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5.南海の秘宝
19.それぞれの戦い(デーゲンハルト編)
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ほうき星の様に青い尾を引く『炎針』は、魔法の中でも分類上は5段階中の下から2段目、『下級魔法』に相当する。単体攻撃魔法の『火針』とは異なり、術者の力量でその数を増やし、複数攻撃を可能とした、ただそれだけの魔法である。
しかし、クロエが頭上に生成した『炎針』を見て、そんな甘い物では無い事は、魔法をかじっただけの駆け出しでさえ理解できた。
青白い炎は、鋭く研ぎ澄まされただけではなく、周囲の空気を巻き込んで回転している。貫通性を重視した攻撃である事は容易く理解できた。まして炎針を構成する炎の色は蒼。燃焼する物質での色が変化している訳ではない『魔法』の炎の温度は、色がそのまま温度を示します。太陽の様な白色で6000℃であり、蒼い炎は7000℃以上。大抵の物質は跡形も無く蒸発してしまう。
「なんとっ、専用の魔道具がなくてもこれほどの威力とは……」
デーゲンハルトは狼人族の戦士の治療を続けながらも、視界の片隅に見える不穏な蒼い炎で形成された『炎針』を見て、悔しそうな顔をして諦めの表情を浮かべた。
魔法医療学を受講している彼は、クロエやイリスの人間離れしている『力』は幾度か目にしており、符術基礎や戦闘実習の受講生達とは異なり、その能力の高さは知っているつもりであったが、魔道具での力の底入れも大いにあると思っていたのである。
20歳のデーゲンハルトは魔法医療術の受講生であり、同受講生の中では最年長である。以前は負傷した仲間の回復を行なうだけであったパーティーの回復役であったが、講義の中で自分自身を守る必要性や、時に防御魔法や軽減魔法を併用して、味方自体が負傷しないように努める必要性を理解する上で、クロエからの攻撃をかわす訓練などを行なった経験もあった。
白髪紅瞳の小さな少女が繰り出す様々な攻撃魔法は、加減されていても受講生の張る防御や軽減魔法を容易く貫いていたのだから、なかば真面目(本気ではない)に繰り出される魔法を、自分達が防御できるとは思えなかったのである。
(治療を続けるか、回避するか……その判断を求められるのも試験の内という訳でありますか。駄目と判っていても、最後の瞬間まで諦めないのが冒険者であります。簡単にやられては、それこそ教えを受けたあの方々に失礼でありますからね)
打ち出された『炎針』は、緩やかな弧を描いて3方向へと飛び、その内の一本はデーゲンハルトに真っ直ぐ向ってくる。
「《魔力よ、壁となりて敵の魔法を弾け!魔法障壁》」
咄嗟に唱えた魔法は『魔法障壁』。それを意図的に、左胸、心臓の前に一点に凝縮し、『炎針』の進行方向を変える事をねらったものだ。
余力を残しては力負けすると、全ての魔力をつぎ込んだ『魔法障壁は、一瞬『炎針』と拮抗したが、勢いを押し留める事は出来ずに僅かに進行方向を逸らす事が出来たのは、誰かの力が加わったからだ。
至近距離を『炎針』が通過した事で、生じた火傷の痛みを無視して、狼人族の方を振り向くと、その隣で汎用符術盤を展開した1人の受講生の青年と目が合った。その青年の右足は、ありえない方向に折れ曲がり、骨折していることは明らかだった。
「ありがとうであります。君の支援魔法が無ければ、いまの攻撃は避けることは出来なかったのであります」
符術盤を手にした受講生は、痛みを堪えながらも、デーゲンハルトと狼人族の青年を見て言う。
「演習に参加して、1枚も『符』を使わずに終ったんじゃ、符術士とはいえないからな。狼人族の人、あんたに『17卦.兵仁者』をかける。治療が途中でも、短時間ならまともに動けるはずだ。俺達の分も合わせて、せめて一撃入れてやってくれ」
符術士の青年が使った『17卦.兵仁者』の『符』は、短時間とは言え個人の持っている様々な能力を引き上げる事が出来る。いかにも支援向けの『符』ではあるが、防御陣を張ったり、属性能力を上げる『符』にくらべて、符術士自身に結果がわかりにくく、人気が少ない『符』であった。たまたま、地味な『符』を所持する事を選択していた符術士がそばにいた事が、デーゲンハルトと狼人族の青年の命を助けたともいえる。
「すまないが、頼む。こちらも、何もせずに屠られたのでは、仲間に申し訳が立たぬところであった。貴君らの治療と支援に恥じぬ一撃を仕掛けてこようぞ」
狼人族の青年はいうが、但し結果は約束できぬがなと呟いて、手にした槍を抱えて講師PTへと向っていった。ヒーラーを狙った二次攻撃は、いまのところ各処で立ち上がった受講生が講師PTへ攻撃を仕掛けることで、何とか抑えられているらしい。
デーゲンハルトは、符術士の青年の側により、折れている右足の治療にはいる。とはいえ、先ほどの防御に魔力の殆どを回ししのいだ為、骨の整形と固定をしたところで魔力切れとなってしまったが、後は添え木と包帯による固定だけだ。
魔力切れでふらつきながらも、添え木の固定を終え、デーゲンハルトは何とか立ち上がる。
「はぁ、疲れたのであります。魔力切れするのは、教えに反しますが、今回はどうしようもなかったでありますね」
そう呟いたデーゲンハルトの肩を、ポンっと誰かが叩いた。
「魔力切れになるまで、治療お疲れ様。だけどね……、ここは戦場だって事を忘れちゃ駄目だよ」
