、当てが外れたな」
「あきれた。貴方まで講師の方々と争いを望んでいたの?」
そんなクラリスの言葉に、サンドラは笑って語った。
「なに言ってんだい。強い者を倒すために挑むのは、武人の嗜みだろう? 俺も回復役を選んじゃいるが、武人でもあるつもりなんでね。当然付け入る隙があるのなら、つけ込みたいところだったんだがなぁ」
あっけらかんと話すサンドラに、クラリスは溜め息1つ。ほんとにこの人は天真爛漫というか、表裏が無い性格をしている。
「そういえば遊撃部隊って、ミッテルベルヌ王国の戦乙女、コリーヌ様がつめていたんじゃありませんか?」
クラリスの言葉に、サンドラは黒髪を揺らして肯いた。
「さすがは講師達だね。あの人はフリーにさせて置くには危険すぎるからな。こちらの大将とは格が違うか。なにもさせないで葬ったのは、流石だな」
クラリスの淡い色の金髪が、風に揺られるのを目で追ったサンドラではあったが、ふとある事に気付いた。
「あいつ、消滅したって言ってたよな? って事は、怪我人はいないのか?」
「きっと、エスケープさせられたのでしょうね。でも、確認が必要かもしれない。行きましょう」
そう言って歩き出した直後である。『ズンッ』と下から突き上げられる感覚に、片膝を付き添うになったクラリスを、サンドラが慌ててささえた。
「なっ、何が起こったの!」
クラリスの声と同時に、サンドラの『チッ』っという舌打ちが聞こえた。クラリスが顔を上げてサンドラを見上げたが、サンドラはそんなクラリスの様子に構わずに、クラリスの頭を後ろに抱えるように斜面を駆け下り始めたのである。
「ちょ、ちょとサンドラ、降ろして」
「今はそれど頃じゃない、後ろを見てて」
そうに言われて、サンドラの肩を見上げていた顔を正面に向けたその時であった。
『ドンッ』という音と共に、眼前の丘が内側から爆発したかのように土煙が上がると、雪崩の様に一気に崩れたのである。
『ズズズズズズズッ』と鈍い音を立てて迫る土煙に、多くの受講生が飲み込まれるのを見ながら、クラリスが叫んだ。
「サンドラッ、このままじゃ間に合わない。私を降ろして逃げて!」
そんなクラリスの声に、サンドラは呟いた。
「……ほんとならそうしたい所なんだけどな、この後の事を考えると、俺より必要なのは……、クラリス、『障壁』を張れ!」
「はい、《魔力よ、壁となりて敵の攻撃を弾け!障壁》」
クラリスが詠唱したのを確認したサンドラは、クラリスを前へと投げ出して、自身も魔法を詠唱する。
「《魔力よ、壁となりてこの者を守る盾となれ!障壁》」
サンドラの詠唱直後、2人は背後から押し寄せた土砂に飲み込まれたのであった。丘の麓付近に布陣させられていた、多数の戦闘実習受講生や、符術基礎受講生と共に……
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クラリスが目を覚ましたのは、土砂に巻き込まれてそんなに時間が経ってはいないだろうというのは、目にした光景から想像がついた。
もうもうと土煙があがり、受講生側が陣地としていた丘はすでにその高さを大幅に減じていた。
サンドラを探そうと、声をあげようとしてクラリスは思いとどまり、唇を強く噛む。ここは演習とはいえ戦場。味方陣地が壊滅状態に陥った中で、声を上げて人を探していては、良い的となってしまう。
(全く、あの人は自分を残らせる為に犠牲になったんです。それを無駄にしては……)
魔法医療学受講生は、5人とも魔力の基礎容量が常人よりも多いことが選抜された原因でもあることを、クラリスは知っていたのである。そして、5人の中で最も魔力容量が少ないのがサンドラであることも。そして、サンドラ自身がそれを知っていたことも。
周囲を見渡したクラリスは、今回の実習の意味を考えてみる。周囲に誰もいないが、言葉に出す事で自分の考えを纏めるのだ。
「致命傷を受けたと判断された者は即時エスケープさせられる。軽傷の者は自ら戦地へ向うか、戦意を失って射殺されますね」
クラリスの視界に、呆然と佇んでいた符術基礎受講生が、見えないほどの遠方から飛来した矢を胸に受けて、エスケープさせられるのが見えた。
「100名余りの受講生に対し、魔法医療学受講生は5名、いえ既に4名以下。実際の戦闘であれば、救命を考えなければいけないけど、この場で必要とされるのは、強力な講師達へと立ち向かう力ね。ならば、治療順位は戦意を保ったまま、身動きの出来ない怪我をした者」
走りながら周囲を確認すると、比較的怪我人の少ないパーティーを見つけ、駆け寄った。
「医療班の者です。怪我人はいますか?」
丘の上から流されてきた大岩の影で、矢を避けていたPTのリーダーは、驚いた表情をみせた。
「あ、あんた、丘の上から流されて無傷だったのか。こっちは麓にいてもこの有様だ」
手早く状況を確認したクラリスは、背負っていた背嚢から、左腕に傷を負った槍使いから応急処置を行う。
「すみませんが、負傷者が多いので完治させることはできません。とりあえず、貴方は本陣のあった場所へ向かってください。既に残存兵力と講師PTの戦闘が開始されています」
そういいながら、戦闘復帰が可能な者から最低限度の治療を行うクラリスをみて、リーダーは唸った。
「おい、普通は重傷者から治療すべきだろう。こっちの魔術師の治療を頼む。こいつが復帰できれば、PTとして何とか活動できるんだ」
そう言ったリーダーが指をさすのは、小柄で細身の魔術師だが、彼女の左太ももは大きく裂けて傷は深い。
「……この方は戦闘参加は無理です。簡易の治療では痛みは相当残りますが、その状況では詠唱はできないでしょう。止血はしますがそれ以上の治療には時間がかかります。戦闘復帰ができないのであれば、今は彼女を放棄して戦闘参加してください」
「なっ、仲間を見捨てろというのか」
リーダーの言葉に、複数のPTメンバーが頷くが、クラリスは簡易的な治療だけを済ませると立ち上がった。
「これは実戦のようで実戦ではありません。彼女の体が心配なら、致命傷を与えてエスケープさせてください。すぐに外部で治療され、昼には普通に食事も戦闘も可能となります。
命が保証され、味方がほぼ壊滅している今回の戦闘では、戦力が一人でも必要なんです。状況判断を試されている事に気が付かないのなら、この場で彼女を守りつつ、何もできずに講師達に倒されなさい」
常ならば優しく慈悲深いクラリスの、厳しい言葉に、この場の他の面々は凍り付いたが、一人魔術師の少女だけは違った。突如クラリスに持っていた杖を向けたのである。
「風球」
魔法名だけの簡易詠唱とはいえ、ゼロ距離で放たれた風の魔法に、小柄なクラリスの体は大きく弾き飛ばされるが、ダメージにはならない。そして、クラリスを攻撃した魔術師は、遠方から飛来した青白く輝く炎針に貫かれて、フィールドを去ったのであった。クラリスを狙って背後から迫る炎針に気づいたのは、クラリスの背後が見えていた魔術師だけだったのである。
「今の風球が無ければ、二人とも戦線離脱していた……」
脇腹を抑えながらも立ち上がるクラリスと、いまはエスケープさせられ居なくなった魔術師の少女がいた場所をみて、リーダーは決断した。
「行くぞ、あいつの犠牲を無駄にしねぇためにも、一太刀くらいは化け物講師達にあびせるぞ」
「「「「おう!」」」」
駆け出す5人を見送った後、クラリスは魔術師の少女が倒れていた場所に向かって深く一礼する。
「ありがとう。貴女とサンドラの二人に助けられたこの命で、より多くの戦士たちを講師達に向かわせますね……」
その場を去ったクラリスは、その後も戦闘可能な戦士達の治療に専念した。背後に現れたクロエに至近距離で炎針を撃ち込まれるまで……
クラリスが戦闘に復帰させた人数は10名ほどであったが、山体崩落後の実働戦力のほぼ半数を彼女は戦線に復帰させたのである。
炎針に撃ち抜かれ倒れるクラリスは、イリスがほほ笑んでいたのを倒れながらも眼にし、満足気なほほえみを浮かべてエスケープしたのであった。
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------------------------------------------------------------------
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