慌てて振り向いた視界の下の方に一瞬移った、白い髪に赤いリボン。それが、デーゲンハルトがこの演習場でみた最後の光景となったのである。
しかし、デーゲンハルトは満足した気分でフィールドを後にしたのである。なぜなら、腹部を強打されて倒れる瞬間、満足そうに微笑む明るい色をした金髪の少女が視界の端にいたような気がしていたから……
しかし、クロエが頭上に生成した『炎針』を見て、そんな甘い物では無い事は、魔法をかじっただけの駆け出しでさえ理解できた。
青白い炎は、鋭く研ぎ澄まされただけではなく、周囲の空気を巻き込んで回転している。貫通性を重視した攻撃である事は容易く理解できた。まして炎針を構成する炎の色は蒼。燃焼する物質での色が変化している訳ではない『魔法』の炎の温度は、色がそのまま温度を示します。太陽の様な白色で6000℃であり、蒼い炎は7000℃以上。大抵の物質は跡形も無く蒸発してしまう。
「なんとっ、専用の魔道具がなくてもこれほどの威力とは……」
デーゲンハルトは狼人族の戦士の治療を続けながらも、視界の片隅に見える不穏な蒼い炎で形成された『炎針』を見て、悔しそうな顔をして諦めの表情を浮かべた。
魔法医療学を受講している彼は、クロエやイリスの人間離れしている『力』は幾度か目にしており、符術基礎や戦闘実習の受講生達とは異なり、その能力の高さは知っているつもりであったが、魔道具での力の底入れも大いにあると思っていたのである。
20歳のデーゲンハルトは魔法医療術の受講生であり、同受講生の中では最年長である。以前は負傷した仲間の回復を行なうだけであったパーティーの回復役であったが、講義の中で自分自身を守る必要性や、時に防御魔法や軽減魔法を併用して、味方自体が負傷しないように努める必要性を理解する上で、クロエからの攻撃をかわす訓練などを行なった経験もあった。
白髪紅瞳の小さな少女が繰り出す様々な攻撃魔法は、加減されていても受講生の張る防御や軽減魔法を容易く貫いていたのだから、なかば真面目(本気ではない)に繰り出される魔法を、自分達が防御できるとは思えなかったのである。
(治療を続けるか、回避するか……その判断を求められるのも試験の内という訳でありますか。駄目と判っていても、最後の瞬間まで諦めないのが冒険者であります。簡単にやられては、それこそ教えを受けたあの方々に失礼でありますからね)
打ち出された『炎針』は、緩やかな弧を描いて3方向へと飛び、その内の一本はデーゲンハルトに真っ直ぐ向ってくる。
「《魔力よ、壁となりて敵の魔法を弾け!魔法障壁》」
咄嗟に唱えた魔法は『魔法障壁』。それを意図的に、左胸、心臓の前に一点に凝縮し、『炎針』の進行方向を変える事をねらったものだ。
余力を残しては力負けすると、全ての魔力をつぎ込んだ『魔法障壁は、一瞬『炎針』と拮抗したが、勢いを押し留める事は出来ずに僅かに進行方向を逸らす事が出来たのは、誰かの力が加わったからだ。
至近距離を『炎針』が通過した事で、生じた火傷の痛みを無視して、狼人族の方を振り向くと、その隣で汎用符術盤を展開した1人の受講生の青年と目が合った。その青年の右足は、ありえない方向に折れ曲がり、骨折していることは明らかだった。
「ありがとうであります。君の支援魔法が無ければ、いまの攻撃は避けることは出来なかったのであります」
符術盤を手にした受講生は、痛みを堪えながらも、デーゲンハルトと狼人族の青年を見て言う。
「演習に参加して、1枚も『符』を使わずに終ったんじゃ、符術士とはいえないからな。狼人族の人、あんたに『17卦.兵仁者』をかける。治療が途中でも、短時間ならまともに動けるはずだ。俺達の分も合わせて、せめて一撃入れてやってくれ」
符術士の青年が使った『17卦.兵仁者』の『符』は、短時間とは言え個人の持っている様々な能力を引き上げる事が出来る。いかにも支援向けの『符』ではあるが、防御陣を張ったり、属性能力を上げる『符』にくらべて、符術士自身に結果がわかりにくく、人気が少ない『符』であった。たまたま、地味な『符』を所持する事を選択していた符術士がそばにいた事が、デーゲンハルトと狼人族の青年の命を助けたともいえる。
「すまないが、頼む。こちらも、何もせずに屠られたのでは、仲間に申し訳が立たぬところであった。貴君らの治療と支援に恥じぬ一撃を仕掛けてこようぞ」
狼人族の青年はいうが、但し結果は約束できぬがなと呟いて、手にした槍を抱えて講師PTへと向っていった。ヒーラーを狙った二次攻撃は、いまのところ各処で立ち上がった受講生が講師PTへ攻撃を仕掛けることで、何とか抑えられているらしい。
デーゲンハルトは、符術士の青年の側により、折れている右足の治療にはいる。とはいえ、先ほどの防御に魔力の殆どを回ししのいだ為、骨の整形と固定をしたところで魔力切れとなってしまったが、後は添え木と包帯による固定だけだ。
魔力切れでふらつきながらも、添え木の固定を終え、デーゲンハルトは何とか立ち上がる。
「はぁ、疲れたのであります。魔力切れするのは、教えに反しますが、今回はどうしようもなかったでありますね」
そう呟いたデーゲンハルトの肩を、ポンっと誰かが叩いた。
「魔力切れになるまで、治療お疲れ様。だけどね……、ここは戦場だって事を忘れちゃ駄目だよ」
慌てて振り向いた視界の下の方に一瞬移った、白い髪に赤いリボン。それが、デーゲンハルトがこの演習場でみた最後の光景となったのである。
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